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テンションアップダウン第二回フィーと愚かなボク3

「フィールってさぁ…最近先輩とよく一緒に帰ってるよねぇ?」

「うっ……ん」

「フィールは先輩の事が好きなの?」

「えっ!……そのっ……」

「……好きなの?」

「恋愛的にでは好きじゃないよ……」

「そっか!あのねあのね!アタシ先輩のことが好きなの、良かった~ライバルじゃなかったね!」

「……」

「アタシは先輩が好きだから好きじゃないフィールは馴れ馴れしく接しないでね!」

「でもっ……」

「友達でしょ、ね!」

「わかっ……た」

「ありがと」

「…………」


 ゴールデンウィークが終わり少しするとフィールがオレを避け始めた。

「フィール!」

「っ!?」

 オレは強行手段をとり、フィールの教室前に行った。

「ちょっと来てくれ」

 オレは教室に背を向け、そのまま歩き出す。


 中等部校舎から少し離れた所に位置するベンチに二人で腰掛ける。

「なんでだよ……なんで最近オレを避けたりすんだよ!……悲しいだろ…」

「…………ごめんなさい」

「ごめんなさいって…………まさかっ!」

 最悪の展開が脳裏をよぎる。

「フィールはオレのこと嫌いになったのか?」

「違っ!!!」

「じゃあ何で!」

「友達との約束だからです……」

「約束って……」

「約束は守らないとだめなんです!友達だから!」

「…………」

 オレはフィールを強く抱きしめた。

 抑えられなかったんだ。

「友情なんてどうでもいい……頼むから一緒に居てくれ」

「…………先輩」

 フィールは優しくオレの事を抱きしめ返してきた。

 その後は一緒に帰ったのだが次の日、フィールは学校を休んだ。

 次の日も、その次の日も……。

 オレはまた一人で過ごすようになってしまった。


「……先輩一緒に帰りませんですか」

 その日はたまたま出待ちの連中が集会などと言って全員がいなくなったので、体が多少軽くなったく気分で帰ろうとしたとき不意に話しかけられた。


「……どうしたの?日和身ちゃん」

「フィールの事です」

「っ!?」

 オレ達は寮の近くにある公園に来た。

 お互いに無言っあったため、どうしようかと悩んだあげくオレから口を開こうとしたとき、日和身ちゃんが先に話し始めた。

「ゴールデンウィークが終わって直ぐにフィールは先輩の事を溺愛している女子に呼び出されたんです。」

 彼女が語ったのは次のようなことだった。

 フィールのクラスにオレの事が好きな奴がいたこと。この前フィールはクラスメートに嘘をついてオレと一緒に帰ったこと。さらにフィールはオレと一緒に帰っていたことで出待ち達の怒りを買ったこと。もちろんクラスメートにもバレたこと。

