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【1】僕は悪役令嬢のペットの子豚になってしまったようです。


 病院でもない豪華な部屋。


 そして、知らないお嬢様に覗き込まれて戸惑っていると。


 コンコン…と部屋がノックされる。お嬢様がドアを開けると、困惑した顔のメイドさんがいた。


「レベッカ様、お客様と名乗る方がいらっしゃいました。その…男爵令嬢のミーナ•ネルソン様と仰っているのですが。」


 レベッカと呼ばれた令嬢は溜息を吐いた後、

「うーん、こんなに何度も来られたら追い返す貴女達もたまったものじゃないわね。…一度対応します。お待ち頂いて。」


と言って、僕の頭を撫でてから階段を降りて行った。


(ミーナ?…レベッカ?!さっき楓んちで見た乙女ゲーの登場人物と同じ名前…。)


 そういえば攻略本の絵も赤髪だった気がする。


 ふと、鏡が目に入る。そこには、リボンを付けためちゃくちゃ可愛らしい子豚が映っていた。


 僕が右手を上げると、子豚も右手を上げる。


 …え。


 試しに鼻を穿ほじってみた。鏡の中の豚もホジホジしている。


「…ブ?!なんでブーは豚になってるぶ?!!」


そう。僕はどうやらブタになってしまったようだ。


 そして、何故か、勝手にブタ口調になってしまう…!!

 僕は絶望する。


「ブーーーーーーーー!!!


 こんな話し方嫌だブーーーーーーーーー!!!!」


 自転車で事故ってから目覚めたら。


 僕はどうやら『悪役令嬢』らしきお嬢様のペットの豚になってしまったようだ。




◇◇


 恐らく僕は死んでしまったのだろう。


(ブー…。親も兄弟達も彩人も。ブーが死んじゃって、どう思うブーかね…。)


 とりあえず一瞬落ち込んだが、死んでしまったことについて考え過ぎるとネガティブになりそうなので、振り払う。


 特にやる事もないし扉が開いていたので出てみた。


 トテトテトテトテ…。


 おお、僕、喋れるだけでなく二足歩行も出来るようだ。自分ながら器用な豚である。


 すると、階段下の応接室と思われる所から、攻略本に出ていたヒロイン、『ミーナ•ネルソン男爵令嬢』が、僕の飼い主であろう悪役令嬢『レベッカ•ノーリッジ侯爵令嬢』につっかかっている。


「いい加減、ハネス様を解放してあげてください!私達は愛し合っているんです!」


「そんなこと言われても、私達の婚約は幼い頃に決まったものですし。


 ハネス様は私のことを大事にして下さっています。仮に心変わり等があったとしても大切な幼馴染として事前に話して下さると信じています。」


そう言ってレベッカはウンザリした顔をしている。


 僕は2人の会話を聞くためにこっそりとドアに近づいていく。


(ブー…。多分死んだからブーかね?お腹減ったブーなぁ。)


 そう思いながらドアを覗き込むと、ミーナが唾が飛びそうな勢いで捲し立てる。


「いいえ!だって、私聞いたもの!ハネス様が、『ミーは本当に可愛いな』って言っているところを!」


「…貴女に向かって直接言ったわけではないのよね?


 私、ハネス様が愛称で貴女を呼んでるところなんて見たことも聞いたこともないのだけれど。」


レベッカはさらに困惑した顔をしている。


(うーん。こうやって客観的に見ると、相手より身分が低いくせに突然やってきて、婚約者と別れろって言うなんて。


 ヒロインのミーナの方が明らかに常識ないブーな。


 …せめて、美味しい手土産でも持ってきていれば別ブーけど。


 …ぶ?!そうだぶ!!手土産がないか聞いてみるぶ!)


そう思い僕は部屋にトテトテ入っていき、ミーナに話しかける。


 なんだか僕、この子豚と融合したからか、人間の時よりも本能に忠実になっているような気がする。


 とりあえず、何か食べたい。


「ブー。あんた、やかましい上に厚かましいぶーぞ。


 ブーは腹が減ったんだぶ。


 男爵令嬢のくせに侯爵家に突然来たからには勿論美味しくて高級なお菓子でも持ってきたんだろうブーな?


 ブーはお菓子を所望するぶ。」


 そう言って、『ビシイッ』とヒロインに向けてひづめを向けてやった。


 シーーン。


 一瞬応接室に沈黙が流れる。そして次の瞬間。


「ぶ、ブーちゃんが!!喋った?!」


レベッカお嬢様、大混乱である。


「キャー!!何よ?!このブタ!気味が悪いわ!


 とりあえず!レベッカ様!早くハネス様を解放してくださいね!…帰るわ!!」


そう言ってヒロインはそそくさと退場してしまった。


(あいつ!やっぱり手ぶらで来たブーな?!アポなしで差し入れすら持ってこないだなんて、なんて厚かましい女だぶ!!)


 机の上にはお茶菓子として出されたのであろうクッキーが手付かずで残っている。


(ブーーーーー!うんまそうだぶ!!!)


 バリバリ!!むしゃむしゃむしゃ!!

 身体が勝手に動いてクッキーを貪っていた。


「うまいぶ!うまいぶ!うんまいブーーーーーーーーー!!!」


バターも効いていて、サクサクでカロリーが高そうで最高である。


「ご、ごめんね、ブーちゃん!!お腹が減ってたのね。」


そう言ってレベッカは眉を下げる。


「ぶ。そうだぶ。もっと持ってくるブー。ブーは食べ物を所望するブ!!!」


そう言うと、レベッカは、部屋に控えていたメイドさんに合図する。


「マリー、食事の準備をお願い。


 ブーちゃん、お昼ご飯、階段から落ちたからまだ食べてなかったものね。今何か食事を持ってきて貰うから待っていてね。」


そう言って頭を撫でてくれた。


(…悪役令嬢なんて書かれていたけれど、優しくて良い子だぶ。オマケに可愛いし、巨乳だぶ。)


「わかったぶ!おーい、マリーさん!ブーはステーキとポテトフライが食べたいぶー!!!」


そう叫ぶと、マリーさんはなんとも言えない顔で頷いて退出していった。


◇◇


「ブー!!美味しかったブー!!」


僕は、ステーキとポテトフライとナッツの沢山のったサラダと苺タルトを食べて大満足だった。


 沢山のサシが入っており、口の中でとろける極上の肉だった…。さすが侯爵家である。


 …人間の時より明らかに良いものを食べているのが切ない。


(もしかして、このまま豚の方が良いもの食べれるんじゃないブーか…?)


 早くも僕はそう思い始めていた。


 …ご飯に釣られて人間としてのプライドを捨て始めた瞬間だった。


「で、ブーちゃん?どうして突然話せるようになったの?」


レベッカはどうして良いか分からないような顔で僕に問いかけるのだった。



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