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4 堕天と急転直下

 衝撃な事実を告げられた私は、グルグルと回りながら頭を抱えておりました。

考えが纏まらないのです。どうしたらいいのか分かりません。

追放と言う二文字が頭を駆け巡っております。


「だだだだ、堕天ってあれですか?心が闇に堕ちて羽が黒くなって。

いやでも、私は湿疹ってやつが出来ただけで。

あれ?けど、ざらざらとかは私には出来ないはずで」


 ああ、おかしい。

少し前まで私は平和にのどかに樹精ちゃん達の水遣りを……


「落ち着け、堕落の堕天じゃねぇ。堕天病と言う病気の一つだ。

すげぇ久しぶり過ぎて誰も彼も忘れていたがな」

「うぇっ」


 一人パニックしていると再び、視界が無くなりました。

本日二回目のアイアンクローです。

私、これでも女子。女子ですから!


 幸いな事に手は直ぐに外されました。

先ほどよりは落ち着いたいつもの意地悪そうな顔のルキフェル様。

暴力的な行為は困りますが、普段道理のルキフェル様を見るとちょっぴり安心します。


「堕天病?」

「地上の生き物みてぇに生理現象が起きる病気だと」

「せいりげんしょう?」

「ああ。生物が生命を営む為に起こる体の働きの事を生理現象と言うらしい。

地上の生き物には、こういった体の動きが見られるそうだ。種族の違いはあるがな。

 記録に残っている報告だと、羽虫の場合は最初はお前みたいに湿疹が出来たりする。他にも爪が伸びたり、髪が伸びたりとかな。男なら髯が生える」


 そう言って、ルキフェル様は顎の辺りを押さえました。

そうですよね。髯って生やそうと思わないと生えませんもの。

変な感じですよね。私も爪が伸びるとか、ちょっと分からないです。


「末期になると食物を取らないと死んでしまうし、睡眠も必要となる。呼吸や排泄とかもあるらしいぜ。そこまでくりゃ、ほとんど人間だな。」

「人間」


 私は呆然と呟きました。


「ここで人間になれば、お前は100%消滅だ。いや、この場合死亡だったか」

「……なんで、そんな病気に」


 天上にいる私達にも涙や汗などはあります。

もう忘れて欲しいのですが、さっき痛みの余り涙と鼻水まで出しちゃったでしょう?


 喜怒哀楽を伝える手段として生き物に似た表現の為に汗や涙はあります。

食事や入浴は楽しむ為です。それは概念であって決して生理現象ではありません。

そうあるべく作られましたので、そういうものだとしか言い様が無いのですが。


 ですから、私に排泄などはありませんし、食事だって別に取らなくても良いのです。

羽虫は何もしなくても天上で暮らしていけます。私達は精神体なのですから。


 天上に属する全ての物が天に存在を認められた、精神体です。

ルキフェル様と私と樹精ちゃんはそれぞれ別個の個体で、

力の大きさも全然違いますが、同じ精霊体。皆、認められています。

 人間は地上にあるべしと定められているので、天に人の居場所はありません。

だから人間になると言う事は、天に認められなくなると言う事。自動的に追放です。

 それで堕天病と名付けられたのでしょう。

処遇だけなら堕落して羽が黒く染まり追放されてしまうのと大差が無い気がします。



「3回天前に俺の元に報告があって調べていた。

埋もれすぎていて時間が掛かったが、常世の時代にも同じ現象の病気があった。

その時には50体近くが消滅したらしい」

「……50体?」

「そうだ」


 ルキフェル様は少しだけ苦い顔をしました。

ああ、シリアスやめて下さい。恐ろしいです。


「こいつは伝染病だ。

当時は誰も知らない病気だった為に感染者は呼吸が始まったり、

体温が保てなくなったりして消滅していったそうだ。

ああ、消滅じゃなくて死亡だな。遺体は消滅せずに死体として残った。

死体はこの下見の泉から下に落としたらしい」

「落とした、のですか?」


 私は思わず、自分で自分を抱きしめました。

この広い天上で50体の犠牲者なら凄い感染率です。

私も落とされちゃうのでしょうか?

あ、でも羽がある内に地上に降りたら命は助かるのでしょうか?


「さて、セパル」

「は、はい」

「お前、いつもの様にハブられていたよな」

「う、うう。はい」

「衛生係の呼び出しも知らなかった位だからな。

ちなみに堕天病は精霊達は発病しないとされている。良かったじゃねぇか」


 ルキフェル様はにんまりと微笑みました。

発病したのはお前だけだと麗しい瞳が語っています。


「ううう」


 恥ずかしながら、私はわりと孤立気味なのです。

でも、今回はそれで良かったのでしょうか。堕天病って伝染病だそうですし。

羽がある内に地上に降りて人間として暮らしていけば、

私が人間になる決意さえ固めれば。……固めれば。


「もう一つ朗報だ。治療法も既に分かっている」

「へっ?」

「前の流行で50体程で収束したのは治療法が確立したからだな」


 治らないと決め付けて人間になる覚悟を決めようとした私に、

違う角度からの衝撃が襲いました。

思わずルキフェル様のお顔をまじまじと見つめてしまいます。治療法ですか!?

ああ!ルキフェル様の後ろに後光がっ。


「治る。治るんですか?」

「ああ。ただし」


 気のせいでしょうか?ルキフェル様のご機嫌が再び急降下です。

後光は消え、後ろから黒いオーラと稲妻の幻影が。

良く見るとルキフェル様、目の下に薄っすら隈が見えます。

 思わず私はこくんと唾を飲み込みました。


「ただし?」

「一度地上に行かなきゃ治らねぇ」

にやりと凶悪な笑顔です。


「ぼっちのてめえは俺とだけは、よく面合わせてたよな?」

「あ!」

「そもそも感染疑いのてめぇに俺が直々に会う地点で気付きやがれ!」


 あう。そうでした。

広い天上、ぼっちな私。

そう言えば、ここしばらくルキフェル様としかお会いしていません。

だから、ルキフェル様が動いて下さったのでしょう。

 つまり私はルキフェル様に―――


「ひう!?」


 ありがとうございます。本日三回目のアイアンクロー戴きました!


「ご丁寧に俺を巻き込んでくれてありがとさんっ。

一緒に地上観光と行こうぜぇ~~~」

「うわ~ん。ごめんなさい~~~~~~~~~」










 そうして私は何だか良く分からないまま、

堕天病の治療に地上へと落下していったのです。

多分、下見の泉に頭から突っ込んで行ったと思うのですが、

不思議と水に濡れた感じはありませんでした。


……どこでそんな病気貰ってきちゃったのでしょう?

そして、このまま行くと私、地面に後頭部打ち付けませんでしょうか?

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