嵐の塔の隠し通路
骸骨の群れから命からがら逃げてきたわたし達。どうにか精霊王がいるっぽい尖塔へと侵入することができた。
精霊王の居場所を指す風の精霊さんから貰った羽がめっちゃ光っている――と確認した矢先、羽はまるで使命を果たしたかのように、フッと輝きを失った。
どうやらここで間違いないようだね。
さて、その塔の内部なんだけど、非常に簡素な造りだった。壁と床と柱しかない。モンスターが出現しないのは助かるんだけど、逆に何も出てこないと不安になる。
外から見た限りでは、かの火災事故で有名な《グラスタワー》よりかも遥かに高かった。階段が見えるのだけど、とても上る気にはなれない。
「何もないところですね」
「うーん、そうだね」
マホツカの魔法失敗によってダメージ大な戦士と、船酔いでダウン中のマホツカが休憩している間に、わたしと僧侶ちゃんで塔の中を散策していた。
入り口の扉から時計回りに壁伝いに歩く。反対側まで来てみたのだけど、中央に柱がある以外は本当に何もない。
「それに薄暗い場所ですね。足元に気をつけないと」
精霊の洞窟と違ってスイッチ一つでオンオフできる照明設備は存在せず、格子窓から入ってくる僅かな光だけが頼りだった。
とはいえ、フロア全域はそれなりに見渡せるので問題はない。まだ横になっている戦士とマホツカも薄っすらと視認できる。
そして、そんな薄暗い中でも僧侶ちゃんは太陽のように眩しくて輝いているぜッ!
と、わたしは僧侶ちゃん太陽神伝説を想像していると、
「うおっ?」
壁に手を当てながら歩いていたわたしのその手が壁の中へとめり込んだ。
「ゆ、勇者さん腕が! 大丈夫ですか?」
「う、うん。何ともないよ」
ただの壁かと思えば、何とすり抜けられるではないですか。
「まさか、これが世に聞く『隠し通路』ってやつ?」
通路の奥に何かありそうな予感がするぜ!
隠し通路――それはレアな宝箱へと続くロマンロードであったり、もしくはボスへと続くショートカットであったりする。きっとこの壁の中もどちらかに違いない。
「ちょっと見てくる」
わたしは隠し通路へと体を入れた。
「え、あ、勇者さん?」
危険だと感じたのか、僧侶ちゃんはわたしを止めようとした。
しかし、僧侶ちゃんの頼みでもそれは無理な話だ。なぜなら――ロマンだからだ! 虎穴に入らずんば虎子を得ずってね。
「大丈夫ですかー、勇者さーん」
「うーん、今のところはー」
隠し通路の中は予想通り自分すらも視覚できないほどの暗黒空間だった。できれば俯瞰視点になりたい気分だ。
こんなに暗くては何が待ち構えているか分かったもんじゃない。僧侶ちゃんを連れてくるわけにはいかないな。わたしが犠牲となって――、
「あだっ」
うう、顔面から壁らしき行き止まりにぶつかった。いてててて……。
となると、左右どちらかが曲がり道となっているはずだ。まずは左を――いでっ! こっちも行き止まりか。だったら右は……おでっ、んべっ、どはっ。
「んぎゃー、何も見えねー!」
カサカサカサカサ――、
「!?」
ひえー! 何かいるー!
恐怖に耐え切れず、わたしは急いで引き返した。真っ暗で既に来た方向が分からなくなっていたけど、微かに感じる僧侶ちゃんの聖波動を頼りに帰還を果すことに成功した。
「だ、大丈夫ですか勇者さん!?」
「ううぅ、よかったー戻れて……」
何という恐怖空間なんだ。遊園地のお化け屋敷が昼の繁華街に思える。
隠し通路は非常に危険である。不用意に入らない方がよさそうだ。
「ここは素直に諦めよう」
「そうみたいですね」
探索するにも、やっぱ明かりを灯すアイテムが必要だね。今後のためにも、やはり何かその手のアイテムを購入した方がいいだろう。
と、わたしは脳内で予算会議をしていると、
「?」
むむ……。
「どうかしましたか?」
再び壁に手を当てながら歩いていたわたしは、どこか感触の違う壁を見つけた。
コンコン、コンっと。
試しに壁を叩いてみると、空洞っぽい音が返ってきた。
「怪しいな、この壁」
調べてみる価値はありそうだ。
「ちょっと下がってて、僧侶ちゃん」
「は、はい」
わたしはつい先刻入手したばかりの湾曲した剣、《ショーテル》で壁を叩くように斬り付ける。すると――、
「おおっ!」
「壁が消えました」
不思議なことに、壁はフワッと消滅した。そして奥へと続く通路が露になった。
またしても隠し通路ですか。
「今度のは安全そうだね」
「どこかに繋がっているんでしょうか?」
わたしと僧侶ちゃんは隠し通路その2へと足を踏み入れた。風が吹いてくるのは、外へと繋がっているからだろう。
「!」
十数段ほどの階段を下りると、日の光が、外が見えてきた。
そしてついでにもう一つ、
「あれは、」
「モンスターのようですね」
それは全身が黒い骸骨だった。どこかの悪魔祓いのジョンさんみたいに、生前にタバコでも吸いすぎたのだろうか。島へと上陸してすぐに襲い掛かってきた《骸骨騎士》とは明らかに一線を画したオーラを放っている。眼窩には溶岩色に光る不気味な眼が宿り、剣を二本所持していた。何か強そう。
「どうしよっか?」
「不用意な戦闘は避けた方が」
「そうだね、っと!?」
モンスターはこちらに気付いたようで、ガチャ、ガチャとゆっくり近寄ってくる。どうやら回転移動はしないようだ。これなら難なく振り切れる――、
「!!」
ところが、緩慢な動作から一転して、黒い骸骨騎士は二本の剣を胸の前で交差させ、姿勢を落とすと、疾風の如く飛び込んできた。
「おわっ」
「導け、《光の解魂術》!」
二本の刃こぼれした反りのある剣がわたしに向かってきた瞬間、僧侶ちゃんの法術によって敵は昇天した。あ、あぶねー。
「さっすが僧侶ちゃん」
「いえ、これぐらいはたいしたことないですから」
んみょー!! 謙遜する僧侶ちゃんまじかわいー!
「あれ、何か落ちていますね」
「ん? 本当だ」
さっきの黒骸骨がドロップした物であろうか。敵が霧散していった場所に鉱石のような光る物体が置かれていた。
「きれいですね」
確かに、美しい。まるで自然の純粋な輝きを宿した鉱石だった。骨しかないのに、どこに所持していたんだろう? 魂が結晶化したとか?
「どれどれ……む?」
手に取ってみると、めちゃくちゃ重い。
「これは、ちょっと運ぶのは無理っぽいかな」
戦士なら持てそうかな?
でも、こんな大きな鉱石を持っていても邪魔になるだけだな。
「まあいっか、置いておこう」
「そうですね」
そんな感じで、わたしと僧侶ちゃんはアイテムを諦めて散策の続きを再会した。
………………、
あれ、オチは?