"甘甘"
「なんて事するんですか!」と、泣きながら引っ叩こうと思ったものの、職業柄か『ご主人さま』に手を出す事は出来なかった
白糖に生まれたものは、就ける仕事が少ない
自然界では簡単に捕食されるし、崩れやすい躰は凡ゆる仕事に適さない
仕事の際には家政婦の服なんかを着させられるし、少々の不満は有ったけど、僕は結局のところ幸せなのかも知れなかった
とはいえ僕の『ご主人さま』は、とんでもない男性だ
僕を家に迎え入れてからというものの、執務中の栄養源として僕を『捕食』する事をしょっちゅう繰り返して居る
僕は学の無い方だが、白糖だって恐らく人類種の筈だ
これは一種のカニバリズムであるように思えたが、僕の主人には、まったく倫理というものが存在して居なかった
「───おい」
ご主人さまは大きな書斎机で様々な書類に眼を通しながら、声だけで僕を呼ぶ
僕はその傍らまで急ぎ参じると、跪いて袖をめくり、片手を差し出す
我が主は、感情の読み取れない瞳で僕を視下ろしながら、差し出された手の人差し指を口に含んだ
「─────〜っ!!!」
『生娘みたいにして』『いつになったら慣れるんだ』と叱責を受ける事もあるが、こんなものいつまで経っても慣れる気などしない
まして、僕の主人がこの後する事を僕は知って居る
口に含まれた指は、ぽりっ、という小さな音と共に僕の手から剥落し、直ぐに僕の悪辣なる雇い主の口腔の中へと消え、視え無くなった
彼は、こんな時だけ明確に僕の眼を視て、咀嚼を行う
顔には満足げな、そして嘲笑的な笑いが浮かんで居る
その眼で視られるたび、眼の端に涙が浮かんだ
きっと、羞恥によるものだった
僕が耐え切れなくなり顔を両手で覆うと
ご主人さまは僕の手首を掴み、乱暴に引き寄せた
衣服の肩が焦るようにめくられて
露わになった僕の肌に、ご主人さまが歯を立てる
「えっ………!?」
「えっ?あっ……あっ………」
『何してるんですか、このバカ!』と、いつもなら出る言葉が出て来ない
肩が齧られ、少しずつ崩れてぼろぼろになる
どれくらいそれを繰り返したろうか
僕の腕が付け根から折れて、躰を離れていった
切り離された腕はご主人さまの腕に抱きかかえられ、その指先の一つが圧し折られ、僕の口に無理矢理押し込まれる
突然の事に呼吸がパニックを起こす
「何してるんですか……」
「…………このバカ」
暖かくて大きな、そしていたづらな腕に
それでも優しく抱かれながら
眼の端に溜まっていた涙が、そろそろ溢れ出し始めて居た




