【25】『狭間』と『異世界』@宮野家
「ノブっ!!今日は母さんの奢りだからなっ!どれでも好きなもの頼んでもいいんだぞっ!」
そう言って彩人がキラキラの笑顔で笑う。
「ノブオ君。値段は気にせず好きな物を好きなだけ頼んだらいいわっ。なんなら快気祝いにお寿司とピザとフライドチキン、全部頼んでもいいわよ。」
そう言ってニーナ様も頷く。
宮野家は北欧風のスタイリッシュなインテリアで、前ここに遊びに来た時はお好み焼きをご馳走になったっけ。
今はニーナ様、一樹さん、彩人、そして侯爵家の3人と僕がソファに座って談笑している、
「うわぁーっ!!!いいんですか?!どうしようっ!迷っちゃうなぁ…。
あ。レベッカは何が食べたい?シーフードが好きだからエビカニミックスなんてどうかな?」
そう言うと、『ブーちゃんっ!!』と言って何故か感動している。
「しかし、まさかノブがレベッカちゃんのペットの豚に憑依してたなんてなぁ。
あ、そう言えば母さん。ハネス、アイツ何してんのかな?連絡って取ってる?」
そう言って彩人がスマホのアプリでエビカニミックスをカートに入れた。
「それが、今日も学校に行く予定があると言っていて。週末なのに、どうしたのかしらね?」
「…ハネス様、学校でミーちゃんっていう猫を飼っているんですよ。きっと餌をやりに行っているんじゃないでしょうか。」
そう言ってレベッカが一樹さんが入れてくれた紅茶を飲んだ。
「「「えっ?!猫?!」」」
そう言って、宮野家の3人と侯爵夫妻が目を丸くしている。
「あー。それでアイツ最近コソコソ何かやってたんだ。」
彩人が言うと、ニーナ様が気まずそうに呟いた。
「そう言えば一度、『この家でペットを飼ってもいい?』って聞かれたけれど、ここは彩音が建ててくれた大事な家だから痛むと困るわねって答えたのよね。
でもそういうことなら、城で猫を飼っても良かったのに。」
「じゃあ、今猫をここに連れてきてもらって、その事を伝えようか。」
そう言って一樹さんが笑った。
「…そうね。皆さんをもてなしする間くらいなら別に猫が来ても問題ないわ。王族に関しては学校から城に直接飛べる転移陣もあるの。今から来なさいって連絡しておくわね。」
今の会話を聞いて、ふと僕の中で思い当たった。
「アヤネさん…って、もしかして聖女様のことですか?!
僕がお借りしている『白』の魔導書の持ち主がアヤネ様だった気がするんですけど。」
そう言うと、リュクス様が頷く。
「そうです、アヤネ様は一樹様の御妹なんですよ。」
「そうっ!それで私の親友でもあるのよ!彩人の名前は彩音から取ったの。今は日本で建築士として活躍していてねっ。この家も彩音が建ててくれたのよ!」
そう言ってニーナ様は誇らしげにしている。
あ、きっと、ニーナ様、彩音さんのことが大好きなんだろうな…。
「それにしても、異世界と日本ってこんなに簡単に行き来する事が出来たんですね。その事が衝撃的過ぎるんですけど。」
僕がそう言うと、ニーナ様は首を振る。
「それがそんなに簡単でもないのよ?『白』属性の人と一緒か、『白』属性を持つ本人しか、狭間を潜ることが出来ないの。
だから、私、いつも城から家に帰る時は一樹か子供達に開けてもらわなきゃ日本に行けないのよね…。」
「え…そうなんですか?」
僕がキョトンとしていると、ニーナ様が頷く。
「そりゃそうよー!そうじゃないと、日本に人が雪崩れ込んで来て、大変なことになってしまうわっ。」
確かに…。
ん?ということは。子供達がドアを開けれると言うなら、彩人とハネス王子も白属性を持っているってことか。
あれ、そういえば。
「僕の事、『憑依者』って言ってましたよね?そういう呼び方で認識されてるということは、昔から結構いるんですか? とりあえず僕の方で同級生に1人見つけたんですけど。」
「ええ。結構いたわね。最近は何故か凄い数の人が増えているの。まあ、一定の期間が過ぎると、どうやら日本に戻っているらしいのだけど。」
ニーナ様にそう言われて、僕は『サムシングクロス』というゲーム会社のことと、黒属性がその会社の社長に与えられたことについて話し出した。
すると、ニーナ様が真剣な顔で何かを考えている。
「昔聞いた事があるの。ある存在が、憑依者を日本から異世界、つまり私達の世界に送り出す事で、その人物が力を得る事が出来るって。
ねえ、その社長って…。」
ピンポーン!!
その瞬間、インターホンが鳴った。
「ただいまー。彩人ー、開けてー!」
モニターを覗き込むと、ニッコリ笑うハネス王子とミーちゃんだった。
「ハネス、お前自分で開けろよー。鍵持ってるじゃん。」
玄関のドアを開けながら彩人がため息を付く。猫のミーちゃんは心なしかソワソワしている。
「ごめんごめーん。ミーちゃん抱っこしてるし取り出すのが面倒でさ。
レベッカ、それに侯爵夫妻っ!来てたんだねっ!ようこそ!日本の我が家へ。」
そう言ってハネス王子はニコニコ笑っている。
レベッカは困惑した顔で、
「…シレッと言ってますけど異世界?ニホンに来れるって知ったのついさっきですけどね。」
と言った。
ちなみに、その後ろでリュクス様とモニカ様が日本のお菓子に夢中になっている。
「内緒にしててごめんね。いずれ話す予定だったんだけど…。あれ、君は?」
そう言ってハネス王子が僕の方に目を向ける。
「君は、じゃないだろっ。ノブは僕の親友だっ!ノブの方が年上なんだから敬語使えよっ。」
(え?!超庶民の僕が王子に敬語使わせるの?!彩人やめてぇー!)
僕がアタフタしていると、ハネス王子が謝罪してくる。
「すみません。僕は彩人の弟のハネスです。17歳です。」
「謝らないで下さいっ!僕、佐伯ノブオって言います。あの!僕庶民ですから敬語使わなくていいですっ。
僕、日本で事故に遭って、たまたまレベッカの豚に憑依してたんです。だから何度かお会いしたこともあって…。」
すると、ハネス王子は目を見開く。
「レベッカの…豚?!ということは君、ブーちゃんなの?!」
「はい、そうです。」
僕が頷くとハネス王子が破顔する。
「うわぁー!そうなんだっ。まさか彩人と友達だったなんて!!ねぇ、僕とも仲良くしてよっ!宜しくねっ。ブーちゃんっ!」
ハネス王子がそう言った瞬間。
パアアアッ
「…何?!」
ダイニングが一瞬光って黒い服を着た爬虫類系のイケメンが笑顔で突然現れた。
あれ、この人ってこの前夢に出てきた…
「ヤッホー。リエちゃん。
…君、なんで日本に出てきちゃったかなぁ?モニターに映んなくなっちゃったじゃないか。」




