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Ⅰ.双子の誕生日




月と太陽と星の名を持つ三大島国国家が世界の根幹をなすファンタジー世界。

ここは月の国、月夜国(つきのくに、げつやこく)の北西あたりに位置する島。

一年を通して万年雪が降り積もり、一面の銀世界を構成する冬景色の島、正式名称“銀雪島ぎんせつとう。ここには長寿を誇る少数民族、―――妖力と霊力、魔力など霊媒的な力に精通した特殊な一族が住んでいる。日本で云う妖怪に似た種族である彼らは、総じて美しく、一族全員が銀色の髪を持っていた。そして人を惑わすと言い伝えられていた彼らはいつしか、妖者あやしもの妖族ようぞくと呼ばれるようになった。それをふまえて彼らが住んでいた島は、妖族の島と通称で呼ばれるようになったとさ。


そして今その島の朱塗の鳥居連なる高台に、この物語の始まりを告げる二人の子供がいた。


「今日は特別なお祝いなのら~♪」

「こーら、はしゃぐと崖から落ちて族長様に怒られますよ?」


妖族の証である銀色の髪をした少年たちは双子なのかよく似ていた。体に鎖を巻きつけた不思議な格好、ぼろきれの様な白い服、天然パーマらしい髪の質感や顔立ちの美しさまでよく似ていた。


「今日だけは怒られても、凍らされてもいいのら~♪」

「いやですよワタシは。今日は特別な日、やっと一人前と一族中に認めて貰える大切な誕生日なのですから。早々に凍らされて毒沼に落されるなど愚の骨頂というものでしょう」

「それでもいいのら~。鏡兄と一緒なら、どこへでもいけるのら~」


だが、双子と云えども違いは出てくる。


「幻夜………、あなた………」

「鏡兄ィ」


双子のうち、真面目そうなキリッとした雰囲気の少年の名前を鏡夜。もう片方のタレ目でのんびりした雰囲気の少年を幻夜という。


「そのゆっるい頭をあやし姫様に瞬間冷凍してもらってあなただけ毒沼の毒で焼かれた方がいいのではないですか?」

「鏡兄ィ!?」


幻夜は驚き慌てふためく。


ちなみに毒沼とは、この銀雪島の中央集会所付近に在る、暗く毒々しい色をした底なしの毒沼のことである。この毒沼の水を飲んだものは、先ず助からない。助かるとしたら………この島でずっと生き抜いてきた妖族とその加護を受けたモノだけであると云われている。毒沼の毒は致死の毒。創造主の後悔と世界の負の思い、それらを受け止める底なし井戸が埋まっているとの噂があるこの世界、最凶の毒沼である。


幻夜は云われたことが半分理解できなかった。馬鹿なので。鏡夜はにこやかに言葉を付けたす。


「そしてそのゆるい脳みそ花畑をもっとマシで上等なものに取り換えてきてはどうですか?」


弟の口がぱっくり開く。絶望の顔なのか、驚きの顔なのか、イマイチ判断がつきにくい微妙な表情である。と思ったら、目に涙をためて憤慨し始めた。


「ひどいっ、酷いよ鏡兄ィ!」

「すまんすまん、殴るな。ぽかぽか殴られると威力は弱いが地味に痛いです」

「鏡兄ィが反省すればいいんだのら~!」

「痛い、いたい、ちょっと待ってください……ふふ、あはははははははっ! こら、なにをっ」

「くすぐってやるのら~っ」

「ふはっ、ははははははははっ、ちょっ、幻夜、やめ、やめて、くださいっ」


楽しげに戯れる二人に死角から忍び寄る白影。


『よぉ! 鏡夜に幻夜! 千歳の誕生日おめでとぉー!!』

「わぁっ?!」

「ひひひ、ふはははははっ、ひぅっ!?」


飛びつくように押された二人は高台から下の祠に落ちそうになって慌てた。


『あれ?』


首をかしげる白い影――白いフード付きのローブを着た得体のしれない少女。


「あれ? じゃないでしょ! あやうく弟共々落ちるところだったじゃないですかっ」

「あ、ノアだ~。久しぶり~」

「あなたはなんでそう呑気に振る舞えるのですか」

「えへへへへ~。ほめられたのら~。ノアも褒める?」

『なにこれ、突っ込みどころ満載なんですけど。幻夜、暫らく見ない内にいっそう阿呆になった? だけどかっわいいっ♪』


掴みどころがない雰囲気を発しているこの少女、実は只者ではない。少女の名前はノア。少女はそう呼ばれている。だが少女には沢山の名前があり、どれもこれも偽名らしい。そして少女の本名を知る者はごく一部の者なのだとか。


