第一章: 出会い
月影公園は、夕方の柔らかい光に包まれ、アートフェスティバルの準備で賑わっていた。桜井美咲は小さな出版社に勤めながら、休日を利用してその手伝いをしていた。彼女は、色とりどりのアートを愛する心を持ちながらも、過去の傷から一歩を踏み出せずにいた。
彼女がテーブルをセッティングしている時、ふと視線を上げると、藤原海斗という男がカメラを構え、小道を歩いているのを見つけた。彼は長身で、心地よい風に揺れる髪の毛がそのまま画になるような魅力を持っていた。美咲は思わず目を奪われたが、その瞬間、彼の視線が合った。
彼は微笑みながらレンズを向け、美咲の姿もその美しい月影公園の一部として切り取っていた。「素敵な場所ですね。」と言葉を交わすと、一気に心が高まり、自分の中に眠っていた感情が動き出すのを感じた。
月影公園は、夕暮れ時の柔らかな光に包まれ、まるで絵画が生きているかのような美しさを放っていた。桜井美咲は、アートフェスティバルの準備に追われながら、心のどこかで不安を感じていた。都会の喧騒から離れ、この小さな町で自分の好きなことに情熱を注ぐことは彼女にとっての新しい挑戦だったが、同時に過去の傷が彼女の心に影を落としていた。
公園の中央には、大きな木が立っていた。その根元には人々が集まり、アート作品が展示され、子どもたちの笑い声が響いている。美咲はテーブルにキャンバスを並べ、色鮮やかな絵具を用意しながら、周りの楽し気な雰囲気とは裏腹に孤独感に苛まれていた。
その時、彼女の視界の端に、何かが動くのを感じた。振り向くと、大きなカメラを構えた男が目の前にいた。彼の存在は、その場にいる全ての人々を一瞬で魅了するほどのカリスマ性を秘めていた。シンプルなTシャツとデニムを身にまとった彼のドキリとするような微笑みは、心を引きつける何かがあった。
「こんにちは、ここは本当に美しいね。」彼はカメラ越しに美咲を見つめ、心を奪うように言った。
「え、あ…はい。アートフェスティバルの準備中です。」美咲は少し戸惑いながらも、何とか返事をした。彼の目が真剣で、直視することができなかった。
彼は夕暮れ時の柔らかな光を背にしながら、彼女の姿を写真に収める。「素敵な月。」その言葉に、美咲は頬が熱くなるのを感じた。何かが彼女の心を刺激する。それは、長い間忘れていた「ドキドキ」という感情だった。
初対面ということもあり、互いに軽く自己紹介を行う。彼は藤原海斗、25歳の自由なフォトグラファーだという。
彼はカメラを下ろし、美咲の方に一歩近づいた。「君のアートは、この場所を素敵に彩っているけれど、何がテーマなんだい?」
「テーマ…ですか?自分を表現することです。私は、過去の出来事や、今の心情を描いています。」美咲は自分の正直に自分の気持ちを吐露したが、海斗の強い視線に恥じらいが混ざり、思わず視線を逸らした。しかし、彼女の心は高鳴り、もう一度彼の目を見つめ返した。
「自分を表現することは、過去の痛みと向き合うことなんだ。素晴らしいね、自分の人生に向き合うって。君には何か特別な記憶があるのかな?」海斗の問いかけには、美咲への興味が込められている。
美咲は心の中で葛藤した。だが、海斗が美咲に寄り添うような感覚がした。彼に対して自分の過去を語ることに一瞬躊躇したものの、彼に打ち明けたくなる衝動が湧いてきた。「そうですね、私には辛い過去があります。でも、それを乗り越えたくて…」と、
その途端、他のスタッフが急いでいる声が美咲を冷静に戻す。「また、後でお話しませんか?」と、彼女は心情を内に秘めながら、口にした。
海斗は恭しくお辞儀をしながら「もちろん。お待ちしています。」とその言葉を残し再び公園の風景に向き合い、写真に収め始めた。
美咲は彼の視線が自身を追いかけているのを感じながら、彼と話せたことへの興奮と共に、彼から逃れた瞬間、再び自分の心の傷と向き合うことになった。しかし、彼との出会いは、まるで運命的なものであるかのように心の奥に深い印象を残し、彼女の心をかき乱していた。
美咲は思った。「これって、運命的な出会いなのかな?」彼女の心は、月影公園の静かな夜を背景に、これからの展開に期待を寄せていた。