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テンションアップダウン第二回フィーと愚かなボク2

 ボクが愚かだった時の話をさせてもらう。

 ボクがこの学校に入学したときの話だ。

 この話で全てを語ることは不可能だろう、だがフィーの心の傷とボクらを助けてくれた先輩の話をしよう。


 入学式やら顔合わせやらが終わりもう直ぐゴールデンウィークになるかならないかくらいの春の一日。オレの周りには未だに人が集まって来る。

「もうすぐゴールデンウィークだけど良かったら一緒に遊ばない?」

「駄目だよーもう私と一緒に出掛けるって決まってるんだから、ね?」

「いそっぺは何時も一緒にいられるんだからゆずりなさいよ」

「「「そうよそうよ!」」」

 頭上で騒がれては落ち着いて眠れやしない。

 オレは何時もより重たく感じる体を起こし争いを続けている女子を睨みつける。

「オレの周りで騒ぐな、眠れないだろ……」

 出来る限り声を抑えて怒鳴った。

「ごめんね、でもいそっぺが……」

「でももテロもない!オレの周りで無駄に騒ぐな!」

 毎度毎度同じことで怒鳴るのだが、未だにオレの周りは騒がしい。

 何故ここまでしているのに、オレの周りは騒がしいのだろうか。

 原因として挙げられる理由が二つばかりある。

 一つはオレがこの学校に編入して来たからだ、普通の学校なら別に編入自体珍しいものではないと思う。

 しかしこの学校は途中で中から外に出ることはあるが外から中に入ることは全くと言ってよいほどに有り得ない。

 この学校は古い歴史と伝統のある女子校だ、故に入学する者は中等部からでないとついていけない、それぐらいの厳しいルールがあるのだ。

 だからオレが途中で入ったことが珍しすぎて集まって…………現実から目を背けるのはよそう。

 何故ここまでしているのにオレの周りが騒がしいのには理由が一つだけある。

 それはオレの容姿に問題がある。先程まで言っていた事も嘘ではない、しかしオレの容姿を一言で言うと女子受けする顔、男で言うとハンサムに近い。

 女子高に突然やってきたハンサムガール……それがオレだ!

「どうしたの?突然泣きそうな顔して」

「……何でもねぇよ」

 自分で言って悲しくなってきた。

 自虐的なことを言って独り傷ついているオレを心配そうに見つめてくる磯川原さん。

「あぁっ!またいそっぺが色目を使ってるぅ」

「「「ずるいずるい!」」」

「そんなんじゃないよぅ」

 自然界で真っ先に淘汰されそうな小動物みたいに首を激しく横に振っている磯川原さん、見ていて面白い。

 今日もオレの周りは騒がしい……と昼休みが開始される前まではそう思っていた。


「しまった……お弁当がっ」

 4時限目の終了と同時にお弁当を持ち屋上に行き独りで食べようと思っていたのを、お弁当がないというトラブルにより中断される。

「どうしたの?」

 オレの横の席に座る磯川原さんがカバンからサンドイッチを取り出しながら尋ねてくる。

「寮に忘れてきたっぽい」

 口から思わずため息をもらしてしまう。

「しょうがないから学食に行くかなぁ」

「ならコーヒーミルクを買ってきてよ」

「何でだよ!」

「ついでだよついで、お金渡すからさー…しょうがない、お釣りはお駄賃にしていいよ!」

 オレの手のひらに硬貨を乗せ握らせてくる、仕方がないので行ってやることにした。


「嘘だろ……」

 目の前に広がる惨状に一瞬頭の歯車が止まってしまった。

 頼まれたコーヒーミルクを買う為にやってきた購買部…と言う名の戦場。

 柱に寄りかかり頭の出血を手当てしている人がいたり、雄叫びを上げながら購買部に突撃する者がいたりと、まさに地獄絵図。廊下に広がる鮮血、死体の山(まだ生きている)が築かれたり……。

「どこの世紀末だよ…」

 このまま何も買わずに立ち去ろうかと考えたが、オレ自身約束を守らない人間が嫌いなので守ることにした。しかしよくよく考えるとオレ自身買ってきてあげるなどとは一言も発してないのである、それに気がついたのは夜、寝る前だった。