「ほめられた~!」

「この愚弟!! けなされているんですよ!」

「そうなのかっ!? ……だけど、今日ばかりはなんでも許せちゃうなのら~」

のんびり気の抜けた笑い方をする幻夜に、周囲はほっこりとなった。

「ほんとうに阿呆ですね、幻夜は」

「なんとでもいうがいいのだ~」

『ま、いいか』


それはさておき、大事なのはこの少女がこの世界の創造主であり、今日が双子の誕生日であるということだ。ついでにいうと、三人とも見た目どおりの歳ではない。


このお話は創造主ノアが双子の誕生日を祝いに来たところから始まる。



『それより改めまして、二人とも千歳ちとせの祝いおめでとう。ほんっと、長生きしてるよねぇ』


「ええ、皆様のお陰です。ありがとうございます、ノア。いつになくテンションが高いですね」

「ありがとう~っ、あるじ!」

『いやはやめでたい、めでたい。ぱっぱらぱー! ぱっぱ、ぱっぱ、ぱっぱらぱー!』

テンション高く小躍りしてお祝いモード一色のノア。鏡夜は微苦笑して眺め、幻夜はふと疑問を口に出した。


「それで、プレゼントはないのら~?」


その幻夜の催促に、その動きをピタッと止めた。


『はぁ~~~。……何がいい?』


彼女は一気にテンションが下がったように、静かに溜息を吐き、双子をじろりと睨む。


『和菓子。鏡。書物。武器・防具類。酒。イベント開催券。その他諸々。ひとの心とか、そういう無理ゲー的なモノ以外なら、いろいろとあるし、なくてもある程度は用意出来るよ。あんたたちの千歳の誕生日だし、一人一個、若しくは一揃い、プラス二人で一個のプレゼントあげるよ。わぁ、私優しっ。あははは』


彼女は色々とプレゼントをあげつらった挙句、白々しく乾いた笑い声をあげた。鏡夜は頭がいたいと深い溜息を吐く。


「ドコが優しい御人ですか。最後のプラスワン以外、とっても普通なことですよ。」


『誕生日プレゼントを幾つも用意してあげるとこ。ぷらすわん、いいでしょ? ぷらすわん。あはは』


「それにプラスワンの方も微妙です。更に言わせてもらえば、主のその物凄く嫌そう且つとってもメンドクサイという雰囲気丸出しなのが減点ですね。最悪です」


「わ~、鏡夜ってばエスパー?」


「違います。ですから、全然優しくありませんよ?主。…まったく、千歳の特別な誕生日なのに何言わせてくれてんですか。あなたは」


「もらえるだけでもぼくはうれしいなのら~♪」


幻夜はニコニコと本当に嬉しそうにはしゃぐ。ノアはそんな幻夜に優しい眼差しをおとして頭を撫でた。


『うんうん、幻夜は素直でかわいいな~♪ 癒されるよ。』


幻夜は目を細めてもっと撫でて撫でてと手のひらに頭をぐりぐり押し付けてくる。


『で、何がいい?』


しばらく幻夜の髪の感触を兄の鏡夜と共に味わったノアは笑って尋ねた。


「「能力の強化とイベント開催券を!!」」


双子の兄弟は声をそろえて答える。


『ホントにそれでいいんだね?』


ノアは双子に問う。


「「はい。/うんっ。」」


『ふふっ。いいよ。あげる。その願い、今日は特別に叶えてあげる。なんてったって、今日は二人の千歳の誕生日だ。』


ノアは妖しい微笑を浮かべて何処からか分厚い本をひっぱり出し、手に取って表紙を開く。


『“世界の理なす書物の中の書物、創生の書、我書き換える者”ってかァ? くすくすくすくすっ』


すると本がうすく光を放ち、宙に浮かぶ。ノアの手もとから離れて風もないのにぱらぱらと勝手に本のページが際限なくめくられていく。そして少女は言う。


『二人は妖で、双子で、能力は“鏡”だったね』


「はい、そうです」

「妖族固有の特殊能力なのら~。鏡の能力は、ぼくたち二人で一人の双子、特有の能力なのら~」

「使い勝手は微妙なところですがね」

「移動手段に重宝するのら~」

「触媒が必要ですから、やはり微妙なのですがね」


『そして今の能力の範囲はそんなに広くない。そして効果の範囲も。また、疲れやすい。ならば……』


双子に向き合う形で、ノアは集中するように創生の書と呼ばれた書物に向かって構える。


『≪我、この者らの創造主。この者らとこの者らの所属する世界をつくりし者。物語を紡ぎ語りし者の一人にして、また、ツクルモノ。其の我が権限にて、この双子の妖しき者らに新たな【二つ名】を送るとともに、其の“能力”を書き改めよ!!≫』


