テンションアップダウン第五回終わりよければ全て良し……そして
結果から言わせて貰うと勝負はボクの勝利で幕を閉じた。
「『乃乃ちゃん……』」
「丹沙ちゃん……」
結局二人ともある程度和解し、吠天先輩は少しずつ昔のように戻りたいと言っていた、ボクもそうなることを密かに願っている。
「「フィールちゃん……」」
「……お願いなので近づかないで下さい」
「「……っち」」
目姉妹とフィーの関係は相変わらずだ。
そして現在時刻は夜の八時を回った頃。
「「「『たーまやー』」」」
ボクらは旅館の近くで開催されている花火大会に来ていた。
夜空に咲く大輪の花、色とりどりの花が一つまた一つと咲いては散っていく、まさに和を感じさせてくれる夏の風物詩と言えるであろう。
「「いやいや私達まで誘っていただいちゃってありがとうございます」」
「気にしなくて良いわ、今日はお互いに親睦を深めるんだから無礼講でいいわ」
「「わかったよブス!今日は楽しもうね」」
この姉妹は一周回って尊敬できる。
「……無礼講だからね」
怒りに肩を震わせているマナ先輩。
「早く私達も花火しましょうよ!」
「早く準備しましょうよ!」
「「さっさと準備しろよウスノロ!」」
ブチリと血管が裂けるような音が聞こえた。
「……二人ともちょっと良い?」
「「何ですか?」」
目姉妹はマナ先輩に呼ばれホイホイついて行ってしまった、良いのかホイホイついて行っちまって……。
「全くあの姉妹もアホですねっ……え?」
目姉妹の後ろ姿を見送ってから振り返ると吠天先輩が豆乾先輩を押さえ込んでいた。
「いったい何が……」
「……豆乾先輩が突然吠天先輩に襲い掛かったんですよ」
「なんとぉー!」
まさかの突然の出来事に度肝で鍋を作ってしまえるほどに驚いてしまった。
「『説明してもらえるかな?乃乃ちゃん』」
「痛たたた!丹砂ちゃん!肩、かぁたぁ!外れるよ!」
「『早く答えないと肩外すよ?説明してもらえるかな?』」
「……痛たたたたたた!言う!言うからぁぁぁあああ!!!」
真顔で関節の技を解き起こす。
「いやね、今マナちゃんが居ないし丹砂ちゃんの浴衣姿は色っぽいじゃん、だからついムラッとして……ね」
確かにこのメンバーの浴衣姿の中で一番色っぽいのは吠天先輩だ。
「『……乃乃ちゃん』」
吠天先輩の視線が汚物でも見るかのように変化した。
「いい……もっと蔑んで、もっと見下して!」
だが効果はない、相手は変態だ。
「……あの人を病院に運ばなくて平気ですか?」
フィーも蔑んだ目をしていた。
「可哀想だけどあれが素なんだよね」
あれがなければ普通の人なんだよなーと心の中で呟く。
「丹砂ちゃん!もっと、もっと罵って!」
「近寄るな変態!…変態って言われて喜ぶんじゃない!!」
目の前で繰り広げられている吠天先輩と変態の鬼ごっこ、捕まったら吠天先輩に明日はないだろう。
花火に混じって聞こえる悲鳴は、震える双子を引き連れたマナ先輩が戻ってくるまで続いた。
「さてと、じゃあ帰りますよ皆さん」
行きと同じで海苔ちゃんが先頭に立つ。
「今年も楽しかったね」
「……アイツ等が居なければもっと良かったんですけどね」
風紀委員会の三人は一足先に帰った、もしもまだ残っていたらフィーの発言に対してまた何かを言っていただろう。
「『ところでマナは何処?』」
「入り口のところで仲居さんと話をしてますね」
言われて玄関の方に目をやる。
「なんか困ってませんか?」
「……仲居さんが必死に何か言ってますね」
「『行ってみよう』」
「お願いします……」
「んー……何度言われてもね」
「「「「『何の話?』」」」」
「のわ!」
近くに来ると仲居さんが少し涙目になっている。
「みんな……何でもないから向こうに……」
