息もできないのは
驚いた顔の早乙女がこちらを見ている。
幼い頃の幼稚園の制服、黄色のカバンー。
(どうして…?)
沙樹は、懐かしい気持ちになってくる。
早乙女のクールな顔じゃない、少し頬を染めてこちらを不安げな顔がだんだん幼い頃と重なっていく。
幼稚園の頃に、沙樹に謝ろうと泣きそうな顔で見ていた男の子をふっと思い出した。
「・・・翔ちゃん?」
早乙女がさらに顔が赤くなる。
ぞうきんが飛んできて眼鏡をぶっ飛ばされた記憶が蘇る。
翔ちゃんのことが私は大好きだった。
なのに、メガネは飛ばされるし、ぞうきんは投げつけられるし、ショックでかなり怒ったのだ。
「あれ?でも名字が、早乙女じゃなかったような」
「それは・・・あの時早乙女って女っぽいから嫌で・・・山田って言い張ってただけ」
無言の時が流れる。
「・・・早乙女君は私のこと気づいてたの?」
早乙女は少しためらいながら、頷いた。
「そっか」
早乙女が仲良くしてくれてたとのは、昔からの知り合いだからだったのだ。
それなら地味な私に声をかけてきたのも納得できる。
(私のことを好きだったわけじゃないのか)
沙樹の中でネガティブな感情がわいてくる。
(でも―)
照れくさそうに下を向いている早乙女に夕日が当たって、シルエットが床に映っている。
その前には手を伸ばせば届く距離に自分の影が映っている。
初めての恋だけど、きっと本物の恋だと神様信じてもいいですか。
沙樹はぎゅっと拳を握った。
沙樹の顔が夕日で赤く染まっていく。
こんなピンチな場面でも可愛いと思える。
沙樹がやっと昔のことを思い出してくれた。
早乙女は恥ずかしいような、嬉しい気持ちになったが、沙樹の顔が少し落ち込んでいるように見える。
(もしかして、昔の記憶で失望させてしまった?)
今までなかなか沙樹と仲良くなれなかったし、何より保育園の時とはどちらかというと嫌われていた。
可愛い女の子の頭にぞうきんを乗せたのだ、その自覚はある。
(でも―)
沙樹の顔に染まる赤は、夕日のせいなのだろうか。
それともー
僕はいつだって沙樹を見るといつもドキドキして、息をするのも忘れてしまう。
王子様キャラでいたいのに、いつもかっこつけきれない。
それでも、ずっとそばにいたい。
早乙女はぎゅっと拳を握った。
「あの!」
「あの!」
同時に話し出して、お互い言葉につまってしまう。
「俺、いや僕、ずっと、ずっと前から沙樹ちゃんのことが・・・」
チャイムが鳴って、いつも通り図書室へ向かう。
金曜日には図書委員の仕事がある。
沙樹は、図書室をがらがらっと開けた。
早乙女が先に来て、本を片付けている。
早乙女は沙樹を見つけると、にこっと笑う。
女子たちを惚れさせるキラースマイルだが、これを見れるのは沙樹だけだ。
早乙女は教室では今更キャラを変えることもできず、クールな王子様を演じている。
本人もその方が過ごしやすいそうだ。
そんな早乙女を困らせるのが、沙樹の最近のマイブームだ。
「ねぇ、翔ちゃんはさ、いつから私が好きだったの?」
早乙女にしか聞こえない小さな声で尋ねる。
早乙女の耳が一気に赤くなる。
「そ、それは・・」
図書室の窓から少し暖かい風が入ってきた。
コートもいらなくなるだろう。
もうすぐ春が来る。




