【31】マナステロールと絶品カレー。
「マナステロール…?」
なんだそのコレステロールと魔素が混じったような名前は。
文字に触れてみると、詳細を見ることができた。
どうやらステロールと結合したマナ、すなわち魔素がタンポポの細胞を覆っているらしい。
また、植物ではなく動物の場合、血液の中を循環している、と書いてある。
「脂質ラフトってさ。スフィンゴ脂質とコレステロールで形成されていて。
身体にとって大事なものではあるけれど、ウイルスの表面の糖蛋白を集積する働きもあったと思うんだよね。
だから、感染症を引き起こす原因にもなる。」
マナステロールがコレステロールのような働きをするものだとすると。
要はアセンブリの中の魔素を盗んだ犯人が『生物兵器』を作った場合、感染に関わってくる可能性が高い。
「確かに。ノブ、とりあえずこのタンポポから『マナステロール』を抽出して保存しておこう。」
彩人にそう言われて僕は頷く。
僕がスキルでマナステロールを『抽出』すると、密閉した試験管の中が一瞬キラキラと『赤色』に光った。量が少ないから本当に一瞬だったけれど。
ちなみに本来のコレステロールはクリーム色である。
(そういえばこっちで採取した野草や農作物の殆どが地球産のものに比べて赤みがかっていた。
…きっと魔素が原因なんだろうな…。)
「彩人、明日から色んな植物や動物からマナステロールを採取してみよう。
あと、これ以外にも地球にはない物質があれば、調べてみた方がいいと思う。」
窓の外を見ると、いつの間にか太陽が沈んで真っ暗になっていた。
「…そろそろ夕飯だと思うからシリウス叔父さん達にも声をかけて帰ろうか。」
彩人がそう言ってくれたのでシリウス様達の所に行くと、メイリンさんもシリウス様も目を血走らせながら、何かをブツブツ言って打ち込んでいた。
「あのー…。」
僕が声をかけても気づく素振りがないので、少し大きめな声で
「あのっ!!!!」
と声をかけると。
2人の動きがピタッと止まった。
「…何だい?」
シリウス様が訝しげな顔だったので
「そろそろ夕飯の時間だと聞いたので僕達は今日は一旦ここで切り上げようと思います。」
と伝えると、キョトンとされた。
「…え?!もう夜?!やばっ!夕飯すっぽかしたら父上にキレられるっ!」
シリウス様はそう言ってメイリンさんとアタフタと片付け始めた。
どうやらシリウス様達も今回は盗難事件で仕事が大分増えたようだ。
帰り道、4人で歩いている時全員が疲れてあまり言葉を発さなかった。
◇◇
夕飯はビーフチーズカレーと、シーフードカレーの二種類だった。
夕飯も王家の皆さんとシリウス様夫婦、前王夫妻と僕の家族と15人になった。
レベッカとリュクス様は先程家に帰ったらしい。
「今日のカレーは牛スネ肉を赤ワインとトマトとバターで煮込んで作りました。
シーフードも出汁が効いていて美味しいですよ。」
そう言って立花さんが盛り付けをしてくれた。
「美味しいっ!!」
牛肉がホロホロになるまで煮込まれていて、ご飯にトッピングされたチーズと堪らなく合う。
サラダはデパ地下に売っているようなフルーツの入ったおしゃれなサラダとアボカドとブロッコリーとエビとゆで卵が入ったポテトサラダである。
ポテトサラダにはクリームチーズも入っているらしく、濃厚でめちゃくちゃ美味しかった。
僕は夢中でカレーを食べた。
弟のヒロと妹のモモも
「このカレー超高級な味がするっ!!!」
と言いながら、何度もおかわりしている。
皆が美味しそうに食べる様子を立花さんが目を細めて見ていた。
食後にはラムレーズンとナッツが入った濃厚なアイスクリームが出てきた。
僕の家族と前王夫妻は先に退出し、立花さんも手を振りながら退勤していった。
「それで、佐伯君に彩人。今日は研究室に行ってみてどうだったかしら?」
ニーナ様が僕に聞いてきた。
僕達は『抽出』のスキルで『マナステロール』という物質を発見したことを伝えると、ニーナ様が目を丸くした。
「え!?もう地球にない物質を発見したの?!
『抽出』のスキルって凄いわね…。恐らく研究者なら喉から手が出るほど欲しがるでしょうね。」
その言葉に僕は深く頷く。僕もまさか一日で見つかるとは思っていなかったからね。
「はい…そうでしょうね。あとは、色んな動植物のものを抽出して比べたり、化合してみたり。
温度の変化による変異なども調べてみようかと思ってます。」
「そうね。どんなものが作り出せるか研究した上でワクチンを作らないと。
あとはやってみないとわからないけれど、白魔法でもし生物兵器の効果を無効化出来るのであれば、ワクチンが出来るまではそれで凌ぐしかないかしら。
感染力にもよるけれどね。
ワクチン作りは本来なら何人も検体になってもらって進めなければならないのだけどいずれにせよ急ぐ必要があるわね。
カイから犯人がどんなものを作り出そうとしているか早く情報が入ってくるといいのだけど。」
そう言ってニーナ様はため息を吐いた。
ふと窓の外を見上げると大きな満月が出ていた。
(…どうか、早く解決しますように。)
意味がないとわかっていても、僕は祈ってしまわずにはいられないのだった。




