カナはおねえちゃんになりたい
この作品は公式企画「冬の童話祭2023」参加作品です。
子供の成長は突然訪れます
前触れもない偶然に見えて
でも、子供たちにとっては
それは必然なのでしょうか
2023/01/06 00:15
ミオちゃんのセリフで
方言にできてなかった箇所があったので修正
4才になるカナには
姉弟がたくさんいます。
来年、小学生になる6才のお姉ちゃんサラ
おとうとで、今年3才になるビス
それから今年2才のタイガ。
本当はほかにもたくさんいるのですが、
今は、この三人に
カナを入れた四人の姉弟です。
あ、でも、ビスとタイガは
本当はぬいぐるみなのです。
カナの姉弟っていうのは
『せってい』なのです。
カナがおねえちゃんになってみたいことを
お母さんが知って
弟を作ってくれたのです。
本当の弟は
ちょっとむずかしいって言ってました
サラとカナは小さなころから
ぬいぐるみにかこまれてくらしていました。
お母さんが大好きな
ねこさんのぬいぐるみ イノは
いつも旅行になると
お家のどこからか現れて
いっしょにお出かけに行きます。
お出かけのときだけいっしょなので
今はどこかに一人でお出かけ中です。
小さなどうぶつのお人形たちも
お家にはたくさんいます。
小さなどうぶつのお人形たちは
いつもはお人形たちのお家で
ゆっくりお休みをしていて
いっしょにあそぶときにだけ
外に出てきてくれるのです。
お人形だけじゃありません。
お母さんがかいてくれる
お絵かきのちっちゃな子も
よくお話してくれました。
お父さんの指はときどきありさんになって
あそんでくれたりもします。
ぺしってたたくと
すぐぺちゃんこになるのですが
すぐに元にもどるので
なんどもたたいてあそんだりします。
サラもカナも
いつもそうやって
お家のぬいぐるみたちや人形たち
ほかにもたくさんの子たちと
いっしょにあそぶのが大好きでした。
お父さんやお母さんにしかられたって
ぬいぐるみたちとお話していれば
元気になることができました。
時にはお父さんのありさんが
よるにそっと
ごめんね
ってやってくることもありました。
そんなときは
ありさんをぺしってたたいて
ぺちゃんこにすると
いつのまにか、わらえていました。
ある日、
二人はお家からとおくの場所にある
お父さんのいもうとのお家に
あそびに行きました。
二人がもっと小さくて
カナが赤ちゃんぐらいのときにも
会ったことがあるらしいのですが
二人はちっともおぼえていません。
そのお家には
サラやカナより小さな女の子がいました。
名前はミオちゃん。
かみのけがくるくるで
おめめがくりくりで
まるでお人形さんみたいでした。
「サラちゃんもむかしは
かみのけくるくるだったのよ」
とお母さん。
カナは今もちょっとくるくるです。
かみのけがくるくるしてるのは
お父さんの「かけい」なのかもね
とお母さんが言っていました。
「かけい」は分かりませんが
兄妹はにてるって
だれかがよく言ってるので
きっとそういうことなのかな、と
カナは思いました。
ミオちゃんはとってもげんき。
両手でサラとカナの手をつかんで
あそぼう、あそぼう、と
いろんなところにつれていってくれます。
サラにとっては新しいいもうとが
カナにとってははじめてのいもうとが
できたみたいで
二人はとてもうれしくて
ミオちゃんといっしょに
たくさんたくさんあそびました。
おままごとをしたり
絵本を読んだり
とくにカナは
いつもは年上の子ばかりで
年下の子とあそぶことがなかったので
はじめておねえちゃんになった気持ちでした。
だから、
ミオちゃんに「おねえちゃんとして」
色んなことを教えてあげました。
でも楽しいときは
あっという間に終わってしまいます。
サラとカナは
お家にかえる時間になりました。
ミオちゃんはとてもかなしくなりました。
そして、
「どうして私は一人やの?」
となきながら言いました。
「サラちゃんとカナちゃんは
これからもずっといっしょやのに
どうして私は一人やの?
