落ち込み王子様
「今日は急いで帰らなきゃいけないから」
沙樹ちゃんは図書室の業務を終えると、急いで荷物を持って先に出ていってしまった。
沙樹ちゃんの様子がおかしい。
図書室の業務の間もあまり話してくれない。
勇気を出して話しかけても、「うん」とか「わかった」とかくらいしか返事をしてくれない。
スマホを開いてメッセージ画面を開く。
(沙樹ちゃん…)
沙樹ちゃんとのトーク履歴は1週間前で止まっている。
この気まずい状況を打破するためにメッセージを送るか…とも思うが指は動かない。
「はぁぁぁ…」
大きなため息をつくと、スマホが震えた。
「もしかして、沙樹ちゃん!?」
慌ててメッセージアプリを開く。
「望月…」
画面には望月からのメッセージが表示されている。
そういえば、以前望月は沙樹を貶めるようなことをしていた。
また先に何かしたのだろうか。
(それで避けられてる…?)
「なんでいつも邪魔するんだよ…優しくしてやったのに」
八つ当たりでスマホを指で弾いた。
1週間前ー
はやる気持ちを抑えつつ、学校帰りに駅前の本屋へ向かっていた。
今日は沙樹ちゃんの好きな作家の作品が発売される日だ。
やっとメッセージでも会話ができるようになり、好きな作家を聞き出すことに成功したのだ。
本は早乙女も好きなので、沙樹ちゃんの好きな本を読んでおけば、より仲良くなれるチャンスだ。
本屋に入ると早速文庫コーナーに向かう。
「えっと…」
棚を見ながら探していると、「早乙女くん」と声をかけられた。
振り向くと、望月が立っている。
(ゲッ…)
ニコニコと笑ってこちらを見ている。
クラスの男子が望月は美人だ、かわいいと言っているのを聞いたが、沙樹しか見えてない早乙女からすれば他の女子とかわらない。
「早乙女くんも本を読むの?」
「あぁ」
「そうなんだ〜。私も本が好きなんだ」
望月はそう言いながら後をついてくる。
サッサと本を買って、家でじっくり読みたいのにどうしたものか。
早乙女は適当に返事しつつ、沙樹の好きな作家の本を目で探す。
「早乙女くんのおすすめはどれ?」
甘えた声で望月が聞いてくる。
沙樹ちゃんの好きな作家の本を見つけた。
手を伸ばそうとして、手を止めた。
もし今この本を手に取れば、望月も同じものを買おうとするかもしれない。
そうなれば、沙樹ちゃんとの会話を邪魔してくる可能性がある。
(もう邪魔はさせない)
早乙女は「普段本読まねえならこれが読みやすい」そう言ってお目当ての本がある本棚の1番下棚にある本を指さした。
「えー、そうなんだー」
望月は嬉しそうに隣でその本に手を伸ばした。
(今だ!)
サッと上の本棚からお目当ての本を手に取った。
これで沙樹ちゃんと盛り上がれる、そう思うと思わず笑みが溢れる。
「ん?」
なんだか視線を感じた気がするが、のんびりはしてられない。
望月が「どうしようかなー」と言っているうちに、静かに離れるとレジに向かった。
「読み終わったのになぁ」
ベッドにゴロンと横になった。
仲良くなるどころか、話すらできてない。
またスマホが震える。
今度こそ沙樹ちゃんかと思ったが、望月だ。
放課後、屋上に来てと書いてある。
(また何か仕掛けてくるのか?)
早乙女は大きくため息をついた。
翌日、学校でさらに落ち込むことになった。
早乙女はチラリと沙樹を見た。
沙樹が以前のように黒ぶちメガネをかけている。
(なんでなんだ…?)
もちろん、メガネ姿も可愛いのだが、コンタクトは本来の美しさも足されて最高なのだ。
その上、元気がないように見える。
何があったのだろう。
力になりたいが避けられている以上何もできない。
最近話せるようになって仲良くなってきていたから、上手くいっていると調子に乗っていた。
ちょっと話せるようになっただけなのに、もっと慎重になるべきだった。
きっと気付かぬうちに、何か沙樹ちゃんの機嫌を損ねるようなことをしたのだ。
授業終わりのチャイムが鳴った。
早く帰ろうと立ち上がって、スマホ見て思い出した。
望月に放課後呼び出されていたんだった。
この際、先に何かしてないか問い詰めるのもいいかもしれない。
早乙女は意を決して屋上に向かった。