「今日は久し振りに学校に来たんですけど……元気なくて」

「…………」

「どうしたんですか?」

 オレの顔を見た日和身ちゃんは疑問符を浮かべているだろう。それもそのはずオレは額に指を当ててリズムよく叩いているからだ。

「……日和身ちゃん、今日オレは校門前で出待ち達に会わなかった、何故だ?」

「へっ?……わからないです」

「正解は集会があったからだ、第二に今日どうして突然フィールは来たんだ?」

「元気になったから……ですか?」

「ならなんでさっき元気がないって言ったんだ?」

「……もしかして!」

「多分な!急ぐぞ!!!」

 オレ達は一つの仮定に至った。それは最低なものだった。


 引き戸を開けて中に入る。そこには多数の生徒と机しかない。

「……フィールはどこだ」

 静かな怒りを出来るだけ抑えて近くにいた女子に聞いた、しかし返ってくる返事は理解できないものであった。

「先輩!聞いてくださいよ!!私達先輩のファンクラブを創ることにしたんですよ!!」

 会話が成立しない、人として何かがおかしい。

「フィールは何処だ!」

 恐怖によって出てきた叫びは情けない感じだったしかし、こいつ等は気にした様子もなく自分勝手に話し始めた。

「私達最初はバラバラだったんですよでも先輩というお方がいらしたお陰で一つに成れたんですよ!!」

 恐怖で顔が歪む。

「すみません!!フィールは何処にいるのですか」

 後ろに隠れていた日和身ちゃんが一歩前にでて言うと、全員が同時に声を発っした。

「「「何くっついてんだよ!!ファンクラブ会員でもないくせに!!」」」

 その一言にオレらは言葉を失った。


 次の日日和身ちゃんのクラスに足を運ぶと、休みだと言われた。

 午後突然の全校集会が行われた。

「えーっ、中等部三年のフィールガルシアさんが昨夜から行方不明になられております。何か知っていることがありましたら担任の先生に報告してくださいえーっ…………」

「っ!?」

 フィールが行方不明になったと聞き足に力が入らなくなってしまいその場にへたり込んでしまった。

 そしてとてつもなく嫌な予感が体を走った。


 予感は最悪の結果を運んできた。

 また集会が行われたのだ。

「皆さんまたうちの生徒が行方不明になっております、フィールガルシアさんと同じ三年生の日和身さんが行方不明になられました二人の情報を知っている人は…………」

 目の前が真っ暗に染まりその場に倒れてしまった。


 ちゃぽちゃぽと何かを水に浸ける音が、頭近くでする。

 独特の香りが鼻を刺激する。

 頭が冷える感覚に包まれながな目を覚ます。そこはベッドの上だった。

「磯川原さん?」

 寝ているオレをのぞき込むようにして見て来る女子はルームメイトの磯川原さんだった。

「何かあったの?」

「……」

 正直立て続けに色々なことがあったため何から話せばよいのかわからなくなっている、でも何か言わないと……吐き出さないと壊れてしまうかもしれない。

「……行方不明になっている二人と関係があるの?」

「…………うん」

 オレは今までの経緯を簡単に話した。


「だからオレはファンクラブの奴らが何処かに監禁したんじゃないかと考えているんだけど」

「「決定的な証拠がない」」

 静かに首を縦に振り肯定いた。

 磯川原さんは静かに目を閉じ思案する。

 体感時間で一時間はたったような気がするが実質数十秒位だろうか、磯川原さんは目を開きオレに一つの質問をしてきた。

「フィールちゃんと日和身ちゃんを見つけたいの?」

「当たり前だ!」

「……なら放課後私について来て」


 放課後になると磯川原さんは友達に挨拶を済ませるとオレの席に近づいて来た。

 オレが無言で立ち上がると、磯川原さんも無言で歩き始める。


 いつの間にか場所が中高で一緒に使う部活棟に足を踏み入れていた。

「まだ着かないの?」

「もう少しだから」

 階段を上り廊下を進む。新設された校舎だけあって中は綺麗だったがとても静かだった。

 徐々に不安になるが気持ちを抑え足を動かす。

「着いたよ」

 目の前には今まで歩いてきた廊下にもあったような扉が設置されていた。

「先輩、居ますか?」

 ノック三回の後にドアノブを回す、すると中には綺麗な机と椅子長いソファー、その他色々なものが置いてあった。

「先輩?…………あっ!」

「どっどうした!?」

 いきなり大きな声を出したのでビックリしてしまった。

「部屋間違えた」

「…………」

 こいつ本当に大丈夫かなぁと思ってしまったのは、おそらくはオレだけじゃないはず。


 本当はもう一つ上らしいので、もう一度階段を上がりまた廊下を歩く。

「先輩いますか?」

「いっるよー」

 物凄く間抜けな感じを連想させる声に膝がガクッと崩れかける。

「失礼します」

 ガチャリと扉を開こうとするが、鍵がかかっている。

「?先輩、鍵が掛かっているんですけどぅ」

「己の力を使ってあけたら入れるよー」

 何かなこの展開。

「分かりました」

「制限時間は三十秒、よーい……ドン!」

「開きましたよ」

 ガチャリとノブを回して開く。あの一瞬で何があったんだ!?

