わたしの幼馴染はとてもかっこいいらしい
わたしの幼馴染はとてもかっこいいらしい。
と、わたしが気付いたのは、わたしが中学2年生になってわりとすぐだった。
中学に入りたての頃、幼馴染はわたしよりも全然チビで、つまり全く少しもモテなかった。
わたしは彼の顔が整っていることに気付いてしまっていたが、華麗に気にしなかった。
彼はクラスの中心でギャーギャー騒いでいるだけのサルみたいな男の子のうちのひとりで、顔が整っていてもチビだし煩いしバカっぽいし、まぁ全く少しもモテていなかった。
そんな彼の身長は、成長期に入ってにょきにょきと伸びた。
それに従って、元々顔立ちが整っていた幼馴染はモテにモテるようになった。
「なぁ、あかり。俺ってかっこいい?」
しかし彼の中身は何も変わらなかった。
相変わらずサルで、バカだった。
"ギャーギャー騒いでるクラスの中心人物"という呼び方が"クラスの明るい雰囲気に一役買っているクラスの中心人物"になっただけで、中身はわたしが知る単純バカのままだった。
「いやいや、(確かにちょっとかっこいいかもしんないけど、いやでも)フツー。フツーったらフツー」
単純バカはいつものようにわたしの言葉にこくりと頷いた。
「そうか、フツーか」
わたしのおかげで、多分きっと彼はナルシストにならずに済んだに違いない。周りにもてはやされればされる程、調子に乗る男なのだ、バカだから。
昔から、人のいうことはとっても素直に聞いてくれるいい子なのだ、我が家の愛すべき単純バカは。
そんなバカにも、彼女ができました。
まぁ当然と言ったら当然の流れだった。愛すべき単純バカの初カノは、隣のクラスのユキちゃんだった。ちなみにめっちゃ可愛い。バカをお迎えに来たユキちゃんをわたしは多分4度見した。
そんな可愛いユキちゃんと付き合い始めて3週間、わたしはバカにキレた。
「アンタ彼女出来たんだから、ウチ来んのちょっとは自重しろ!」
当然のようにリビングのソファに寝っ転がって、ポテチを食べていたバカは、ぽかんとこちらを見上げて来た。
「え。何で?俺んちプレステないの知ってんだろ」
イラっときたわたしが滔滔と彼女持ちの男の何たるかについて(少女マンガ仕込みの)説教をしたら、ぶすっとした顔をした幼馴染は、暫くウチに来なくなった。と思ったら、2週間後に彼女と別れた。
何でだ。ユキちゃん可愛かったのに。
そんなわたしたちも、めでたく高校生になりました。
あれ以降相変わらずウチに入り浸ってゲーム三昧だった我が幼馴染は、ゲームでは兄貴とわたしにボコボコにされながらもそれからも2回ほど彼女を作り、そして別れた。まぁ、そのペースについてはわたしが言うところではない。関係ないし。
そして高校生になって早速、彼には美人な彼女ができた。
かく言うわたしも、高校生になって色々とトライしてみることにした。
高校デビューとまでは行かないが、"女子は男子よりも早熟"と言う言葉を幼馴染に見事に逆にやられたわたしは、華の女子高生のうちに初カレを見事にゲットしてやろうと思ったのだ。肉食系女子。
まず、早起きして化粧をするようになった。
イケメンが常に隣にいたわたしは、中学時代常に幼馴染の影だった。散々地味なくせにと言われていたのは知っていた。卑屈になっていたわけではないが、化粧をしたらちょっとはマシになるかもしれないと思ったのも事実である。結果、中学からの友に可愛くなったと言われてわたしは満足だ。肉食。
それから、早起きしてお弁当を作るようになった。…まぁこれは、母にそろそろ自分でやれとのお達しを受けたせいだが。
そんなこんなで、わたしの高校デビュー(仮)はなかなか順調だった。
しかし、6月になってそろそろクラスメーツといい感じに慣れ親しんできても、わたしに告白してくれる優しげな男の子や、わたしが告白したくなるような放っておけない感じの男の子は、現れなかった。なんでだ。
まぁきっと、違うクラスや先輩ら辺にいるに違いない。焦る必要はない。
