御伽噺でもテンションアップダウン 赤頭巾
ボクらにとって事の始まりと言うものは常に吠天先輩かマナ先輩のどちらかであると思う。
ある月の日曜日。
ボクらが児童館から帰っている時のこと。
「『思うんだけどさ』」
先頭を歩く吠天先輩は、後ろを振り返り口を開く。
「「「お願いだから何も喋らず黙って帰宅してください」」」
後輩組のボクらは声をそろえて言う。
「……『昔読んだ童話で何でこうなるの? って思う作品なかった?』」
ボクらのお願いなど無かったかのように、話を続ける先輩。
この日、ボクらは児童館主催の絵本の読み聞かせ会に部活で参加したのだ。
その時、吠天先輩は難しい顔をして何かを考えていた。
「『今日私たちが読んだ赤ずきんもさ、狼のお腹を切って助けるとかあり得ないでしょ?』」
そんなことを言ったら話が終わるだろ。
「やっぱり先輩も思いますよね? 私も違和感あったんですよ!」
ここで話に乗るのは「生ける雑音」こと磯河原宇美。
「黙れハゲ!」
「禿げてないよ!?」
驚くリアクションすらうっとうしい。
「……それで、吠天先輩は何が言いたいんです?」
天使なフィーは話を戻す。天使だ!
「『簡単な話だよ~』」
何故かいやらしい笑みを浮かべる、一歩間違えればお子様には見せられない笑みだ。
吠天先輩の話を聞き流しつつ、最後尾で黙りっぱなしの人物に声をかける。
「何でマナ先輩はさっきから黙ってるんですか?」
「ん!? ……特に理由はないわよ」
突然話しかけたことに驚くマナ先輩、少し疲れているのかあまり元気がないように見える。
「『どうしたの? 疲れてるの?』」
ボクと同じ感想を持った吠天先輩が、何故だか凄い笑顔でマナ先輩を見つめる。
吠天先輩の問いにこれまた凄い笑顔で答える先輩。
「大丈夫大丈夫超元気超元気!」
マナ先輩は慌てて元気に振る舞う。
そんな姿を見ていた後輩たちは次々と声をかけていく。
「……無理したら駄目ですよ」
「そうですよ! 死んじゃいますよ!」
フィーや海苔ちゃんも心配そうに見つめる。
マナ先輩は少し困った表情で答える。
「大丈夫だって、心配しすぎ」
「それなら良いんですけどね」
嫌な予感と共にボクの口から出る言葉。
マナ先輩を心配しつつ、みんな自宅を目指し歩み続ける。
「ぶち殺す!」
開口一番、申し訳ない気持ちになるが言わずにはいられない。
部室にいてお茶を飲んでいる二人に襲いかかる。
「……落ち着いてください!」
慌てるフィーをよそに、吠天先輩との距離を詰める。
「『いや、本当に、ごめんちゃい』」
この先輩は喧嘩を売っているのだろうか?
「あの後、決死の思いで逃げ出してきたんですよ! 許さにゃい!」
力強く机を叩く。あの時を思い出し手が少し震えた。
「『あれは私たちの想像を越えてたよ』」
吠天先輩も若干震えてる、何かがあったのだろう。
「……私も色々怒られちゃって」
フィーも苦虫をすり潰したような顔をする。
「……まぁ二人に何があったかは知りませんが、ボクは後一歩でお嫁に行けなくなるところでしたよ!」
「……大丈夫です! 私が貰います」
フィーが目を輝かせながら言ってくる。
「『良かったじゃない! 式には呼んでね』」
吠天先輩もフィーのボケに、ボケにのる。
「…………」
ボクの人差し指が真っ赤に燃える。
「『……それで次はどうする?』」
吠天先輩は赤くなったおでこを鏡で確認しながら呟く。
「まだ、何か企んでるんですか?」
ボクはまた、指に力を込める。
「……あの御伽噺計画は全部で三つあるんですよ」
保冷剤をタオルでくるみ、おでこの腫れを冷やすフィー。
「三つ? 兎と亀以外に後二つ?」
ボクの言葉に対する返事を紙束で返す先輩。
表紙には「真実の御伽噺計画(仮)」なるタイトルが書かれていた。
ボクはそれを、屑籠にそのまま入れる。
「『んな!?』」
謎のリアクションをとる吠天先輩。
フィーは鞄から同じ紙束を取り出し、同じく屑籠に入れる。
「なんとぉ!」
吠天先輩も驚き過ぎて地声を出す。
ボクとフィーは無言でハイタッチ。やったねフィーちゃん。
悲しそうに屑籠から紙束を救出する先輩。
「『私が何をやったって言うんだ!』」
「「!?」」
吠天先輩のテンションに置いて行かれる。
「紙束の内容は全部読んだんですよ、だから棄てたんです」
「『本当に!?』」
勿論嘘である。
「…………」
フィーが目を見開いて驚いている。嘘なのに。
「……じゃあ次にやる作戦を決めましょう」
「『おー!』」
二人は楽しそうに、はしゃいでる。
「そう言えばマナ先輩と海苔ちゃんは?」
ふと、気になったことを吠天先輩に聞く。
「『マナは病院でのりちゃんはこの前の依頼をやりに』」
マナ先輩が病院に行くことは多々ある、今回は薬を貰いに行ったのだろう。
「海苔ちゃんの依頼って幽霊騒ぎの?」
「そうそう」
少し前に来た茶髪の女の子が頭に浮かぶ。
「ちなみに御伽噺計画? には他の二人も参加するんですか?」
「『もちのロンギヌス!』」
意味分からん。
