2 呼び止められてアイアンクロー
水遣りを終えて、お昼ご飯でも食べるか~と、
ふよふよ飛んで帰路についていた時、呼び止められました。
「チビ」
相変わらず、素晴らしく耳に麗しい声です。美声です。
でも、私は反射的にぞぞぞぞーと悪寒が走り、
口の中が乾いて苦い味が広がりました。
身体はパキンと固まり、ふわんと雲の上に着地。冷や汗がだらだら出ます。
ルキフェル様苦手なんです。怖いんです。
えっと、いや大好きですけども、尊敬していますけれども。怖いんです。
「おいおいおい。チビ。
お前、朝、俺んとこ来いって言ってたよなぁ?」
「ひっ」
うえぇぇえ?知りません!
物凄く。もんの凄く機嫌悪いです!ルキフェル様。
12枚の羽をさっと畳んで、ふわりと目の前に降り立ったルキフェル様は、
まるで噂に聞く魔王の様な怖い顔をしてずんずんと歩いてきます。
黒髪なのも無駄に整ったお顔も怖いです。
後ろには何だか黒いオーラと稲妻な幻覚が見えます。
……堕天していないですよね?
「んきゃんっ」
「まさかと思うが、忘れたりしてねぇよな?ああ?」
あ、アイアンクローです。これアイアンクローですよね?
がしって頭を掴まれて何も見えません。
いや、それよりも痛っ!痛い。
「お前、単なる呼び出しじゃねぇってのは分ってたんだろ。
それを無視したらって……ああ」
ぎりぎり締め上げながらルキフェル様が何か仰っていますが、
痛いです。それどころじゃないです。
危うく意識が飛びそうになる一歩手前でようやく開放されました。
うああ。何かまだツーンってします。
涙と鼻水で乙女の顔じゃなくなっていますよ。嫁入り前ですよ。泣きますよ私。
目の前には呆れた顔のルキフェル様。
ううう。ルキフェル様って暴力的なんです。
偉い人なのに。偉い人なのにっ。偉い人なのにぃ!!
「お前、またあいつらにハブられてんだろ。」
「え?あ?あいつら?」
「いや。もういい。めんどくせぇ。
直々に俺の方から来てやったから、もうこれで済ます」
何やら分からない内に話が進んでいます。
「な、何が起こってるんですか?」
「あぁ?」
……いや、その睨むのやめて下さい。
と、ルキフェル様の眼力にびびっているうちに、
ルキフェル様は私の顎をくいって持ち上げました。
コレは所謂、顎クイってやつでは!?
「ふぇ!?」
「チッ」
今度は舌打ち戴きました。何でしょう?心に大きなダメージを受けました。
先程からアイアンクローとか舌打ちとか……
もう、泣いていいですか?