そんなこんなで肉食とは程遠いJKライフを送るわたしとは対象的に、幼馴染は順調にモテモテライフをエンジョイしていた。本物の肉食女子の牙にかかりまくっているのか。いや奴こそが肉食なのかもしれない。今度ご教授願ってみようと思う。
「ふふん。今日は卵焼きが美味しく出来たんだ、兄貴にも褒められる出来」
そこら辺のある日の昼休み、珍しく自慢したくなった弁当の具を箸でぶっさして食べようとしたら、何故か後ろから伸びてきた手がわたしの手を強制的に後ろに動かして、そしてぶっさされた卵焼きは奴の口へと消えた。あり得ん。
唖然とするわたしを尻目にまぐまぐと口を動かすと、奴は何事もなくホントだ、うまいと呟いた。
「…わたしの…」
呆然と呟く間に奴の手が再び伸びてきて、あろうことか弁当箱に残っていたもう一個の卵焼きすらも奴の口の中に消えた。まじ、あり得ん。
「あかり、料理上手くなったなぁ。俺にも弁当作ってきてよ」
全力で睨むわたしのことを気にもせずに、のほほんと奴は言う。
「彼女に作ってもらうのがいいと思うよ」
完全に棒読みでそう言うと、何故だか奴はにやっと笑った。
「作ってきてよ」
「意味わかんないし意味わかんないから嫌」
そもそも、彼が何故わたしに声を掛けて来たのかがわたしには理解不能だった。
高校に入って見事に別のクラスになったわたしと彼は、わたしの家以外の場所で言葉を交わすことはほとんどなかったし、そもそも高校入ってわりとすぐに彼女が出来てから彼はわたしの家には来ていなかったから、ちゃんと喋るのは1ヶ月ぶりくらいだった。
こんなに喋らないのは初めてのことだったが、我が幼馴染は、あれ以来ちゃんと彼女がいるときは我が家に来ないのだ、わたしの言うことは相変わらず聞いてくれる愛すべき単純バカよ。
てなわけで、目の前にこいつがいるのが全く分からない。
「何か用?」
「弁当作ってきてくれた?」
昨日の今日でうちのクラスにやって来たこいつは、何が楽しいのかにこにこと笑いながら手を差し出した。いや意味わかんない。
「いや意味わかんない」
思ったことがそのまま出ても、勿論こいつは気にしない。伊達に長い間過ごして来たわけではないが、今はちょっとため息を吐きたくなる。
教室のそこここでイケメンの笑顔に色めき立った声が聞こえる。ああもう、こいつが悪いわけではないのは分かってるが、わたしの高校デビュー(仮)が。
「昨日作って来てって言ったじゃん」
「美人な先輩に作って貰えって言ったじゃん」
昨日はこいつが帰ったあと、色めく女子高生に囲まれて辛すぎた。今日もそうなるのか、もう帰りたい。
高校に入ってからほとんど喋っていなかったせいか、わたしとこいつの幼馴染という関係を期待して話しかけて来る人は今まであまりいなかった。実は凄く仲が良いんじゃないかとクラス中に話題になった昨日の今日で、正直なところ来ないで欲しかった。来るならせめて家がよかった。ああ、相変わらず考えなしのおおばかやろうめ。
「ああ、先輩とは別れた」
そんな思考の淵に沈んでいたからか、何を言われたか一瞬理解できなかった。
「んん?なんか言ったかな、ん?」
「だから、別れたって」
教室は騒然、わたしは唖然。
わたしの前で爽やかに言うなよ。
だいたい、早くないかなイケメンくん。
まぁ、そのペースについては(以下略)
「な、だから作って来てよ、明日から」
にっこりと笑って言われて、嫌がって嫌がって嫌がっても最終的にこくんと頷くわたしも大概、昔からこのバカに甘いのだ。ああ、あり得ない。女子の視線が居た堪れない(気がする)。
そんなこと考えたところでどうせこいつは今日からわたしの家に入り浸るんだろうし、もう、わたしとこの男の縁をいつまで結び続ける気だろう神様は。
ため息を吐くわたしの横で、ラッキーとかいいながら色んな要求をして来るバカの言うことは一切聞かない。唐揚げをいれろだって?嫌だね、明日はハンバーグって決まってるんだ。
わたしの幼馴染は、とてもかっこいいらしい。
(イケメンなところが迷惑な幼馴染は、バカで単純で愛しいわたしの親友です)
読んでくださりありがとうございます!
今のところ続く予定でございますー
感想とか改良点とかその他色々、下されば嬉しいです。