0009話 大学のクールビューティの後輩と付き合ったら実は忠犬系彼女だった
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「お疲れ様です、先輩」
「いえ、たまたま通りかかったので。先輩は次の講義はここで? それでここで昼食を……」
「私はもう食べました。この時間はどこも空いてませんし、今日の昼前の講義は無かったので」
「先輩、隣、良いですか? ありがとうございます」
「先輩と話でもしようかと思いまして。今から次の講義室に行っても知り合いはいませんので」
「単位は大丈夫です。あなたからどう見えているのかは兎も角、フル単ですよ。今まで」
「前年も結構単位を選んだうえでフル単していたので、今年最低限取らないといけない単位は前期で取り終わってます」
「先輩の方こそ、大丈夫ですか?」
「そう、ですか。意外ですね。私が1年のとき、先輩が落単した講義の再履で私が隣に座ったのが、私と先輩の出会いだったじゃないですか」
「憶えてますよ。先輩との……思い出ですので」
「憶えていましたか? 先輩は」
「付き合ってる人、ですか? 露骨な質問逃れですね。それもデリカシーに欠ける……」
「でも良いですよ。答えます」
「はぁ……いないですよ。これで良いですか?」
「先輩の方こそ今、付き合っている人はいるんですか?」
「先輩の方からした質問なのに、バツの悪そうな顔しないでくださいよ」
「それにしても、いないんですね……。いえ、からかいたい訳ではなく。……ふむ」
「先輩、もう1つ質問しても良いですか? ありがとうございます」
「先輩に、好きな人はいますか?」
「ええ、今です。私の目を見て答えてください」
「答えられないんですか? それなら……うん、良いです」
「先輩、それでは代わりにもう1つ、質問しても良いですか?」
「『もう少しだから食べ終わるまで待って欲しい?』 分かりました」
[SE/時間経過]
「……質問する前に、少しだけ待ってください。すみません。先輩が食べている時間がありましたが、今しないといけないことでしたので」
「はい、大丈夫です。これは……周りに聞かれると後が面倒だと思ったので」
「改めて質問します。私と……付き合ってもらえますか?」
「この質問は、はいかいいえで答えられると思いますが、どうでしょう」
「もし、考える時間が欲しいなら、そう言ってもらえると嬉しいです」
「考える時間が必要というなら期限は……『今、答える』?。はい、分かりました」
「そうですか。それではこれから私は先輩と恋人同士、ということで。これからお願いします」
「……そろそろ出ないと次の講義に間に合わなくなりそうですので、それではまた」
[SE/着信音]
[主音声/電話越し]
「先輩、この講義の後、先輩のお宅にお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「何をするかの予定? 恋人が家に行くのに何か予定が必要でしょうか?」
「敢えて言うならお泊り、でしょうか。掃除のために無理だとおっしゃるなら、明日以降にしますが」
「私ですか? 問題無いですよ。そもそも恋人になる前から、そこまで掃除されてなかった先輩の部屋に夜遅くまでいた日もあるじゃないですか」
「『30分後なら大丈夫になってる予定』ですか、分かりました。では30分後に先輩宅の前に到着する予定で動くことにします。それでは失礼します」
[主音声/普通]
[SE/インターホン]
[SE/玄関扉開閉音]
「失礼します」
「先輩は晩御飯、もうお食べになられましたか?」
「そうですか。なら今から作りますね」
「『晩御飯を食べてたらどうしたか』? 明日の朝ごはんになってただけです」
「私はまあ、問題無い程度小腹には入れていますし、そっちとしても問題は無いですね」
「そういう訳で、私の分も作らせていただきます」
[SE/時間経過]
「ごちそうさまでした。はい、お粗末様でした」
「それで先輩、美味しかったですか?」
「それなら良かったです。……先輩?」
「いえ、『何が?』ではなく、美味しい晩御飯を作った恋人に対するご褒美には、『美味しかった』以外にもあっても良いと思います」
「具体的には……頭を撫でる、など」
「はい。先輩が私の頭を撫でることを私が望んでいます」
「ん……ふぅ。ありがとうございます。それでは、お風呂を先に入っていてください。私はその間に食器を洗っておきますので」
「私は先輩が上がってからお風呂をいただくことにします。それでいいですね?」
「はい。それでは私は食器を洗いますので、お風呂をどうぞ」
[SE/時間経過]
「先輩、上がったんですね。それでは次は私がお風呂をいただくことにします」
「食器は前にご飯を作りに来た時を参考に片付けましたが、間違っているものがあったら私が上がったときに伝えてください」
「替えの服はありますが……恋人なので別に見ても良いですけど、その服で眠るつもりなので汚さないでいただけるとありがたいです」
「それではお風呂に行ってきますね」
[SE/時間経過]
「お風呂、いただきました」
「先輩は……覗きも下着を嗅いだりもしなかったんですね」
「そういうところも良いところですが、少し意気地なし……だなぁと思いまして」
「そこに1人の女性としての意地もありますので」
「どちらを取っても何かしら不満は出てしまうということです。先輩が落ち込むことはありません」
「そこで悩んでしまう先輩の姿も愛おしいので、問題は無いかと」
「あとは……え? 『髪がまだ濡れてる』、ですか?」
「すみません、先輩が濡れてるところを拭いていただけませんか?」
「はい、先ほど撫でてもらったように、です」
「んぅ……ん……ふぅ。先輩の手は、気持ちいいですね。いえ手触り云々ではなく、撫で方、拭き方が、といいますか」
「あぁ、バレましたか。はい、先輩に撫でられたくて」
「それじゃあ改めて、寝ましょうか」
「……いえ、そのつもりはないですが。それは……後のお楽しみに取っておきましょう」
「もう少し、その関係の無い状態で親交、親愛を深めたいといいますか……ダメでしょうか?」
「ありがとうございます。お布団の中に行きましょうか。ここには1人分のお布団しか無いのですみませんが、一緒の布団で良いですよね?」
「狭い中ありがとうございます」
[SE/電灯スイッチ音]
「……先輩、撫でてもらってもいいですか?」
「体勢が難しいなら、抱き締めるようにしても良いですか?」
「もっと……強く抱きしめてもらっても大丈夫ですよ」
「うぅん……むぅ……先輩、おやすみなさい……」
[主音声/寝息]
[主音声/フェードアウト]