 オレは腰を低くして人であふれかえる戦場に向かっていった……。


「ぐはっ!」

 三度目の突撃。

 思いっきり飛ばされて廊下をゴロゴロと転がる。

「いってぇ……」

 ボロボロになりながら頑張ったけれど流石に無理だった。

 痛む身体を起こそうとしたとき不意に目の前に真っ白い手が伸びてきた。

 顔を上げ、手の主を見上げる。

 そこにいたのは美しい銀髪の三つ編み少女だった。

「…っ!」

 あまりの可愛さに言葉を失ってしまった、顔は超高級なお人形のようで瞳は淀みなく小柄な体躯であった。

 それはまさに神様のオーダーメイド品のようだった。

「起きられますか?」

「あっ……ああ」

 彼女の声で現実へと意識が舞い戻る。

「ありがと……」

「いえ、先輩こそ編入して一月経たないうちに戦場に飛び出すなんてすごい度胸ですね」

「!?」

 美少女がオレの事を知っていたので驚いてしまった。

「そんなに驚かれなくても、簡単なことですよ。まず戦場を訪れる人は慣れた人が多いです、次に先輩、制服のスカートの色からあなたは高等部一年生ですね?一年生で戦場に行く人は多少なりとも戦いに慣れているはずです。しかし戦場での先輩の戦い方は初心者のようでした、そして戦場に行く人には決まったパターンがあります、お弁当んを忘れた人、お菓子や飲み物が欲しい人、何かがあった人、そして知らなかった人。知らなかった人はこの学校にほとんどいない、そして今年になって高等部一年生に編入生が入られた。だからそこからすいそむぐっ!」

 おとなしそうな見た目とは裏腹にものすごいマシンガンな女の子だった、後ろにいた友人であろう女の子に口元を押さえられていた。

「すみませんです、コイツいつもはあまりしゃべらないのに、先輩を目の前にしたら興奮してしまってるんです……」

 そう、この時マシンガントークを初対面のボクに繰り出してきた人物こそフィーに他ならない。

 ボクとフィーの出会いはこの時だった。


「先程は大変見苦しい姿を見せてしまいすみませんでした……」

「いや、別に……気にしなくていいよ」

 頭を深々と下げ謝罪をするマシンガンガール。

 あれから二人と一緒に中庭まで移動しベンチに腰を掛けている。

「あのさぁ」

「「はい何ですか?」」

「名前を教えてもらえないかなぁ?」

 オレは目の前にいる二人の名前を知らないことに今更気がついた。

「まずアタシからで、名前は日和身萩ひよりみはぎです、中等部の三年生です」

「わっ私はフィールガルシア・リ・ヒルデガルデです」

 マシンガンガールはフィールガルシアと言うらしい、そして真面目そうな眼鏡を掛けた子は日和身と言うみたいだ。

「それで先輩は何を買おうとしていたんですか?」

 マシンガンガールは先程よりも落ち着いていたがまだ緊張するのかオレの眉毛を見ながら話していた。

「フィール!人と話す時は目を見ないとですよ、そうですよね?先輩!」

 日和身ちゃんがマシンガンを注意しながらこちらに同意を求める……。

 胸を見ながら。

「お前……」

 オレは静かに両手を伸ばし二人の顎を持ち上げ、自らの目を見させる。

「ちゃんと目を見て話なさないと失礼だろ!」

 少し語気を強くして言う。すると何故か二人は顔が茹で蛸みたいになり、「「失礼しまひは!」」と見事にハモり見事に噛んでから立ち上がり「これどうぞ!」とマシンガンが言いながら、手に持っていた飲み物とサンドイッチをオレに渡し走り去っていった。


「何だったんだ?」

 午後の授業をさらっと聞き流し現在は放課後。

 出待ちしてくる女の子達に捕まらないように急いで校門をくぐり抜ける。

「先輩?」

 出待ちなどといった無駄きわまりない集団が先回りしてきたのかと思い焦った……が違った。

「マシン……フィールガルシア?」

「先輩!おっお待ちしてました」

 校門の前に立っていたのはマシンガンガールのフィールガルシアだった。

「待ってた?どゆこと?」

 疑問符を頭に浮かべて訊ねると、マシンガンガールは少し顔を赤らめ。

「いや……先輩がいつも独りで帰っているって聞いたので、その……」

 フィールガルシアの視線からは邪な気配を感じなかった。ただ単に『話したい』『側にいたい』といったものだけ、出待ちのような不愉快な気配は何一つ含まれてない。

「わかった、一緒に帰ろうか」


 そしてボクらは二、三日一緒に帰ると直ぐに打ち解けて仲良くなった。ゴールデンウィークもフィールガルシアと過ごすようにした。

 この時ボクはフィーの事を知り、またフィーにも少しだがボクの事を話した。

 ボクが間違えなければもっと楽しく話が出来ただろう。

 ボクが間違えなければ…… 。

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