テンションアップダウン第二回メイド服@憧れ属性
人間と言う生き物がとてつもく愚かであることはすでに明白である。ボクもあの事件で反省しもう二度と愚かな事をしないと思っていたのだが……。
日曜日。
寮母さんに外出届けを渡し寮を後にする。
現在時刻は朝の四時。
眠たい目を擦りながらアスファルトの道を進む。
ボクが日曜日にもかかわらず早起きしている理由を話せば、誰もが理解に苦しむだろう。
理由……そんなの簡単だ。
「衝動的にメイド服なんか着なければ良かった……」
メイド服を着た後先輩に「そんなに着たかったなら言ってくれれば良かったのに、じゃあ今週の日曜日にわたしの家に来てねいっぱい種類があるから!」
等と言われ拒否できないまま今日になってしまった。
「確か先輩の家は……えっ?」
メモ帳に書いてある住所と照らし合わせてみる、間違いない。
「超が付くお金持ちじゃないかぁぁあ!」
メイドが居ると言っていたのである程度の金持ちレベルは想像していたが……。
「ここまでとは……」
とにかく広い、広いとしかし形容出来ない。
「とりあえず中に入ろう」
巨大な門に設置されている呼び鈴を押す、すると如何にも出来ますよ私みたいな感じのメイドが受け答えする。
ボクは要件が伝えると、ゆっくりと扉が開き中に通される。
敷地内にはいると家のある方角からリムジンがやってきた。
ドアが開き乗るように言われる。
ボクが乗ったのを確認するとリムジンは家に向けて走り出す。
この間に僕が喋れた時間は一分位だろう。
「色々な意味で疲れましたよ」
「あはは、慣れない人にはキツいかもね」
、ようやく付いた先輩の部屋、中にはすでにメイド服が大量に存在する。
「海苔ちゃんは緊張しなかった?」
「最初は緊張したけど今は平気だよ!」
「フィーは?した?」
「……少しだけ、私も今日が初めてだったから」
「『私はマナの家にはちょくちょく来るけどね』」
「先輩方は昔から仲が良かったんですか?」
「あたしと丹沙は腐れ縁の幼なじみよ」
「『嫌そうに言わなくてもいいじゃん!何回も助けてあげたのに……』」
「お互い様でしょ」
二人のやり取りに思わず微笑ましい気持ちになる。
「まあいいか、じゃあそろそろ始めましょうか」
夢の一時が終わりを告げた。
「眼福だ!」
先輩が叫ぶのも無理はない、目の前に広がる光景は確かにすばらしかった。
「この色も素敵ですね」
海苔ちゃんはスカイブルー色のメイド服に身を包みスカートを揺らしながら更衣室から出てくる。
「可愛いね海苔ちゃん!」
先輩が絶賛し海苔ちゃんが照れたようにはにかむ。
「……スカイブルーも捨てがたいですね~」
続いてやってきたのはフィー。
フィーは薄紫色のメイド服を着て海苔ちゃんの背後に立っていた。
「フィーも似合ってるね」
「先輩も似合ってますよ」
ボクの格好を褒めてくれる。
「そう?……ありがとぅ」
恥ずかしさで語尾が小さくなる。
ボクが着ているのは真っ黒のメイド服だ。
「『みんな着替えた?』」
「はい、着替えまし!」
そろそろボク達は吠天先輩が普通じゃないと理解しなければならないかもしれない。
先輩は一人だけ……。
「何で吠天先輩だけ裸エプロン!?」
一人だけサービス精神旺盛だった。
今回ボク達が集まった真の目的、それは……。
「フィーちゃん紅茶を淹れて」
「……はいお嬢様」
雨月マナの一日メイドとして働くことだ。
「海苔ちゃんミルク」
「かしこまりましたお嬢様」
「丹沙お砂糖頂戴」
「『自分でやりやがれお嬢様』」
「……フィーちゃんお砂糖」
「はいお嬢様」
パサっ。
「お砂糖がこぼれちゃった……丹沙」
「『自分で処理しやがれでありますお嬢様』」
「……海苔ちゃん」
「わかりました」
…………。
「丹す」
「『黙りやがれです』」
「ちゃんとやりなさいよ!」
「『誰かに仕えるなんて嫌!』」
いがみ合う二人。
「てかさっきからもう一人立っているだけの人が居るよね!」
「怒りの矛先をこっちに向けないで下さい」
「貴女には何をしてもらおうかしら」 話が聞いてもらえない……。
「貴女今ここで膝枕しなさい!」
…………。
「やぁらかいなぁ~」
「はぁ…………」
ボクの膝上で猫なで声をだす先輩。
「後三十秒ですからね」
「うぅん」
頬の筋肉を緩めながら笑っている。
やっぱり普通にしていれば整っている顔立ちのお陰でモテるはずなのに……。
「はい三十秒です」
頭を持ち上げて退かす。
「『じゃあお開きにしますか』」
吠天先輩の一言で今日はお開きになった。しかし何も問題が起きないという人生ほどつまらないものはないだろう、今までのほのぼのとした時間は嵐の前の静けさにすぎなかった……。
「今日も疲れた……」
口からため息を吐き出す。
「でも楽しかったなぁ」
周りに誰もいないので思わず本音を洩らす、ちなみにここは先輩の部屋だ。
メイド服をたたんでいるとき、不意に扉が叩かれる。
誰だろうと不思議に思い返事をする……前にノックした人が先に喋る。
「マナ?入るぞ」
外から先輩とほぼ同じ声が聞こえ、焦る。しかも男っぽい喋り方、さらに焦る。
「えっ……ちょ待っ!」
そしてそいつはボクの声に気がつかないまま中に入ってくる。
「入るぞっ…う」
「…………」
お互いに緊張状態のまま黙り込んでしまう。
「…………」
「…………」
「……どうも」
その一言でボクの緊張の糸が断ち切れてしまう。
後日、先輩に事情を聞いた(あの後ボクは海苔ちゃんに担がれて家に帰っていったらしい、勿論服はちゃんと着せてもらった)。
あの男性は先輩の双子の兄だったらしい。
昨日の出来事でボクはまた少し男が苦手になった。