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イベント翌日、二学期終業式後に部室へと集まったゲーム研究部の年長組は、まだ巨大な自信喪失から立ち直ってはいなかった。
がんばって作ったゲームが誰にも認められなかった。たった一人の支持も得られなかった。有り得ない出来事として忘却したかった。
「奥が深いのか、海が広いのか、ただわたしたちが浅くて狭いのか」
由愛がつぶやいた。
志穂のため息が続く。
「ゼルスのときより効くなぁ。実力がないってのが証明されたわけだし」
落ち込む二年生グループに比べ、一年生たちは前向きだった。
「しかたないですよ。これも結果です」
「次いこう」
「悔しくないのかい、二人は?」
「悔しいですよ。だからきのういっぱい泣いたじゃないですか。でも、結果は覆らないし、負けっぱなしはもっとイヤです」
「勝つまでやる」
「……やれやれ」志穂が背筋を伸ばしてイスに座りなおした。
「後輩にハッパかけられるようじゃおしまいだな」
「素直に頼もしいと褒めておこうか」
由愛も立ち直るきっかけを得た気がした。カラ元気でもないよりはマシだった。
「頼子ちゃんの言うとおり、またみんなでがんばろっ」
桂も吹っ切るようにコブシを振り上げる。
理利子は幼馴染の復活に喜び、自然と笑顔になれた。
「とは言うものの、やはり現状のままではいられないね」
「部員募集でもするか?」
「それも大切だが、なにより個人のスキルアップが重要だろう。このままだといつまでも理利子にオンブダッコだ」
「だね。ならわたしはプログラムを覚えようかな」
桂が考え込む。が、由愛に「無理だ」と即ダメだしされた。
「なんでー!?」
「桂、数学の成績は?」
「………………」
長い無言が続いた。
「――というわけだ。必須とは言わないが、プログラムはパズルだよ。与えられた命令というピースを効率的に並べて組み立てるね。なのでそこはわたしが受け持とう」
「そんな大げさなものでも……」理利子がフォローをいれるが、桂も由愛も聞いていなかった。
「はーい、それならわたしはグラフィック担当がいいです!」
「頼子ちゃん、絵が描けたっけ?」
「ぜんぜん。美術は1ですよ」
皆、シューティング・ゲームを作っていたときのエピソードを思い出した。マップ・チップの配置にセンスのかけらもなかったことを。
「なら、なんで志望を?」
「昔から描きたいとは思ってたんですよ。絵が描ければいろんな妄想も形にできるじゃないですか。これは好機です!」
「ネクロヨリコンがプラス方向に発動してる……」
「目に見える失敗フラグなんだが」
志穂たちの頬がヒクつく。だが、動機はともかくやる気があるのをとめるわけにはいかなかった。
「ヒカリはシナリオ担当ねっ」
「意味不明」
頼子に名指しされ、陽光は心底迷惑そうな顔をした。
「だって、立派な中二病素養があるじゃない。それを伸ばせばいいもの書けるよ」
「中二病じゃない」
「じゃ、違くていいからがんばろっ。ゲームがダメでもわたしとマンガで食べていけるかもしれないよ」
「わたしはプロ・ゲーマー志望」
「ヒカリ、夢みすぎ。もっと現実見なきゃ」
「くっ……」
『頼子にだけは言われたくない』と部員全員が心の中でツッコんだ。
「まぁまぁ、とりあえずだから深く考えないで。途中で別の素質に気付くかもしれないし」
志穂がとりなすと、陽光はあきらめたようにため息をついた。
「そういう志穂は?」
「あたし? 残ってるのは音楽か? まぁ、音ゲーはキライじゃないけど、作曲は別モンだろ」
「ゼルスのメロディー作ったじゃない」
「あれは鼻歌を譜面におこしただけだろ。メロディー・ラインだけじゃ音楽と言えない」
「音が拾えるのは重要だと思うよ」
「由愛はまた、いいかげんなことを――」
「まぁまぁとりあえずだから」
陽光が抑揚もない声で横槍を入れた。
「あ、おまえ! ……って、わーったよ。とりあえずだからなっ」
「フフフフ」
赤い帽子の奥の目が光ったように志穂には見えた。
「あれ、そしたらわたしは?」
「ん? プロデューサー?」
「それって必要?」
「別に」
「えー!? わたしも何かやるー!」
「じゃ、監督で」
「いっしょだよー!」
ゲーム研究部は賑やかだった。扉をノックしかけた美惑は微笑み、きびすを返す。ちょっとした喜びを彼女たちに伝えようとしたが、必要はなさそうだった。それ以上のひとときを満喫しているのだから。
「わたしも次のゲームにかかろうかしら」
スマートフォンのネット掲示板アプリを落とし、ポケットにしまう。
彼女の立ち去る音は桂たちには聞こえなかった。それが来るときよりも大きく軽やかになっていたことなど誰も知らない。美惑自身も気付かなかった。
* * *
『会場でじっくり遊べるゲームじゃないだろ、これ』
『後日投票なら入れてたな』
『今4階。オーガー強すぎwww』
『早いな。オレまだ2階でアイテム集め中』
『魔法あたらねー』
『ランク3の杖でも命中率20%アップ出るぜ?』
『マジで? 追加ダメージばっかだ』
『オレのクリティカル率+30%の斧には敵うまい』
『強すぎだろそれ。名前なんだった?』
『……野兎のハンドアックス』
『弱そwww てか形がウサギだったりwww』
『炎帝のグレートソードで氷属性攻撃な件』
『あるあるw』
『このゲーム、見た目で損しすぎだよな』
『作った奴、ぜったいオッサンだろ? オッサンホイホイすぎる』
『高校のゲーム研究部って作者欄にあるぞ』
『うは、オタクの巣窟w』
『おまえら会場行ってないHPからのDL組だな?』
『???なんでわかるんだ???』
『会場行ったヤツなら知ってるはず。そこのブース、女子高生だけだった』
『まじでかー!!!!!1!』
『ちょっとネット投票行ってくる』
『ないだろw』
『ええい、専用スレッドはまだか!』
* * *
それから一月後、私立空城北高等学校・ゲーム研究部あてに一つの小包が届く。
中には賞状と盾が入っており、『第一回プログラム・コンテスト ゲーム部門・特別優秀賞』と書かれていた。
なお、この時点でファンタジアスは五〇〇〇ダウンロードを超え、ダントツでユーザーからの支持を集めていた。
<了>




