頑張れ、恋心
それからも日々は過ぎ、図書室で仕事をしている間も特に会話もなく淡々と過ごしていた。
早乙女は話そうとしてくれているようだったが、沙樹は棚の整理にやたら行ったり、積極的に窓口に立つようにして話しかけられないようにしていた。
それでも気づくと目で早乙女を追いかけてしまう。
どれだけ態度を見繕っても、好きという気持ちをなかったことにすることは出来ない。
自分に嘘はつけない。
それでもそうやって、誤魔化さないと上手くいかない現実の中で過ごすことができない。
それに時間さえ経てば、気持ちは落ち着くはずだと沙樹は思っていた。
「沙樹、何があったかは言いたくないみたいだから聞かないけど、このままでいいの?望月にとられちゃうよ?」
教室の端の席で、本を読んでいる早乙女に望月が熱心に話かけている。
「・・・私なんて早乙女君と釣り合わないからさ」
「釣り合うとか釣り合わないとかそんなこと考えて好きになってるの?」
「それは・・・」
「好きなんでしょ?」
真理がまっすぐに見ている。
「・・・わからないや」
沙樹は俯くしかなかった。
胸の中のモヤモヤとしたものは、時間が経ってもまだ居座っている。
「沙樹、望月が早乙女を屋上に呼び出したって」
翌日、授業が終わって掃除をしていると、真理が走ってやってきた。
「たまたまトイレで聞いちゃったのよ!望月の友達が話してるの」
うちの高校の校舎は、海が近く、屋上から綺麗に海が見える。
本来、屋上はカギがかかっていて入ることは出来ないはずだが、昔からカギが壊れていて誰でも入れる。教師たちは気づいていないようだが、学生の間では誰もが知っていることだ。
そして夕日が落ちる海が綺麗で、有名な告白スポットになっている。
つまり屋上に呼び出したということは、告白するということだ。
「あ・・そうなんだ・・」
ズキっと胸の奥が疼く。
「沙樹、いいの?」
「言いも何もそれは早乙女君が決めることだし・・」
「ねぇ、沙樹。本当に後悔しない?」
「いいの」
沙樹は箒を真理に押し付けて、教室を出た。
望月が早乙女に告白する。
上手くいくかもしれない。
早乙女が望月と微笑んだ顔が思い浮かぶ。
廊下を歩いている間もぐるぐる考えがまとまらない。
“そっちの方が俺は好み”
“絶対委員会サボるなよ”
“ワンピース似合ってる”
早乙女に言われたことが思い出される。
その度に息が苦しくなるほどドキドキした。
(私、早乙女君のこと好きだ)
“「ねぇ、沙樹。本当に後悔しない?」”
真理の言葉が蘇る。
手をぎゅっと握ると、スカートのポケットに手が触れた。
ポケットの中には飴が入っている。
“「気をつけて帰れよ」”そう言って、帰っていた早乙女の背中が思い出される。
「後悔するに決まってんじゃん」
沙樹は、走り出した。
早乙女の元に向かったところで、なんと言うつもりなのか、なんと言えばいいのか、何もわからない。
でも今、早乙女のところに行かなければ絶対に後悔する。
結果は、どうでもいい。
恥をかいてもいい。
今は黒縁眼鏡の地味な女子だ。
それでも、とにかく早乙女に今は会いたい。
階段を駆け上がって、屋上の扉を開いた。
望月と早乙女が立っている。
望月が泣きながら、沙樹の横を通り抜けた。
「沙樹・・ちゃん」
早乙女が沙樹をみてつぶやいた。
(沙樹ちゃん・・?)
沙樹は、なぜか懐かしい気持ちになった。
早乙女は、子供のころを思い出していた。
「私はね、白馬に乗った王子様と結婚するの」
小さな沙樹がにこっと笑っている。
(王子様になれば沙樹ちゃんと結婚できる)
泥だらけの恰好の小さな早乙女は、その笑顔に頬が熱くなった。




