テンションアップダウン第二回穴の先
目の前に穴があったから……。
放課後の時間帯、ボクらは鬼ごっこをしていた。いたって普通の光景に見えるだろう、ただし……。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「……嫌です!」
相手が梅ちゃん先生じゃなかった等の話だが……。
「……フィーちゃん逃げられるかなぁ」
私は独りでなんとか学校から脱出……出来たのだが。
「これはどういう事?」
学校を出て直ぐの所にあるマンホールに私ははまってしまった。そして最悪なことに胸がつっかえて抜け出せないのだ。
「…………」
今までに何度か目の前を人が通ったが、全員が私の胸を見た後にアスファルトに唾を吐いてから立ち去った。
「もう駄目だ……」
誰一人として助けてはくれないこの状況に気持ちは萎えている。
「だらっしゃあ!」
辞世の句でも考えようとしていたときに希望の星が現れた。
フェンスを持ち前の運動神経で飛び越えて現れた救世主と目が合う。
「海苔ちゃん……何してんの?」
「ナイスタイミング!」
救世主こと部活内のイケメンが疑問符を浮かべている。
「早く助けて!マンホールにはまっちゃって」
「よくわからないけど解った」
ゆっくりと近づいて来るので思わず余計な一言を言ってしまう。
「早く早く!胸がつかえちゃって」
ピタリ、そう形容するのが合っているであろう。彼女の動きが静止した。
「……もしもし?」
彼女はすくっと立ち上がりアスファルトに唾を吐く。
「胸とかいってんじゃねぇよ」
彼女も立ち去った。
「もう駄目なのかも」
アスファルトは先ほどの倍以上の唾で埋め尽くされている。
「やっと見つけたわ」
遂に現れた救世主!
「梅ちゃん先生!」
顧問の梅ちゃん先生が今私の目の前にいる。
梅ちゃん先生は私と同じくらいに胸があるため大丈夫だろう。
「助けってぇ」
半べそ掻きながら助けを求める。
「いくわよ~」
キュポンっと鳴りそうなほど綺麗に持ち上げられる。
「怖かったよぅ」
「よしよし」
恐怖に震える体を優しく抱きしめ頭を撫でてくれる先生、そんな先生は少しだけお酒臭さ……い…。
「まさかっ!」
先生の頬は微かに紅色を帯びている。
「怖かったよね?大丈夫よだって……」
先生は一度言葉を区切り私を優しく包み込む、それはまるで捕まえた獲物を逃がしまいとする肉食獣のような、あらがえない威圧感を放つ絶対的な自然界の順位を表しているような……そんな包容だった。
「だって、一人以外全員捕まえたもん」
「いやぁぁぁあああ!!!」
私は抵抗虚しく、校舎に引きずり込まれたのだった……。