テンションアップダウン第二回フィーと愚かなボク1
世の中には美男や美女と言った普通から少しだけ外れた容姿の生物が多数いる。
そして美男美女をもてはやし祭り上げる人種「ファンクラブ」がいる。
まったりと過ごすべきお昼休み、ボクは戦場へと足を運んでいた。
「デラックスサンドイッチあと二つ!」
戦場の名は第二購買部。
ボク達の学校にある購買部は全部で三つ、一つは中等部中庭付近の廊下に位置する、飲み物やお菓子などの軽食を取り揃えている第一購買部。二つ目は中等部と高等部の真ん中に位置する職員室前の第三購買部だ、ここは主にノートやペンなどの日用品を取り揃えている。そして最後の購買部は今ボクがいる食堂前に位置している。ここは食堂へ向かう人などが行き来し大変混雑するため、生徒の間では「戦場」と呼ばれ一年生はまず生きては帰って来れないくらいの酷さだ。
まずはほんの二分前の話をしよう。
「しまった!お弁当がっ!」
思わず大きな声を上げてしまった。
「どうしたの!?」
何事か!っと言うような表情で先輩が近づいて来た。
「いやっ…そのぅ…」
「何?お弁当を五つ全て食べちゃったの?」
「五つも食べませんよ!これでも体重気にしてるんですから……三つですよ!三つ!」
「そんなに食べてるのに胸は一向に成長しないのね」
みしっ、ボクの握力で机にひびが入る、脆いな机って。
「冗談よ冗談!あはははは」
「そう言うことにしときます」
いつもボクのことを馬鹿にする先輩のせいでつい机にひびを入れてしまった、ボクはドジっ子だな。
「それで何の話をしてんの?」
「「のわっ!?」」
いきなり目の前に海苔ちゃんが現れてボクと先輩は声を揃えて驚いた。
「いきなり現れるなよな!」
「ずっと居たよ?」
「何処に?」
「机の下、四時限目からずっと」
「普通に授業を受けなさいよ!」
「先輩だって授業中私たちにクッキーを食べさてくれたじゃないですかー」
先輩の方を向きながらにこりと微笑み。
「先輩?」
「いやっ、ちがっ!」
「せ・ん・ぱ・い?」 涙目になりながら首をふるふると横に振る先輩。
「……ところでお弁当の話は?」
「のわっ!?」
背後からおとなしめな声が聞こえボクだけ驚いてしまった。
「フィー!?何で居るの!?」
「私が連れてきたからに決まってるじゃん!」
「胸を張って堂々と言うなよ!クラスの人にも迷惑がかかるだろ!」
「……私が居たら迷惑ですか?」
「フィーも瞳をうるうるさせてこっちを見ない!」
お持ち帰りしたくなってくるだろ。
「クラスの人には迷惑かからないわ、事前に話は通しているから!」
「クラスのみんなもなに協力してんの!?」
クラスのみんなを見回すと、全員終止笑顔を絶やさなかった。
「そう言えばこのクラスの人のほとんどが先輩のファンだった……」
先輩の影響力は恐ろしい。
「それで何だったの?」
ようやく話は元に戻った。
「お弁当を寮に置いて来ちゃったんですよ」
「じゃあ今、お弁当を持ってないの?」
先輩が話した言葉に反応してクラスの多数がボクの前に食べかけのお弁当を持って近づいて来た。
「「「良かったら私のお弁当を食べませんか?」」」
このクラスにはボクのファンも多数居る。
「あははっ……気持ちだけ受け取っておくよ」
ほとんど苦笑いに近い笑顔で言うとクラスのみんながキャーキャーと騒ぎだした、ボクの影響力も恐ろしいな。
「それでお弁当はどうするの?」
海苔ちゃんに言われ少し考えてからため息を吐いた。
「やっぱり行くしかないか、戦場に」
「行くんだ……死なないようにね……」
「ついでにデザートにエクレアが食べたいから買って来てよ」
「嫌ですよ先輩が行ったらいいじゃないですか!」
「堅いこと言わないの」
先輩はボクの手のひらに百円を置き強く握らす。
「はぁー……じゃあ行って来ます」
そして現在。
押し合いが激しい戦場に突進すること三回目、未だに戦利品は皆無。
「特製エクレアあと三つだよー」
売店のおばちゃんの声を聞きもう一度人混みへと突進する。
「ダメだった……」
最初から最後までなにも手にすることが出来なかった。
教室に戻ろうとした時、服が引っ張られる感覚が伝わる、後ろを振り返るとそこに何故かフィーが立っていた。
「フィー!?どうしだの!?」
「……手伝いに来ました」
そう言うとフィーはボクの服を引っ張っている手とは反対の手でパンとジュースとエクレアを持っていた。
「フィー…ありがとう!」
ひしっとフィーを抱きしめる。
「お金払うね!いくら?」
フィーに代金を払い、二人で手を繋ながら教室に戻る。すると途中でフィーが服を強く掴んできた。
何事かとフィーの方を向くとフィーはある一点を見つめている。
ボクもフィーが見ている方向に目をやると、そこには三人組の女子が立ってこちらを……フィーのことを睨みつけていた。
ボクはフィーの手を引いて足早その場を去る。
繋いだ手にフィーの震えが伝わる、フィーは酷く怯えてしまっていた。
ボクは強く手を握りしめた、心の中で自分を責めながら……。