【8】ダンジョン攻略と『白』の魔導書
「これを差し上げます。」
そう言って、リュクス様から表紙が真っ白の皮に金の装飾がされた本を渡された。なんだかお洒落である。
「…これは何ですぶーか?」
「これは、我が国の王宮の閲覧制限付きの書庫に保管されていた『白』の魔導書です。
二十数年前に召喚された、聖女『アヤネ』様が使っていたものでして。
宰相の権限でお借り出来たので読んでおいて下さい。
…『白』属性の方は何かしら神から役割を与えられている可能性が高いので。
魔法を覚えておいて損はないでしょう。
スキルに関しては現在調査中なのでお待ちください。」
おおお、魔法っ!!僕も使えるなんて単純にワクワクする。
「ありがとうございますぶ。早速読ませて貰いますブー。」
「いえいえ。こちらこそ、美味しい料理を作ってくださってありがとうございました。」
リュクス様は柔らかい顔で微笑んでくれた。
――その日の夜、僕は自分の部屋で夢中で魔導書を読んだ。
ちなみに僕に与えられた部屋は、豚だというのにノブオが暮らしていた日本の18000円のアパートよりも広くて綺麗で豪華である。
魔導書は特に難しいことは書いていなかったのですらすら読む事が出来た。
どうやら白属性は、誰かを治療したり、何かを無効化する魔法が多いようだ。
ただし、自分自身を治すことは出来ないようである。
攻撃魔法はあまりないが、『聖剣』というものを出せるらしい。また、浮遊魔法も使う事が出来る。
ただし、レベルを上げないと使う事が出来ない。
(…そういえば、今、ダンジョンと研究施設にしかモンスターがいないって言ってたブーな。ダンジョンってどこにあるんだぶ?)
夜中の12時も回ったので、明日レベッカに相談してみようと思っていた時だった。
トントン…とドアがノックされた。
「誰ぶ?」
「レベッカよ。」
え、えええええ?!
急いでドアを開けると薄緑色のネグリジェを着たレベッカが立っていた。
ゴクリ…。じゃなくて!!
「レベッカっ!何しに来たんだぶ?!」
僕は突然のことにアワアワする。
ブーに憑依してからは部屋を分けて貰っていたのだが。
「あー、やっぱり起きてたー。ブーちゃん駄目よ、ちゃんと寝ないと明日に響くんだからっ。
一緒に寝てあげるっ。」
そう言って、僕のベッドの中に入って抱き締められた。
むぎゅっ
(むっ胸が…!)
…役得だけど、なんだか男に見られてなさすぎて少し情けない…。まあ当たり前なんだけど。
本人はこっちの気など知らずにすぐにスースーと寝息を立て始めた。
多分、僕が憑依する前は毎日ブーちゃんと寝ていたみたいだから、いないと寂しいんだろうな…。
「ん…。ブーちゃん、大好き…。」
レベッカが僕を抱きしめながら寝言を言った。
レベッカの『大好き』はただのペットに対する大好きだ。…だから、レベッカが可愛くて美人で巨乳で性格が良くて正直いいな、と思っていても、真に受けちゃいけない。
オマケに僕はただの豚で、レベッカは王子と婚約をしている。
僕はレベッカの隣で余計に眠れない夜を過ごすのだった。
◇◇
次の日。僕はレベッカと早速ノーリッジ侯爵領にあるダンジョンに来ていた。
侯爵家の護衛である、ウェッジさんという40歳くらいの男性と、ナターシャさんという36歳だという女性も同行してくれた。2人は夫婦らしい。
「難易度の高いダンジョンは辺境のバルガン領に多いのだけどね。初期のレベル上げならこのダンジョンがいいと思うわ。」
レベッカがそう言って微笑んだ。
バルガン辺境伯領ってもしかして。
僕の脳裏に先日友達になった黒髪のガッチリ系イケメンの顔がよぎる。
(ああ、そう言えばルイの実家は武に力を入れているって言ってたブー。辺境だし領地的にも武力を強化しなくちゃいけないのかもしれないブーな。)
「レベッカ、どうもありがとうぶっ!ウェッジさん、ナターシャさん、今日は宜しくお願いしますぶ。」
そう言って頭を下げると、2人は声を詰まらせた。
「…いいってことよ!」
「か、可愛いぃーーーー!!!」
…慣れてきたけれど中身が男子大学生の僕としてはちょっぴり複雑である。
(…いつか彩人みたいにカッコいいって言われてみたいぶーなぁ。)
まあ、カッコいい豚っていうのもどうかと思うけどね…。
◇◇
ダンジョンは所謂洞穴のような感じであるが、きちんと扉がついている。
人工的に見えるがこれが魔素の影響で自然発生したというのだから、凄いことである。
(魔素が自発的にダンジョンに…ブーねぇ。)
魔素の『知能』はもしかしたら物凄く高いのかもしれない。
恐らくダンジョンとは独自に進化するための生存本能だろう。
魔素とその土地が融合して『ダンジョン』が出来たのならば、ダンジョンまるごと一つが個体の生物である可能性が高い。
恐らくダンジョンに入ってきた人間、またはその人間の持っている魔力を自分の栄養源にしているに違いない。
入り口に入った時、なんとなく中学校の現地学習で鍾乳洞を見に行ったときのことを思い出した。
薄暗く、所々人工的な照明がぼんやりと光っている。
暫く歩くと行き止まりに扉があった。
「ここで通路が終わりだ。そして、ここがダンジョンの一階層の扉だな。まあ、そんなに強いモンスターはいないだろうけど気をつけろよ。」
ウェッジさんに促されて扉の中に入ると、そこには広大な大自然が広がっていた。
建物の中のはずなのに、太陽の光が降り注ぎ、風がそよそよと靡いている。
「全部これもダンジョンの一部ブーですか…。」
僕が感心して言うと、ナターシャさんが頷く。
「ええ。すごいでしょー?私もここには何度も来ているけどいつも驚かされてるの。」
「ブーちゃん、もし、危ない目に合ったら私が守ってあげるからねっ。」
ナターシャさんと話していたらレベッカが抱きしめてきた。
(ブー…。レベッカは過保護だぶーなぁ。)
「よし、それじゃあ行くぞ。とりあえず川沿いの方に行ってみるか。」
ウェッジさんの提案で僕たちはぞろぞろと川沿いに向かって歩きだしたのだった。