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異世界に行っても頑張らないおっさんの話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/02/21

『あいつ、失敗するぜ』

『親方、縁起の悪いことは言わない』


日本時代、老職人がある職人の独立のお祝いに水を差すようなことをささやいた。

独立する職人は若い。人当たりが良くてどこか憎めない。いわゆる陽キャだ。

バーで谷町を見つけて会社を起すことになった。


とび職で足場を組む。経験を積んでそれなりに腕があるらしい。


『フン、あいつは突発ばかりしていたのだ。そういった奴は必ずどこかでこける』


突発とは急に休むことだ。

風邪は誰でも引く。しかし、月に一回もあれば怪しくなる。

本当に風邪でもそれは肉体労働に不適切と証明するようなものだ。


つまり、頭が悪くて体も弱い・・・か。



それから風の噂で聞いた。若い職人の会社はゴチャゴチャになり。最後、自分の部下を殴って警察沙汰になったそうだ。


『環境が変わったから頑張るって、今を頑張っていない証拠だ』


老職人の言葉が耳に刺さった。



・・・・・・・・



異世界に来た俺は何故か、その話を思い出した。


「何だ。ハズレか」

「下等遊民か」

「労働の匂いがするな」


何か、ローブを羽織った奴らに失望され。


「貴殿は、一応控えである。ここで暮らせ」


と部屋をあてがわれた。

やった。これで夢のニート生活だ。

俺は異世界に行っても頑張らない。


適当に暮らす。


時々、文句を言う。


「あのね。召喚したのは貴様らだろう?俺の品質を管理する責任があるのだ!肉を食わせろ!」


三日に一回は肉が出てきた。言ってみる物だ。


次は・・・


「あ~、退屈だ。本を読みたい。何だ。この国は。客人が暇で死んでも良いのか?」


本が差し入れされた。くだらない恋愛小説だ。いや、恋愛小説はいいが、時代が変わると途端に面白くなくなる。感動が分からなくなるのだ。


例えば、近世、女家庭教師は、独身で過ごす者が多かったそうだ。多くの家庭教師が没落した貴族の子女だった。いまさら、使用人階級と結婚出来ない。かと言って雇い先の子息と結婚など言語道断。そんな存在だった。


それが、貴公子に見初められたら。それだけで、ハラハラドキドキする展開だが、現代人にはとんと分からない。


だから、外出しよう。


「あ~、外出したいな!馬車と運転手、寄越しやがれ。この王国は客人に見られては不味いほど貧しいらしい」


今度の要求も通った。


「イエーイ、馬車だ。よろしく」

「はい・・・」


王都郊外を回る。貧しいな。一昔の日本以上に貧しい。

が、旅人も多い。交易は行われているのか?


そんな毎日を送っていたら、ついに、向こうの堪忍袋が切れたらしい。


「ヤマガタ殿!馬車もあてがわれたようですし、仕事をして頂きたい!」

「は~い」


「こちらが第六王女イリナ王女殿下でございます」

「よ・・・よろしくお願い申し上げます」


「どうも」


美少女だ。髪はサラサラの金髪、瞳はここからでも分かる青だ。

はあ、年齢は15歳?で、婚約者はいない?


「はい、私はこのような見た目ですから・・・」

「へえ・・・」


これは美醜逆転世界か?

いや、違った。


「私、どんなに食べてもお姉様達のように太れないのです」


そうか、楊貴妃も白豚にしか見えない説がある。後進国ではいまだに太った男が経済力があるとモテると聞いたことがある。

時代差か・・・・


そうか、俺の見た目は中肉中背で体を鍛えていたので筋肉はある。労働者階級だ。だから、失望されたのか?


多くのネット小説でニートが活躍するのも、深層意識で向こうの要望が日本にも反映されたのか?


何でも彼女は側妃の娘で、母親の実家は伯爵家、その伯爵家の資金で仕事をするらしい。



言われた仕事は道の整備だ。

土砂崩れで、道が埋まってしまったそうだ。


イリナ王女殿下と家来と共に現場に直行する。

「とてもヒドい惨状ですわ・・・」

「えっ、これが・・・」


俺は木の棒を土に通した。惨状に見えるが、道の上に30㎝ほどの高さぐらいしか積もっていない。

それに整備するのは道だけだ。

他の土地は草原だ。ほっといて良いだろう。


一人、賃金は一日銀貨一枚か・・・

それを100人、いや、50人にして、飯場を作って・・・予算は・・・


と思ったが、この時代はまた違うらしい。


「付近の農民を徴用しますわ・・・私の命令で人が集まるかしら・・」

「集まりますぜ」


まずしたことは、立て札を立てる。


‘’飯を用意するから集まれ’’


だ。農民達がゾロゾロ集まって来た。


「これをすくって、土嚢を作ってくれないか?」


さすが、農民だ。スコップの使い方が分かっている。


「一番、多く作った者には賞金を出すぜ。一位は金貨3枚、二位は2枚、三位は1枚だ」


「「「「オオオオオオオーーーーー」」」」



俺たちは土嚢を数えるだけだ。

出来た土嚢はそのまま道に穴を掘って埋める。これは後進国で行われる簡単な道路整備だ。


およそ数年はかかると言われた復興は一月で終わった。

費用もたいしてかかっていない。10分の1か?