「いいよ、海苔ちゃん入りなよ……ドアにもう一度鍵をかけてね」

 オレの目の前でドアを閉められる。

「次は君だよ……開けてみてよ、よーい……ドン」


「いやいやよく入ってこれたねー」

 部屋の内側から声を発していたのはオレと同じ位の背をした女子だった。

「まずは自己紹介をするね。私は吠天丹沙はいてんにすな、この部活で部長を務めている者だ」

 吠天と名乗った女は椅子に座りながら、偉そうに話しかけている……しかし身体中に巻かれている縄のせいで偉そうに見えない。

(何故縄が……)

「この縄は私を縛るためにあるのだよ」

 「縛る目的以外で縄って使わなくないかなぁ」などと思案しているが相手はお構い無しに話を進める。

「先輩には放浪癖が有るからこうしないといけないんだけど……」

「ってか、ここって何部なの?」

 最初の方に聞くべき質問だったが考えるのもめんどくさ「それくらい自分で考えろよ」いと、思ったが前言撤回する。

「…………文芸部?いやっ……イラスト部かなぁ」

「根拠は?」

「部屋に何もなくなおかつ室内で出来る物、そこから推測したんですけど……あってますか?」

「教える訳ないじゃん」

 殺意すら覚える言葉に反論せず黙ってる、すると直ぐに彼女は言葉を続けた。

「君はこの部活が何部なのかを知りたくて来たのかい?違うよねぇ?速く聞きたいことを聞いた方が良いんじゃないかなぁ?手遅れになる前にさぁ……ね?」

「オイ!!どういう事だよ!手遅れになる前ってよ!」

「落ち着きなさい!」

 ピシャリと言われ身体がビクッとなり、吠天先輩に詰め寄ろうとして出した足を元の位置に戻す。

「大まかな話を海苔ちゃんこと磯川原から聞いたから一応理解はしてるは、だから落ち着きなさい!落ち着かないと考えがまとまらない、そしたら発見も遅れるのよ」

「……オレは何をすればいい」

「何もしなくていい、私が場所を絞り込めるまでは」

 この人を信じなければフィールと日和身ちゃんは見つからないだろう、しかし本当に信じられる人かどうかわからない、オレはもう人を信じられないからだ。同じ過ちを引き起こさないためにも人を信じる事が出来ない。 オレの心中を察したように、今まで黙っていた磯川原さんが口を開いた。

「信じてみて、私も吠天先輩に救われたから……」

「磯川原さんも?」

「うん……半年くらい前に一度ね」

 磯川原さんを救った吠天先輩を一度だけ最後に信じてみることにした。

「あの二人を救ってください、お願いします」

 久々にでこに感じたひんやりとした感覚を今でもボクは覚えている。


「今日で三日目になりますがフィールガルシアさんに関する情報や日和身さんに関する情報は有りませんか?」

 昨日に引き続き捜索は続いてるらしい、しかし未だにまともな証言すら無い状態だ。

「えーっ、次に今朝方高等部第二学年の吠天丹沙さんが何者かに襲われ、重症を負いましたえーっ……」


「何処に行くの」

「決まってる!自力で二人を捜すに決まってんだろ!!」

 放課後一目散に教室を出ようとしたところで磯川原さんに止められた。

「結局あの人も口だけじゃないか!何も救ってくれないじゃないか!!!」

「吠天先輩はちゃんとあなたを助ける!」

「重症の人間に何が出来るんだよ!」

 俺の肩を掴み引き止めようとした磯川原さんを振り切って走り出す。

「なら天児第二病院の二百三号室に行きなさい!」

 最後に聞こえた言葉は、何故か行かなければならないと感じさせた。


「ここか……」

 面会不可と書いてあるのだがどうしても吠天先輩に会わなければならない気がする。

 ここに来るまで、ひたすら町を駆け回り二人の事を探したが何一つ成果はなかった。

「……失礼します」

 がらりと扉を開ける大きな音が鳴りピクリとしてしまう。だがそれ以上に驚いたのは、先輩の身体だった。足や腕、喉に巻かれた包帯、数々のチュウーブが至る所に繋がっている。