「……もちのロンギヌスって何ですか!?」
何故か驚くフィー、意味分からん。
等とくだらない話をしている時に、扉を開けて海苔ちゃんが部屋に入ってくる。
「…………」
「……海苔ちゃん?」
いつものような無駄テンションを感じさせない、真剣な表情だった。
「……先輩? 先輩っ!」
フィーも呼びかけるが返事がない。
「…………」
何かを真剣に考えている海苔ちゃんは、無言のまま荷物を持ち部屋を後にする。
「「「…………」」」
いつもと違う海苔ちゃんに何も言えずにただ後ろ姿を見つめるボクら。
「何かあったのかな?」
「『何か良からぬモノに呪われたとか?』」
「そんな非科学的な事象が起こるわけ無いじゃないですか! 何を言っているんですか! お化けさん何ているわけがない! お化けさん何て所詮はプラズマですよ! プラズマイオンですよ! そうです、いるはずがない、有り得ない、存在しない、ナイナイナイナイナイナイナイナイ……」
フィーちゃんが壊れた。
フィーは首を全力で振りながら塩を撒きだす。
仕方がないのでまたデコピンを喰らわせる。
「『話を戻しても良い?』」
動かなくなったフィーをよそに、吠天先輩は静かに言葉を打ち出す。
「……良いですけど」
ニコリと笑ってデコピンを構える。
「ふざけた事を言ったら、イノチハナイヨ?」
素早く首を縦に振る先輩。
「『だ、だったら君も私たち側になれば良いんだよ!』」
先輩立ち側? つまり……。
「普段の溜まりに溜まったストレスをぶちまけられる!?」
ボクの言葉に吠天先輩が軽く引く。
「『まぁ……君がこちら側で色々したいならね、一緒に楽しもうよ』」
吠天先輩が淑女にあるまじき顔をしている。
木々に囲まれた小屋が見えてきた。
狼の衣装に身を包んだボクは顔をニヤつかせながら進む。
協力し、今回の計画と配役を考えたボクら。
今回。赤ずきん役が海苔ちゃん、狼役がボク、おばあちゃん役がフィー、赤ずきんのお母さんが梅ちゃん先生、司会進行が吠天先輩。
赤ずきんの物語に登場するキャラが一名存在しないのは、吠天先輩曰わく「そんな都合よく現れるわけがない」からだそうだ。
「狼が最初に襲うのはおばあちゃん、つまり合法的にフィーを襲える!」
我ながら素晴らしい作戦だと思う。
高笑いしながら小屋を目指す。
「……そう言えばまだ赤ずきんを見てないけどおばあちゃんを襲いに行って良いのかな?」
ふと気になり疑問を口にする。
別室でモニターを見たときは海苔ちゃんがアホな面でお花を摘んでいた。
ボクはそれを確認してから、行動したのだが、未だに会えていない。
「まぁ小屋に着いたらなフィーを襲いつつ待ってればいいか」
これからの行動を思い浮かべ、また顔が緩む。
「んふふふー……ノワッツ!」
足元を見ていなかったために、何かに躓く。
手と膝を土に着ける。
「んだよもー……えっ?」
苛立ちげに自らの足元を見る。
そこには足があった、ボクの物では無い足が。
「――――――っ!?」
見覚えのある服を着た少女がそこにいた。
「海苔ちゃん!? どうしたんだよ海苔ちゃん!」
先程まで暢気に花を摘んでいた海苔ちゃんが、頭を真っ赤に染めた状態で倒れていた。
赤色のずきんを被っているかのような姿の海苔ちゃん、周囲には色とりどりの花が散乱している。
「誰がこんな……」
恐怖と悲しみがぐちゃぐちゃに混ざる。
「……兎に角助けを呼ばなきゃ」
感情を抑え、一番近くにいるフィーと合流する事にした。
周囲を警戒しつつ足早に向かう。
「……あれ?」
足元に赤い点を見つけた、その点は間隔を開け小屋へと向かっている。
「フィーが危ない!?」
海苔ちゃんを襲った犯人が残したと思われる印、ボクは小屋に向かって走り出す。
「フィー!! 無事か!?」
勢いよく扉を開く。
「……先輩?」
結果を言えばフィーは無事だった。
「……フィー? なにしてんの?」
フィーは洗い物をしていた。
「……借り物のお洋服に汚れが付いちゃって」
小屋の中にいたフィーは下着姿だった。
普段のボクだったら直ぐに襲いかかっているだろう。
フィーの両手に付着しているものさえなければ。
「フィー、それって」
「……ちょっとはねかしちゃって、服にもベットリと」
フィーはニコリと笑う。
ボクは一歩後ずさりフィーとの距離をとる。
「……どうしたんですか?」
フィーが心配そうに訊ねるが、ボクはまた一歩後ずさる。
「……先輩?」
フィーも笑顔を崩さず一歩前に出る。
ボクは踵を返し、扉から外へ向かう。
しかし、目の前で不自然に扉が閉まる。
「!? ……何だよこれは!」
ノブを回すが手応えなし、叩いても反応なし。
「開けよ! 開けよ! 開けったら!!」
叩いたり蹴ったりしても反応を示さない扉。
「先輩?」
背後から声をかけられる。
恐る恐る後ろを向くと――――――。
「先輩」
笑顔のフィーが真っ赤に濡れた棒状何かを握っていた。
「いやっ、いやぁ」
「イヤァァァアアア!!!」
森の中に声が響く。