「何でもなくなんてありません!お願いしますマナ様、いいえ女王様!」
「「「「『…………どう言うことですか?』」」」」
「何でもな」
「皆様がお泊まりになられた初日の夜から昨晩まで毎晩女王様に色々な……いやらしいことをされ、私目覚めてしまいまして」
「「「「『……』」」」」
「みんな無言で一歩下がらないで!」
みんなで綺麗に一歩後退した。
「みんなが想像するようなことは何も!」
「初めてを奪われちゃいました」
さらにみんなで後退した。
「マナ……」
「なに……丹砂」
恐る恐る吠天先輩に向き直るマナ先輩。
「……」
「…………丹砂?」
息が詰まるような沈黙が続く。
この沈黙を破ったのは吠天先輩の強烈な一言だった。
「最低ね」
「丹砂ごめん!そんなつもりは!」
「『みんな帰りましょう』」
吠天先輩はマナ先輩に背を向けて歩き出す。
「「「マナ先輩さようならー」」」
「裏切るのか後輩達!ちょっと!聞いてんの?ねえ!」
ボクらも吠天先輩を追うようにマナ先輩に背を向け歩き出す。
「みんな!」
「さぁ女王様お部屋は空いておりますのでこちらに、これから毎日朝から晩まで出来ますね!」
「いやだ離して!みんな待ってよ!おねがぁーい!」
「死んじゃうよぉぉぉおおおお!」
マナ先輩の叫び声にボクらは自業自得だと思うしかなかった。
夏休みもなんやかんやで終わりを告げる。
ボクらの活動も夏休みの合宿以来なかったので実に一週間以上ぶりだ。
朝フィーと一緒に登校し、下駄箱で別れ教室に向かう。
教室に着くとみんな久しぶりに会う人もいるのか騒がしかった。
「全く、朝っぱらから五月蠅いなぁ酸素の無駄だよ無駄」
「まあまあそう言わない言わない」
何時の間にか海苔ちゃんが背後に立っていた。
「背後に立つなよ気色悪い」
「何で!?」
朝っぱらから五月蠅いのに絡まれてげんなりする。
「あれっ先輩は?」
何時も隣に座っているマナ先輩の姿が見当たらない。
「マナ先輩ならさっき吠天先輩のところに向かったよ」
「そういえばまだ許されてないんでしょマナ先輩って」
夏休みの浮気事件から吠天先輩に許されていないマナ先輩。
「そうなの?朝の段階で聞いてみたら『問題ない』って言ってたよ?」
「?そうなの?」
あの二人は良くわからない。
「何の話をしてるの?」
「先輩おはようございます」
「おはよ」
いつの間にかマナ先輩が近くにいた。
「もう直ぐHRが始まるから席に着きなさいよ」
「「はーい」」
先輩に促され席に着く。
「やっと終わった!」
午前の授業が終わり各々がお弁当を用意してみんなで集まって食べている。
「ボクらも早く行きましょう」
そう言ってみんなでお弁当を持ち屋上へと向かう。
「「「御馳走様でした」」」
食べ終えたお弁当箱を片付ける。
「今日の味付け少ししょっぱくなかった?」
「また男に逃げられて泣きながら作ったとか?」
「二人とも悪く言い過ぎよ……ったく」
食後は何時もみたいに雑談に耽っていた、するとそこに大きな羽虫が飛んできた。
「きゃっ蜂!」
驚いたマナ先輩がボクの方に飛んでくる。
「んぎゃ!」
マナ先輩に押し倒されるボク。
「マナ先輩、虫は何処かに行きましたよ」
「そう?わかった」
マナ先輩がそのまま起き上がろうとしたので手を掴む。
「なっ何?」
「オイ、ちょっと待てよ」
「?どうしたの?早く起きなよ」
「そうだよ起きなきゃ駄目だ……あっ!」
静かに伸ばした手でマナ先輩?な髪の毛を掴み引っ張る。
「……」
「……」
「……」
みんなが無言で固まる、ボクの握り締められた手の中にはマナ先輩と同じ色の、マナ先輩が先程まで使っていた桂が握られている。
「二人とも久し振りだね………………元気?」
夏休み明け早々に、途轍もない危険がボクらに近づいてくるのを感じた。