サラちゃんもカナちゃんも
ミオ、ずっといっしょがいい」
ミオちゃんのお母さんは
こまった顔をして
「でも、二人はかえらなあかんのよ
ミオはお母さんとおわかれしてもええの?」
「いや」
「サラちゃんとカナちゃんが
ミオといっしょにいようと思ったら
二人はお父さんとお母さんと
おわかれせなあかん。
そしたら、
サラちゃんとカナちゃん、かなしいよ」
ミオちゃんはしばらくだまった後、
サラとカナを見ました。
「サラちゃんとカナちゃん、
ミオといっしょだけやとさみしい?」
サラはミオちゃんの手をにぎります。
「また、くるよ」
カナは少し考えました。
ミオちゃんは一人がさみしいのです。
おねえちゃんとして
ミオちゃんがかなしくなるのを
なんとかしたいと思いました。
そのとき、ふとソファの上にあった
くまのぬいぐるみを見つけました。
カナはくまのぬいぐるみをかかえると
ミオちゃんの前にきました。
そして、いつもとはちがう声で
話しはじめました。
「ミオちゃん、ぼくは……」
カナはくまのぬいぐるみのなまえを
知りませんでした。
どうしよう。
そう思ったとき、
お母さんがこっちを見ているのに気づきました。
そうだ。
「ぼくはみーちゃん」
それはお母さんがよく書いてくれる
ちっちゃな子の名前でした。
「ぼくはいつでもミオちゃんといっしょ
一人じゃないよ」
おねえちゃんのサラが
ようちえんに行っている間は
カナもおうちで一人です
でも、そんなときは
お母さんがこうやって
ぬいぐるみを使ってあそんでくれます。
ぬいぐるみを使って話すとき
お母さんはそれぞれちがう声で
お話をします。
みんなちがう子のように。
ビスとタイガは
そうやって生まれたおとうとでした
カナのお母さんは
ビスやタイガが本当にお話してるフリして
カナとお話してくれます。
カナもビスやタイガと話してるつもりで
お話します。
カナのお母さんは
カナがビスやタイガが本当にお話してると
しんじてる、そう思ってるみたいですが
カナはそれがお母さんだって
ちゃんと分かってます。
でも、ビスとタイガっていう
おとうとがいるって思ったほうが
うれしいから、
本当にいるようにお話するのです。
ミオちゃんももしかしたら
こうすればさみしくないかもしれない
カナはそう思いました。
「サラちゃんたちがかえっても
ぼくがいるよ」
ミオちゃんはくまをじっと見たままです。
すると、カナの横にもうひとつ、
大きなぬいぐるみが出てきました。
「ミオちゃん、ぼくもいるよ」
そこにはお父さんがいました。
「ミオちゃん、ぼくもいるよ、ハハッ」
今度はたのしそうにわらうぬいぐるみ。
持っているのはお母さんです。
サラはミオちゃんの手を
にぎったままなので
ぬいぐるみはもてませんでしたが
かわりにこう言いました。
「みおちゃんも
いっぱいきょうだいがいるね」
「ミオにもきょうだい?」
「今日はここにいないけど、
うちにはネコのビスとか
トラのタイガとか
お話してくれる子たちがいるよ。
カナも私も
いつもいっしょにあそんでるよ」
「よかったなぁ。
ミオもきょうだいいっぱいやって」
ミオちゃんのお母さんが
ミオちゃんのあたまをなでました。
カナはくまのぬいぐるみをかかえると
ぬいぐるみの手をのばし
ぬいぐるみごとミオちゃんをだきしめました
「いっしょだよ」
「うん」
ミオちゃんはえがおでくまのぬいぐるみをだきしめました。
おわかれのとき、
ミオちゃんは
くまのぬいぐるみをぎゅっと
だきしめていました。
もうその目にはなみだはありませんでした。
そのかえりみち、
カナはお母さんにあやまりました。
「かってにお母さんの子のなまえつかってごめんなさい」
お母さんは少しきょとんとしましたが
しばらくするとカナをだきしめました。
「あれはべつのみーちゃんだから
だいじょうぶ。
それより、
ミオちゃんがさみしくないように
おねえちゃんとしてがんばれて
えらかったね」
カナはお母さんをぎゅっとだき返します。
みーちゃんのなまえをつかったことを
おこられなかったことにほっとしたのと
ちゃんとおねえちゃんだったよ、と言われ
うれしかったのとで
なんだか心がぽかぽかしました。
「だって、おねーちゃんだから」
お母さんはにっこりとして
カナの頭をなでてくれました。
その日、カナははじめて
本当のおねえちゃんになれた気持ちに
なれました。
子供は大人が考えるより
ずっと考えていて
ずっと成長が早い
それはきっと
私達が気付かないだけで
たくさんの事を取り込んでいて
たくさんの事を考えているから
なのかもしれませんね