3 吹き出物と堕天
何だか、とっても残念な主人公になってしまっています。
設定と文章力のせいですね。
出会い頭にアイアンクローをかまし、
顎クイした後、舌打ちされたルキフェル様でしたが、
現在、私の襟首を掴んで連行中です。音速の速さで飛んでいます。
うわわわわん。風が顔に当たって痛い。
しかも、後ろにルキフェル様の身体が。これも地味に痛い!
首根っこ掴んだまま高速で飛ぶので重力が凄くて、
前方からの風圧と後ろのルキフェル様に潰されそうなのです。
「うわぁ。ル、ルキフェル様?」
ぽいっと投げられた時には半分意識が無くなっていました。
投げられたと言っても下は雲です。痛くはありません。
お尻がぽふんと雲の上に乗っかったと同時に、
私はキョロキョロ辺りを見回しました。
……ここは下見の泉?
下見の泉とは天上から地上を覗ける場所です。
雲の地面の上にオアシスのように草木が生え、泉があります。
こんこんと湧き出る水がどこに消えているのか分からないのですが、
透き通った泉を覗くと人間達の住む地上を見下ろす事ができます。
ここで覗きたい物を念じると見たい所を見る事ができるそうです。
天と地を繋ぐ唯一の場所なのですよ。
でないと、地上の方が入り放題ですからね。
でも、おかしいですね。
下見の泉は偉い人の許可が無いと入れないはずですが……
ちなみに下っ端の私はこれまで近づいた事すらありませんでした。
「セパル」
「ひゃい」
不安を感じて辺りを見回していたら、真面目な感じで呼ばれてびっくりしました。
ルキフェル様はいつも私の事をチビとかお前とかしか呼ばないので。
なんだか酷く真面目な顔をしています。
紅紫色の瞳の瞳にじっと見つめられて……
私はそう。何と言いますか。蛇に睨まれた蛙です。
嫌な予感しかしません。私の本能が全力で危険を叫んでいます。
ルキフェル様のこの雰囲気、ただ事ではありません。
「首もとの湿疹。いつからだ?」
「え?」
一瞬、何を言われたか分かりませんでした。
戦争でも始まるかと思ったのですけれども、ぽかんと呆ける私。
首もとのしっしん?しっしんって何でしょう?
触ってみるとざらざらしました。
ぽつぽつと何か核を持った突起物が私の肌に出来ています。
「ええっ?何ですかこれ」
「……気づいていなかったのか」
さっきの顎クイはこれを見るためだったのですね。
乙女的何やらに舌打ちされた訳ではないのですね。
でも、私はそれどころじゃありません。
慌てて全身を顔とか服の中とか、ルキフェル様の前というのも忘れて、
夢中で探っています。
顔は大丈夫。腕やお腹、背中は……大丈夫。
胸元は首から少し広がってるかも。うええん。気持ち悪い。
おかしいのです。
肌に良く分からないざらざら。こんなのなった人いません!
見た事も聞いた事もありません。湿疹って何ですか?
「うえええぇ。ルキフェル様~。これ、私っどうしちゃったんでしょうか?」
「湿疹があるのは首んとこだけか?」
「えっと、首の下の方も少しあります。後は無いです」
「そうか……」
半泣きで答える私に、
ルキフェル様は沈痛な表情で仰いました。
「堕天しかかっている」と。
その瞬間、稲妻に打たれたような衝撃を受けました。
だって、堕天ですよ。堕天。そんなのあんまりです!