「…………」

 オレはその場に手足を付け頭を肩よりも下げた。

「すみませんでした!先輩をこのようなことに巻き込んでしまい、なのにオレ……オレ!!!」

 瞳から一滴づつ零れ落ちる物を強引に拭い、立ち上がる。

「先輩、必ず二人を見つけますだから!」

 先輩に一歩近づこうとしたときに後ろの扉が開かれた。

「君!何しているの!面会謝絶の部屋に入っちゃだめでしょ!」

 そこに立っていたのは看護士さんだった。

「すみません、どうしても先輩に謝りたくて……」

「……君この患者さんの知り合い?」

 あまり喋ると泣いていたのがばれるため無言で頷く。

 すると看護士さん服のポケットから一枚の紙切れを取り出しこちらに差し出してきた。

「この患者さんが握り締めていたもの何だけれど、あなたならわかると思って……」

 内容を読んだ瞬間オレは額に指を当てすぐに走り出した。後ろから聞こえる患者さんの怒声もすでに聞こえない。

 紙にはただ一言だけ書いてあった、『犯人は同じ場所に足を運ぶしかも門限があるのに』と。


 重い扉を押す、部屋の中は埃臭く、そして蒸し暑い。

「食事よ」

 使わなくなった机の上に乱暴に置く、そのせいで埃が舞い食事に入る。

「埃が入ったからって……勿論全て食べるよね?」

「……」

 無言で机に近寄りスプーンを手に取るとそのまま口に近づける。

 すると食事を運んできた女は綺麗な銀髪だった髪の毛を鷲掴みにし、口を耳元に近づける。

「いただきますは?」

「……ます」

「何?聞こえないんだけど」

「いた…だきま…す」

 我慢が出来なかった。しかしここで止めるわけには行かない、もう一人捜さなくてはいけないからだ。

「ゆっくり食べて良いんだよ?」

 女は扉を再度開けて中からでる。

 独り残された女生徒は黙々と食事を食べ進めている。


「あの女大人しくなった?」

「あれだけやればなるっしょ」

「とどめにアレやりますか」

「アレ?」

「アレっていったらアレでしょ!」

「今から駅に行って、みんなで一人ずつオジサンをつれてくればいいんじゃん」

「アレってこのことだったんだ」

 部屋から聞こえる声は複数、しかしアイツの声だけがない。

「よっしゃ、行きますかぁ」

 部屋の中で人が立ち上がる気配を感じ、俺も動く。

「邪魔するぞ」

 扉をゆっくりと開き中へと足を進める。

「あっ!」

 中に存在していた奇妙な雰囲気は消え、ファンが出す独特の空気を放ち始める。

「どうしたんですか?私たちに何かご用ですか?」

「フィールと日和身は何処だ?」

 優しい口調で問いかける。しかし帰ってきた返事は予想の範囲内を出ない物だった。

「先輩!今から私たちと食事に行きませんか?」

「人の話をちゃんと聞こうぜ?二人は何処だ?」

「知りませんよ」

 やはり誤魔化してきた、しかしもう許さない。

「じゃあもう少しこいつを痛めつけてからもう一度聞くから」

 ドサッと音を立てて何かが倒れる。

「こいつはフィールに食事を渡していたんだけど……コイツが最初にファンクラブの所に行ったとき居たのをよく覚えてるよ……なのに誤魔化すのか?」

「「「……」」」

 今度は黙ってしまっう。

「…………」

 部屋を静寂が包む。

「黙ってんじゃねぇ!!!」

 近くにあったパイプ椅子を蹴る、衝撃で椅子が吹っ飛ぶ。

「生きて帰れると思うなよ!!!」

 全員が恐ろしい物を見るような表情でこっちを向いている。


「……ここに居るのか」

