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息も出来ない  作者: 月丘 翠
沙樹side
6/15

いってきます、カラオケ

「疲れた…」


沙樹は目が回る忙しさというのを初めて体感した。

初めて図書の貸し出しをするので、2回生の先輩と一緒に入ったが、かなりの人がカウンターに来た。先輩に教わる時間もなく、とにかく言われるがままに動き続けた。

どうやら2年生の学年で国語教師が読書感想文を宿題にしたらしい。

土日にやろうと多くの2年生が図書館に押し寄せたせいで混み合っているのだ。


「おー、来てる、来てる」


図書委員会の顧問であり、この原因を作った国語教師の狸原が後ろからのんびりとやってきた。


「先生のせいでしょ」と先輩が口を尖らした。

「作戦成功だな」

狸原は笑うと、手伝うこともなく去って行った。


「たぬき親父め」先輩たちは毒づきながらも淡々と仕事をこなしていく。

たぬき親父と言われた教師は、お腹がポテっとしていかにもたぬきといった感じだ。

実際に名前も狸原というのだから、名は体を表すとはよく言ったものだ。

穏やかで呑気な雰囲気だが、本音を隠している感じがして、どこか侮れない教師だ。


2時間くらいで人の流れが穏やかになり、2回生に色々教えてもらうことができた。

沙樹はメモ帳を持ってくるくるとついて回ったが、早乙女はメモも取らずに記憶していっているようだ。

来週はここまで忙しくはないと思うが、先輩がいないと思うと不安だ。


あっという間に下校時刻となり、校舎を出ると真っ暗だ。


「疲れた」


思わず、沙樹がつぶやくと、早乙女がこちらを見ている。


「あ、ごめん。私のせいで金曜になっちゃったのにね」

「別に」


何を話していいかわからない。

校門までの道のりが少し長く感じる。

二人の足音だけが響いている。


早く校門についてほしいような、ついてほしくないような―


沙樹の顔の隣には早乙女の肩がある。

心臓の音が聞こえてしまいそうだ。

そんなことを考えているうちに、校門に辿り着いた。


「あ、あの私こっちだから」

「・・・じゃあな」


そういって早乙女は逆方向に歩いていく。

沙樹も背を向けて逆方向に歩いていく。


「おい」

早乙女の声がして振り返ると、何かが飛んでくる。

沙樹がキャッチすると、「気をつけて帰れよ」そういって早乙女は再び背を向けて歩き出した。

沙樹の手の中には飴が入っていた。


そこからは特に何があるわけでもなく、日々は過ぎていった。

高校生活にも慣れてきて、沙樹も穏やかな日常を過ごしていた。

図書委員の仕事にも慣れ、問題なくこなせている。

忙しい時間もあり、早乙女とさほど話す機会はなかったが、一緒に過ごせているだけで沙樹は満足だった。

そして初めての中間テストを迎えた。


「終わった・・・」

真理は絶望した表情で、沙樹の方へやってきた。

「絶対点悪いよ・・・」

「まだわからないでしょ」

沙樹は荷物をまとめながら返事をした。

「なんか妙に嬉しそうだね。そうだ、テストで手ごたえあったんでしょ」

「まぁね」


今日は金曜日。

この後、図書館に行かなければならない。

テストも終わったし、ウキウキした気持ちが抑えられない。


「テスト終わったし、日曜カラオケに行こうぜ」


元気のいい男子が騒いでいる。何人か賛成しているようだ。


「早乙女もたまには顔出してくれよ」

早乙女は少し考えて「まぁいいけど」と答えると、女子たちが「私たちも行く」と言い出した。

もちろん望月も「私も行きます」と返事をしていた。

あれから望月から特に何もされていないが、関わらないのが一番だと距離を取るようにしている。


「ねぇ、沙樹、早乙女様も行くってよ」

「そうみたいだね」

「沙樹、ここは参加すべきじゃない?」

「いや、私は・・・」


早乙女と休みの日に会えるのは魅力的だが、地味キャラの自分がこんなカースト上位みたいな集団に入ったらどうなるか想像がつく。

ましてやカラオケ。

沙樹が一番苦手なものだ。


さも聞こえていないかのように真理と教室を出ようとすると、

「浦田、暇だって言ってたよな」早乙女がこっちを見ている。


そういえば、図書館で作業をしている時、土日はやることなくて、暇だというようなことを話したことがある。


「じゃあ浦田と佐藤も参加だな」


騒がしい男子がこちらの返事も聞かずに、参加と決めて話を進めていく。

望月と目が合う。

何で来るんだ、と目が言っている気がした。

今度の日曜はロクなことがなさそうだ。

沙樹は憂鬱な気持ちになったが、真理の顔は笑顔全開だ。

きっとロクなことを考えていないに違いなかった。


「さぁ、今日は買い物するよ!」

翌日真理に「日曜に着ていく服を買いに行こう」と言われ、沙樹は強制的にショッピングモールに連れてこられていた。


「早乙女様ってかわいい系と綺麗系ってどっちが好みかしらね」


真理は色んな店に入っては、沙樹に服を合わせては、ああだこうだと言って、服を試着させていく。


「ちょっとこれは・・・」

へそ出しの服を着せられた時はさすがに驚いた。

「やっぱり沙樹にはこれかな」

やっと真理が納得した服は、白のロングワンピースだ。シンプルだが、沙樹のスタイルが良く見える。

「男は白のワンピースとかそういう女の子!って感じの服が好きらしいよ」

「それも大道寺牡丹?」

「これは私の意見」

真理は得意気にそういうと、沙樹をお会計に誘った。


少し疲れたので、お茶をすることにした。

「沙樹、早乙女様とはどうなの?図書委員でいつも一緒でしょ?」

「金曜の放課後はね。でもなんか上手く話せなくて、ほとんど図書室の話をして終わりって感じかな」

「なーんだ、全然ラブな感じじゃないじゃん」

「そりゃそうでしょ。私に恋愛なんて・・・」


「初恋だもんねぇ」


真理はニヤニヤしながら沙樹をつつくと、沙樹の顔は真っ赤になった。

「うるさいなぁ、もう」

「明日は楽しく過ごせるといいね」

「うん」

一瞬望月の怖い顔が浮かんだが、それ以上に早乙女と遊べることが楽しみだ。

沙樹は明日は楽しくなるといいなと思いながら、オレンジジュースを飲んだ。

甘くてほんのり苦い味が口に広がった。


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