目指せ! 一国一城の城主
お久しぶりです。
ちょっと小ネタが出来たので、一話だけ投稿してみます。
あとで少し改稿するかもしれませんが、方向性はこれで決まりました。(多分)
では、どうぞ。
鏡の双子が用意した異世界旅行イベントに参加した夢旅 修羅。彼が選択した世界は『和の国』戦国乱世最中の日本だった。
彼は鏡の双子の開いた道を通り、この世界に降り立つ。振り返るとこじんまりとしたお堂がひとつ。自分が産れた世界は見る影もない。気持ち一新、修羅は新しい旅の第一歩を踏み出す。場所は京の都。活気あふれる西の都でございとーざい!
そこで待っていたのは白装束の不思議な子供と桜のように美しく可愛らしいお茶屋のお姉さん。子供は修羅にお金を渡して不思議めかして消えた。修羅は客引きのお姉さんに導かれるまま、お茶屋へGO。己の身分を単なる旅人と称して情報を聞き出そうとするのだが――――果たして? それが前回までの出来事。さぁ、お話を再開しようじゃないか、と白い着物を着た子供は嘯くのです。
◇◆◇◆◇◆◇
「へえ? 修羅はん、旅人さんなんや? 遠いところからようお越しくだはりましたなぁ。うちの団子でも食べてゆっくり養生しとくれやす。ほら、咲楽、持って行ったったり」
「わかっとりますわ、女将さん。ほうら、これがうちの一押し、桃団子です。どうぞごゆっくりしていったってくださいなぁ」
恰幅のいい女将さんに促されて、咲楽という名前らしい、小ざっぱりとした京風美人は修羅に品物を持ってくる。姿形も綺麗だが、その所作ひとつとっても綺麗で洗練されていて品があり隙がない。この世界の女というのはこういうものなのか、まるで隣国の太陽国の貴族や祭事の神官も務める月龍族や楽に秀でる人魚族のようだと修羅は感心して、見苦しくない程度に団子を頬張る。
「!?……うまい」
「そお? お口にあったようでなによりですえ。さすがウチのお団子やわぁ」
「この界隈の情報が欲しいのだが、教えてくれないか?」
「ええで? この辺りわな、業突く張りの御殿様がぎょうさん税金を奪い取って、私服肥やしてな」
「これ、咲楽! あんた、そこらへんの詳しい話するんなら、そのお客さんつれて奥行きなはれ。こっちまでとばっちりで捕まっちまうよぉ」
「あはははっ、ごめんなさい、おかみさん。ほな、詳しい話するから奥いこか。みんなも集まっとうやろうし、賑やかやでェ?」
数十分後、修羅は団子屋の奥の座敷で、座布団に座って腕を組み、思考を巡らせていた。
「先ずは………家だな。どうせ住むなら今後のことも考えてデカい家がいい。よし、あの城をぶんどるぞ」
「城ってあの城か!? 兄ちゃん無茶だ!」
「無茶だろうがなんだろうが俺はやるといったらやる。『有言実行』が夢旅家の家訓だ」
修羅は出口に向かって堂々と歩き、振り返らずに再度口を開く。
「それに聞いた話、お前ら全員あそこの城主に高い税金を払っているのに苦しんでいるのだろう?」
修羅の言う通りなのだろう。みんな、目をそらして俯く。
「国ってのは、民が集って初めて国となるものだ。国王ってのは、贅沢をさせるために上にいさせるものではない。民の為に身を粉に削って働く官吏どもの旗頭だ。旗頭にお飾り以外の無能は要らねえ。搾取するだけ搾取して、民を肥やすことを忘れた王も要らねえ。ンなのただの害虫と一緒じゃねえか。害虫は退治しねえとな」
淡々と述べていた修羅は、そこでみんなを振り返ってにかっと笑う。人好きのする笑みを浮かべて「誰か俺についてくる者はいないか」と問うた。皆、目をそらして一歩も動かない。こわいのだ。権力者にたてついて降りかかってくる火の粉が。その後の自分たちの末路が。修羅はそれを見てとってひとつ肩をすくめた。
「邪魔したな」
足を踏み出して去ろうとする。
「待ってくれ! どうしておまえさんはあの城をのっとろうとする!?」
「あんなのが俺の居た国の盟主と同じ“国主”という立場にあるなんて俺ァ認めねえ。ただ……それだけだ」
「盟主?」
「あんたの国の王ってのはどんな殿様だったんだい?」
「蒼空王は旅好きの抜け出しサボり魔だったが、―――その武力、故国で並ぶ者なく、政は公明正大、忠義の御人だ。俺の尊敬する大人物の御一人だよ」
(まあ、実物は馬鹿で呆れて跳び蹴り食らわしたけどな)
「誰も来ないのか?」
「じゃあ、俺は行くぜ? 生きてりゃまたな。あばよ。団子、美味しかったぜ」
修羅は決起しない民たちをおいて、ひとり、城取り合戦に名乗りを上げた。