 体育館内にある用具室、そこの地下に部屋があることをボクはもちろん、ファンクラブの奴らまで最近まで知らなかったらしい。

 ガチャリと大きな音を立てながら開く入り口、梯子を降りて直ぐの扉の前に立つ。

「ここにあいつが居るのか……」

 部屋の入り口を開け中に入ると何かが動く気配を感じた。

「居るんだろ、オレだよわかるか?」

「……」

 何かの動きが止まりこちらの様子を伺っている。

「犯人……というか黒幕がやっとわかったぜ…………」

「日和身ちゃん、何でフィールに酷いことをしたんだ?友達じゃなかったのか?」

「………………」

「答えろよ!」

 オレの怒鳴り声が部屋に響く。

「……あの子が裏切るから」

 静かな怒りが隠った声を絞るように出す。

「あの子が裏切った。あの日アタシが先輩の事が好きって話をし、その後一緒に教室に見に行ったんですけど先輩は居ませんでした。」

「仕方なく達は購買部に行きました、そしたら先輩がいらっしゃって、どうにか話がしたかったんです、だからアタシたちはあそこで先輩を助けたんです」

「しかし先輩がアタシ達の体に触れたとき急に恥ずかしくなって逃げ出しちゃいました……何故かあの子も」

「その日からフィールの付き合いが悪くなったんですよ」

「そしてゴールデンウィークの後にあの子がずっと先輩と過ごしていたって聞いて……」

「だからアタシ聞いたんですよ!あの子に、先輩のことが好きかどうかを。そして好きじゃないって答えたはずなのに……あの子が……裏切るから」


「確かに嘘と裏切りを許せないのはオレも同じだ」

 日和身が語り終えたとみて次に自らの考えを語る。

「でもな!お前があの日ファンクラブの連中をそそのかさなかったら……」

「先輩は全てを知っているんですね」

「いや肝心なことがわからないよ」

 「語って下さい、真実を……」と日和身が言うので話した。

 オレが考えたことを……。

「まず最初にこれを見ろ」

 彼女に向けて紙を差し出す、しかし受け取られなかった。

「……この紙には吠天先輩が残した答えが書いてあったんだ、犯人は……実行犯はそれに気づかなかった。この紙に書いてあることから実行犯達はうちの学校の寮で生活してる奴だと考えた」

「何故かと言うとそれは寮生以外に門限が基本的に存在しないからだ、寮以外に自宅から学校に通っている生徒も確かに存在するが基本的にそんな人たちは車が多い」

「これだけじゃ決定打に欠ける……だから寮生だと仮定して考えてみた、すると第二のヒントが生きてくる……」

「犯人はやっぱり犯行現場に足を運ぶんだよ、だからオレは一つの賭に出た……」

「門限過ぎてから寮を出る人物に絞って待ちかまえていた」

「だが賭は失敗だった、寮から出た奴は一人もいなかった」

「しかしその後一つ気が付いたんだよ、帰ってから行くんじゃなくて、帰る前に行ったらってね」

「予想は当たったよ、寮の夕食時に空いている席が三つ、寮母さんに聞いたら全員が課外活動のために帰りが遅くなるって連絡をいれていたんだよ」

「その後オレは寮を抜け出し学校に戻った」

「そして一人の女子を尾行、フィールを見つけたんだ」


「でもやっぱりわからないんだよ」

 そこで一拍置いてから疑問を口にする。

「何故日和身ちゃんが監禁されているのか」

 全くもって謎だった、ファンクラブと協力し、フィールを懲らしめようとしたのは予想がついた。しかし何故か日和身が一緒にファンクラブの所に行きファンクラブに刃向かったのか。

