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息も出来ない  作者: 月丘 翠
早乙女side
10/15

内気な王子様

沙樹ちゃんとは保育園で同じクラスだった。


3歳の頃、俺は元気でどちらかというと暴れん坊だった。

でも泣き虫で甘えん坊なところもあり、子供らしい子供だったと自分自身でも振り返るとそう思う。


ある日、いつものように元気よく園庭で遊ぼうと駆け出した時にコケてしまった。

恥ずかしいし、痛い。涙が溢れそうになる。

みんなはコケたことに気づいていないのか、走っていってしまった。

1人残されて、半泣きで立ち上がろうとした時、手が差し伸べられていることに気づいた。

視線を上げると、黒縁メガネの女の子が、心配そうな顔で手を差し伸べている。

手を握ると、グッと起こされる。


「大丈夫?」

そう言いながら、膝の土を払ってくれる。


「大丈夫だよ」


涙を必死に隠して、笑ってみせる。


「えらいね」

そう言って女の子は微笑んだ。


「…名前は?」

「私?私は浦田沙樹だよ」

そう言って微笑んだ姿が逆光で輝いて見えて、自分の頬が熱くなるのを感じた。


それ以来、早乙女は沙樹のことを目で追いかけるようになった。

一緒に遊びたいし、話したいけどどうしていいかわからない。

どうしても沙樹の気を引きたくて、ふざけたりしたが効果はないようだった。

友達とふざけて投げた雑巾が沙樹にあたってメガネが吹っ飛び、その雑巾が頭に乗った時は悲劇だった。

沙樹は怒りに満ちたオーラで、早乙女のことをゴリラか野良犬を見ているかのような目で睨んでいた。

流石にまずいと思ったが、沙樹は黙って雑巾を地べたに投げて去ってしまって、謝る機会もなかった。

そこからは完全に距離を置かれてしまった。


校区が違うので小学校が違うと知って、卒園式の日、早乙女はなんとか話しかけようとこっそり沙樹に近づいた。すると、沙樹が先生に話しているのが聞こえた。


「私はね、白馬に乗った王子様と結婚するの」


そこで思いついてしまったのだ。

(王子様になれば沙樹ちゃんと結婚できる)

早乙女は王子様になることを心に誓った。


「国がいるの!?」

姉に王子様について聞いた時、自分の国がなければ無理だと言われた時は驚いた。

絵本読んでみると、どうやら本当らしい。

早乙女が絶望していると、母がくすくす笑っている。


「王子様そのものじゃなくて、王子様みたいな人にその女の子は憧れてるんじゃないかな?」


王子様になる必要はなく、王子様のような人になれば良いのだ。

早乙女はその日から王子様になるために研究を始めた。


“王子様とは?”

この壮大なテーマのもとに様々なことを試みた。

夏場に母親にせがんで白タイツを履いたらあせもができたり、黄色い絵の具で髪を染めた時は母親に2時間も説教された。

そして姉が少女漫画を読むようになり、それをこっそり見てどうすれば王子様になれるのか研究をした。


(クールで天才・・・)

沙樹ははしゃいだり、ふざけたりする男子はあまり好きじゃなさそうだった。

これだ!と思い、すぐに実行した。

下手にしゃべりすぎないようにし、勉強も必死で頑張った。

その結果、中学に入学する頃には、今のようにクールで勉強のできる王子様タイプへと進化していった。

その間も沙樹に会えることはなかったが、王子様キャラを追求することはやめなかった。

何より元々内弁慶で外で素を出すには時間のかかるタイプだったので、王子様キャラは過ごしやすかった。


そんな時、母親に言われて塾の体験授業を受けに行った。

無料だから一度受けてこいと言われたのだ。

遠くて面倒だったが、母と姉には逆らわないと決めているので、仕方なく向かった。

そこで出会ってしまった。


「こんにちは」

懐かしい声が聞こえた。


“大丈夫?”


ハッと息をのんだ。

あの頃と違って背は伸びていたし、女の子から女性へと変わっていたけど、くりっとした目に黒縁メガネは変わらない。


(沙樹ちゃんだ―)


「真理、大丈夫?もう授業始まるよ」

沙樹に呼ばれて真理と呼ばれた女の子が走って教室に入っていく。

家からも遠いし、塾なんて早乙女には必要ない。

でも、心は決まっていた。

早乙女は母にお願いして、翌日には入塾した。


(なんてダメ男なんだ)

沙樹が目の前にいるのに、声をかけることができない。

同じ塾にもう2年近く通っているのに、挨拶一つできやしない。

なんなら前髪を下ろし、メガネをかけて、目立たないように息を潜めている。

彼女を見ると、ドキドキして、言葉が出ない。

息をするのも忘れてしまいそうだ。

今も近くの席に座って、本を読んでいるふりをして盗み聞きすることしかできない。


「沙樹、高校どこにすんの?」

「〇〇高校かな」

「沙樹ならもう少し上いけるんじゃないの?」

「家から一番近いからいいかなって」


(〇〇高校!)

早乙女の志望校は決まった。


見事に早乙女も沙樹もそしてあの時沙樹といた友人も合格していた。

早乙女は、もっと上の高校を目指せると塾の先生や中学の先生に言われたが、「家から近いので」とクールに断った。


入試ではトップの成績で入ることができた。

おかげで新入生代表の挨拶を任されてしまった。

人前で話すことが苦手なので、断りたかったが、沙樹の前でこれまでの王子様研究の成果をみせるチャンスだと引き受けた。


「新入生代表、早乙女翔」

早乙女は、名前を呼ばれて前へ出る。

名前で沙樹ちゃんは気付いてくれるかもしれない。

手に汗をかいて辛い。

でも恥をかかないために、家で姉から特訓を受けたので大丈夫だ。

この後ろには沙樹がいると思うと、さらに背中に汗が流れる。


(俺は王子様、王子様-)


特訓のおかげで挨拶は練習通りに上手くいった。

振り返って席に戻ろうと歩き出す。


(沙樹ちゃん、同じクラスだ!)


同じクラスの列に沙樹を見つけた。

思わず微笑みそうになるのを引っ込めて、席に座った。


(高校こそは絶対沙樹ちゃんと仲良くなる)


早乙女は心の中でガッツポーズを決めた

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