「イリナ姫、どうでしょうか?」

「す、素晴らしいわ」


飛び跳ねて喜んでくれた。

結局、彼女の功績になった。それで良い。だって、資金と事務員は彼女の実家だもの。それでよい。



さて、念願のニート生活を送るか・・・


と思ったら、また、異世界人が召喚されてきた。


「豚田屯男です。ブヒ!」


太っているな。今度は神官達は大喜びだ。


「労働の匂いがしない・・・これは高等遊民だ」

「まあ、麗しい体だわ」


大モテだ。


目はそっちに行った。

俺は念願のニート生活に戻った。

働くのは嫌だな。日本時代働かなくても良かったら間違いなく働かない自信まであった。



しかし、深刻な事態になった。


夜、イリナ姫がシクシク泣きながら部屋に訪ねてきた。


「ブタダ様が私を所望しています。お姉様たちは私に嫉妬して・・・グスン。ドレスを破かれましたわ」

「大丈夫、何とかするから・・・今日は帰りなさい」

「はい・・・」

決死の覚悟で来たらしい。こんなことをすれば使用人経由で噂になる。

事実噂になった。


俺は不満をこぼした。


「ああ、この王国は客人に妻を持たせないのか?ああ、顔は不細工でも良いから妻欲しいぜ!」


すると、イリナの姉たちの利害と一致し。俺の部屋に来た噂も考慮されて。

花嫁姿のイリナ姫が来た。


「お願いもうしあげます・・・」

「こちらこそ、よろしく」


さあ、頑張るぞと思ったが、王宮を追放された。イリナの実家に行けとのことだ。



「ブヒ!イリナたん!」

「まあ、ブタダ様、私がおりますのに」

「お姉様!ブタダ様は私と結婚しますのよ!」


太った姫達が豚田君を取り合っている。

地獄の光景だ。


「まあ、イリナ、良かったわね。男は顔と体じゃなくってよ」


嫌みを言われた。イリナは満面の笑みで返す。


「はい、お姉様、男は心ですわ。祝福有難うございます!」

「まあ・・・」



・・・・・・・・


イリナの実家の領地は王国でも辺境に位置する。

皆、痩せ細っている。

ここではイリナの伯爵家は従兄弟夫婦が爵位を持っているから、俺たちは財産管理人補佐で暮らす。


イリナには年金が出ているから、それでも暮らせるから・・・


俺は魔物対策などを請け負った。


「いいか、広大に見えても、守る拠点は限られている。土塀で囲え!」

「しかし、ヤマガタ殿、資金は・・・」

「そうです。ここの土は土塀に適していません」


「立派な城壁でなくて良いのよ。土嚢の壁だな。又は堀だ」


一律ではなく、村の実情に合わせて、防護柵を作った。

この世界、冒険者がいる。


地球の中世世界とは大きく違う。つまり、庶民が武器を持つのを禁止する法令はないのだ。むしろ自衛せよとのことだ。


フランスで化け物騒動が起きた時があった。狼に似たナニカが村人達を襲ったのだ。その時、村人達は武器が持てなくて、被害者が続出した。

竜騎兵まで出動したのだっけ。正体は、どこからか来たハイエナ説がある。


狼を目撃してる村人たちが狼に似たナニカと証言していたからな。


おっと、それはどうでも良い。伯爵殿だ。


「ヤマガタ殿、税収が五パーセントもあがりました・・・」

「それは良かった」

「道の修復といい。貴方はいったいどんなスキルをお持ちで?」


「昔、土木屋に勤めていました。と言っても技術は薄らと浅く広くあります」



ここで俺の日本時代の話を始めて話した。


「そうですか・・末永くいて下さい」

「はい。有難うございます」


伯爵から俸禄が出ている。月に銀貨30枚頂いている。イリナの年金は25枚か・・・


俺は小遣いをもらいながら、今は研究をしている。


「あなた。食事ですよ」

「おお、どうも」

「まあ、図面を引いて何をなさっているの?」

「うん。ダムだ。これは大事業になるから、ビーバー方式だ。ここに大きなため池を作れば、農業は潤うし、魔物が跳び越えてこなくなる」


「そう・・・あなた、実は報告することがあるわ・・・」


子供が出来たらしい。

そうか、頑張らなくては・・


「今の生活で幸せだわ。ドレスも宝石もいらないわ」

「イリナ・・・でも、プレゼントさせてくれ。身の丈にあった物を贈るぜ」



その後、王都からは芳しくない噂を耳にした。

豚田君は鉄道網を作ろうとしたが、出来た汽車は一馬力、つまり意味無しだ。


そうだ。人類は長らく一馬力の壁を越えることは出来なかった。


建設機械は・・・


「俺たちの子供の世代だな」



俺は今もこうして、のんびり暮らしている。異世界に行っても頑張らない。との決意は守ることが出来ている。



最後までお読み頂き有難うございました。

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