すると、ノアの本が一層光を放ち、鏡夜と幻夜が不思議な光に包まれる。一拍後、双子の兄弟を包んだ光は消え、それと同時位にノアの分厚い本もパタンッ、っと音を立てて閉じる。光も消え、創生の書と呼ばれた本はノアの手の中に落ちてきた。


『どう?とりあえず、能力・効果、その他諸々の範囲広げて、能力じゃんじゃんホイホイ使えるようにして、疲れにくくして、普通の鏡だけじゃなく、水鏡とか、鏡になるものならなんでも効果が及ぶようにし、渡れるし、行き来できるようにした。占鏡とかもできるようにした。でもこれらはランダムで割り振り。あれ、これ、うまく使えば最強じゃね?的な感じに仕上げてみました~♪イエ~イッ☆!!パチパチパチパチ』


大事なもののハズの書物を後ろ手にぽいと投げ捨てた――仕舞ったのである――ノアはにっこり笑ってふざけ、陽気に拍手した。

幻夜は自分の手を見つめて好奇心にキラキラと輝かせ、鏡夜はわなわなと震えている。あれ、そんなに嬉しかったのかな?とノアは思った。


『気に入ってくれたかな?』


「アホかっっ!! やりすぎです!!【二つ名】にいたってはまんまじゃないですかっ!!

 いや、ありがたいですけれども・・・」


「わぁ~お!!すごいのら~。もう、これ、魔改造の域だよ~☆あはははははははは~!!」


幻夜の眼は逝ってしまっている。テンションも無駄に深夜の如きウザさだ。


「幻夜――!! もどってきなさいっ!!」

「あはははは☆ 川が見えるのら~! お姉さんっ、なんで透けてるのら~? ありゃりゃら? 何百年も前に死んだ前の長老さんがみえるのら~」


ノリで定型句なるものを云ったはずなのに、弟の見ている景色が予想以上にヤバかった。


「そっちは三途の川ですよ!? 冥界レテの川ですっ!! 幻夜、幻夜っ、もどってきなさいっ」


『にゃはははははは!!すごいでしょ~!それと鏡夜~、わっちはアホではないよぉ~。ただ単にはっちゃけてるだけ。』


そう言いながらノアは本を懐に仕舞い、ゴソゴソと懐を探って〈イベント開催券〉と書かれた一枚のカードを取出して、二人に差し出す。


『はい、イベント開催券。これを先程送った【二つ名】を使って使用すれば、二人でイベントを主催できるよ。使用方法は、この券の表側に【名】を書き、裏側にイベント名とイベントの内容などを書くと、月の島広場にある掲示板に書いたものが掲示され、この券自体は消える。ちゃんとイベントの期間も書くんだよ。書かなければ自動的に世界が滅ぶか、わたしがわたしの“真実本当の”身体がある世界で完全に死ぬか、貴方たち双子が二人とも“存在や記憶ごと”消え去るまで、永遠に開催され続けるから。あんたたちの意思は関係なく、ね。だから気を付けてね。ちゃんと期限書いたら、終りの時に空中に≪END≫とか表示されるから。わかった?』


幻夜に往復ビンタを食らわせた鏡夜はカードを受け取って礼を言う。


「はい。ありがとうございます。」


正気に戻った幻夜も赤く腫れた頬を両手でさすりながら、重ねて礼を言う。


「ありがとー主。気を付けるよ~。エンドレス働きづめは嫌だもん。」


『あははは。なにはともあれ、千歳の誕生日、おめでとう。

じゃあ、用事ももう終わったし、僕はもう行くね。能力の把握と修行頑張ってね!!バッイバ~イ!』


「はい。では、また。」


「まったねー!主」


鏡夜は一礼して、幻夜は大きく手を振る。

ノアは後ろ向きに手を振りかえす。彼女は高台の鳥居の下をしばらく駆けて行った後、突然煙のようにかき消えた。



二人はそれを当然のように見送って、今後の予定を話し合う。


「さて幻夜、さっさと能力の把握と修行終わらせて、私達主催の初イベントを開催しよう。」


「そうだね、鏡兄ぃ。さっさと終わらせてがんばろ~!!エイ、エイ、オ~!!」


「くすっ。」


「あっ、頭くしゃくしゃしないでよ~!頭ぐらぐらする~・・・」


「フフフ・・・、頑張りましょうね。」


「鏡兄ィとがんばるのら~! えい、えい、おー!」


双子の決意は雪降る島に染み込むようにして、数か月後、実現するのであった。





誕生日話。魔改造。主と双子。布石話。まだ主人公でない。次あたり出す予定。不定期更新上等!見切り発車~♪


千歳の誕生日は殊更特別。そういう設定。主と双子は仲がいい。


どうぞお楽しみください。

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