 オレの話を終始無言で聞いていた日和身が口を開く。


「最初にアタシがフィールを懲らしめる為にファンクラブをけしかけたんです」

「そしてあの子を少しの間イジメてやろうと考えたんですよ」

「しかしあの人達はフィールをイジメることを止めようとはしなかったんです」

「だからアタシはあの日先輩を待っていたんです」

「何とかしてもらおうと思って……」

「先輩の言うことなら聞くと思って……」

「しかし駄目でした」

「しかも先輩と寮で別れた後にファンクラブの人達に呼び出され……」

「今の現状に至ります」


「……そう言うことだったんだな」

「はい」

 日和身の話を聞き終わり自分の中で結論を出した。

「やっぱり悪いことは悪いよ、だから……」

 またそこで言葉をためる。

「フィールに謝ろう」


「フィールちゃんは許してくれるでしょうか……」

「……さぁーな」

 オレの冷たい物言いに日和身はまた静かになる。

 オレ達は今廊下を無言で歩いている、しかし頭の中は夏休み前の朝会のような騒がしさがあった。

 一つだけ、未だにわからないことを日和身には隠していたのだ。

 誰が吠天先輩に怪我を負わせたのか……。

「先輩?」

「ん?」

 「ファンクラブの部屋ってここですよ」と言われようやく自分が部屋を通り過ぎていたことに気づく。

 何故だか本能が警鐘を鳴らしている。

 軽く頭を振り邪魔な思考を追い出す。

「入るぞ」

 ノックも無しにドアを開け中に入る、がしかし中には誰も居ない。

「あれ?」

 部屋を間違えた訳じゃない。日和身も確認しているから間違えではないはず……。

 オレが小首を傾げていると隣にいた日和身が何かに気が付き前に出る。

「先輩!!!」

「どうした?」

「これ!」

 日和身が持っていたのはメモ帳の切れ端だった、そこには一言。

「ふざけやがって!」

 怒りに身を任せオレは走り出す、その後を必死に日和身が追いかける。

 メモ帳の切れ端には「フィールガルシアは預かった、屋上に来い」と書かれていた。


 重たい扉を蹴り開けたせいで空に音が響く。

「良く来ましたね先輩」

「テメェか黒幕は……」

 目の前に立つ奴は一番最初にファンクラブの所に行ったとき最初に喋った奴、そしてファンクラブないで唯一の寮外生だ、しかし肝心の名前は知らない。

「黒幕と言う言い方はショボい感じがしますね」

「んな事はどうでもいい!テメェは何もんだ!」

「ワタシは安真瑞穂あんまみずほ、フィールや日和身と同い年の同じクラスです」

「そうか、めんどくせぇから全員ぶっ潰すからさっさとフィールを解放しろ!」

「イヤですよ!イヤに決まってます。先輩も動かないで下さいね?動いちゃったら」

 そこで彼女は指を弾き音を鳴らす、それに合わせ後ろで壁のようにして立っていたファンクラブメンバーが道を造り、奥から二人組がある居てきた。

「なっ!」

 二人組の片方はナイフを相方の首筋に押し当て、もう片方は目隠しをされ縄で縛られている。

「フィール!」

 首筋にナイフを押し当てられている方はフィールだった。

「動かないで下さい!動いたら首筋をバッサリいきますよ」

 ナイフをこれ見逃しにちらつかせながら脅してくる。

「……私の事はいいから逃げて!」

「出来るわけないだろ!」

「……構わないので速く!」

「無理だ!」

「速く!」

「無理だぁ!」

「はやっ」

「五月蝿いんだよ!」

 オレとフィールの話に安真が割り込みフィールを屋上のフェンス際に運ぶ。

「五月蝿いんだよ!突き落としてやる!」

 フェンスに力をかける、するとフェンスが外れギリギリの所に立っている状態になる。

「止めろ!」

「動いたら落としますよ」

 彼女の目が本気だと主張している。

 一か八か全力疾走で駆け抜けてフィールを救うかと考え、実行に移す。

 相手が一瞬目を離した、その瞬間全力で走り出す。

 前進を妨げる者を全て蹴り飛ばし進む。

「来るなぁぁぁあああ!!!」

 オレの豹変ぶりに驚き叫ぶ。

 後少し、後少しでフィールに手が届く……と言うところで。

「来るなぁぁぁあああぁぁぁ!!!」

 ドンっと言う音がしたときには、フィールの身体は宙に浮いていた。

「フィール!!!」

 ゆっくりと重力に従って落ちていくフィール、オレの手では届かない。しかし!

「てりゃあぁぁぁあああ!」

 いつの間にかオレよりも先を走っていた日和身がフィールを掴んだ。

「……日和ちゃん?」

 目隠しをされているフィールが疑問符を浮かべながら聞く。

「ごめんねフィール、本当にごめんなさい!」

 日和身の声で泣いていることが解る。

「アタシのせいで酷い目に遭わせちゃってごめんね……ごめんね」

「……私も嘘ついてごめんなさい!私も先輩の事が好きなのに……」

 二人の泣き声が夜空に響く。

「ごめんねフィール……」

「……私こそごめんなさい」

「うざいんだよ!」

 二人の仲直りを邪魔するように日和身の足を安真が蹴る、痛みに顔を歪めながら必死に耐える。

「止めろ!」

 今度こそ二人を救うべく前に進む。

「こいつも落としてやる!」

 手を伸ばすために前屈みになっていた日和身の身体を後ろから押す、バランスの崩れた身体が屋上から姿を消す……前に!

「届けぇぇぇえええ!!!」 日和身の身体が落ちる寸前、手を伸ばし足を掴む。

「うぐっ!」

 腕が悲鳴を上げ始め、痛みで目の前が霞む。

「何なのよ……何なのよ!」

 安真が奇声を上げながら屋上から出て行く、後を追うようにしてファンクラブの連中も屋上を後にする。

 屋上はオレ達三人だけになった。

「……先輩放して下さい!」

「先輩まで落ちちゃいますよ!」

「大丈夫だから黙ってろ!」

 正直今自分が誰と話をしているかさえ解らない。

 段々と意識が遠のき、もう駄目かと思ったとき、背後で一言だけ聞こえた。

 「よく頑張った」っと……。

次回テンションアップダウン二十四時間企画が始まります!

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