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屋敷にて

こんにちは。刻芦 葉です。

日刊ランキングの歴史部門で今作が上位に来ているのを見つけました。


二度見どころか五度見しました。


全ては読んでくださる読者様。何より評価とブックマークをしてくれた方のお陰です。


これからも面白い小説を書くために頑張っていこうと思います。


長々と書いて申し訳ありません。本編スタートです。

 

「こうして私と庵様は出会ったんです。私を助けようとする庵様は凛々しく、山賊相手に大立ち回りする姿はどんな武士よりも力強いものでした。しかも大切な宝を失ったはずなのに、雪を助けられて良かったと言われて……。桜?聞いていますか?」


「聞いてるわ。というか何回同じ話を聞けばいいのかしら?」


「まだまだ語り足りません!」


「庵さん、ですよね?貴方からも言ってくれませんか?」


「あはは。雪さん、このくらいにして桜さんの話も聞いてあげよう?」


「はい。庵様がそうおっしゃるのなら」


 軽い気持ちで聞いたことを桜は後悔した。待ってましたと言わんばかりに雪が語り始めた庵との出会いの物語は、現在三週目になっている。最初は微笑ましく思っていた桜だが、今では口の中が甘い気がして早く水が飲みたかった。


「何はともあれ雪が無事で良かったわ。私は戻って当主様に報告しようと思うけど、雪はどうするの?」


「どう、ですか?」


「庵さんの事好きなんでしょう?ただ雪は武家の姫なのよ。もしかしたら二人の仲を当主様が許さないかもしれない。でも今なら二人で逃げ出すことができる」


「それは!そうですけど……」


 雪にとって庵は家族以外で初めて自分を必要としてくれた男だ。もしこのまま二人で逃げれるなら、どれだけ幸せかと考える。それでも決断することが出来ないのは、ここまで支えてくれた家族を捨てることが出来ないからだった。そんな葛藤を抱える雪の手を庵は優しく握る。


「桜さん。僕が挨拶に伺うのは可能でしょうか?」


「え?それは大丈夫だと思いますけど本気ですか?もしかすると殺されるかもしれませんよ?」


「父上はそんなことしません!」


「でも当主様は雪のことを大切にしているわ。そんな娘を知らない男が奪い去るなんて、どうなるか分からないわ。雪も知ってるでしょ?当主様の強さを」


「庵様なら負けませんよ!」


「僕はあくまで挨拶させてもらうだけですから。家族に会えないのは寂しいでしょう?雪にはこれから幸せでいて欲しいんです。だから僕は何発殴られようとも諦めません」


「庵様……!」


「庵さんの決心は固いようですね。それなら一緒に行きましょう。下手に構えるよりも直ぐに会った方が上手くいくかもしれません。なんせ庵さんは雪を助けてくれた恩人ですから。その恩人を当主様は邪険に出来ないはずです」


「その前に僕からも話したいことがあります。荒唐無稽な話かもしれませんが、聞いてくれますか?」


 出会って間もない桜に話すのはどうかとも思ったが、雪の姉のような存在だし、先程から話を聞く限り味方になってくれそうな雰囲気を感じる。それなら桜にも話そうと庵は二人に自分が未来から来たことを伝えた。


「そんなことが……。でもこれで私の疑問が解決した気がします。銀鏡も火をつける棒もちょこれーとも。あとこの服も全部未来のものなんですね。それにあれだけ強い庵さんが人を殺めたことがなかったのも」


「未来というものがよく分かりませんが、庵さんはどうやって来たのですか?」


「それはこの刀。白那の力です。白那を念じて振れば未来と過去を繋ぐ裂け目を生めます。といっても僕はまだ使ったことがなくて。少し試してみていいですか?」


 繋がれと念じて白那を振ると目の前が裂ける。もし裂け目が現れなければ帰れなかったと庵は冷や汗を流した。雪と桜も目の前に現れた裂け目を見て、庵の話は本当なのだと信じた。


「初めて見た時から相当な業物だと思いましたが納得しました。白那は神器なんですね」


「神器ですか?」


「はい。普通の武具では起こらない現象を起こすのが神器です。父上も神器を使っていますが、白那のように時を渡る力など今まで聞いたことがありません。類を見ないほど強力な神器ですね」


 その話に庵は納得した。なにせ元の使い手が底の見えない夜鷹なのだ。竹刀で岩を切るなど普通できない。それをやってのける夜鷹が使っている刀が、生半可な物のはずがない。


 白那の異常さが分かった所で庵たちは雪の家へと向かう。馬に乗る桜の背に掴まる雪は、すでに着物へと着替えている。隣を歩く庵も緊張からか言葉が少なかった。


「大丈夫ですよ庵さん。きっと兄上も味方になってくれますから。父上と戦うことになったら兄上にも手伝って貰いましょう!」


「雪はお兄さんがいるんだね」


「はい!三つ上の兄がいます。兄上はとっても優しいのですが、家中に並ぶ者なしといわれるほどの弓の名手なんですよ」


 そんな話をしていると前方に村が見えてきた。村に入って少し進むと目の前に大きな屋敷が現れる。中に入ると数名の侍女が庵達を出迎えた。


「姫様とお客様を客間へと案内してさしあげてください。姫様。庵さん。私は報告へと行ってまいりますので」


 通されたのは当然ながら和室だった。畳の良い香りがする部屋だが、庵が気になったのは時計などの現代には当たり前にある物がないことだった。家具として使われているのは木や紙といった自然由来のものばかり。それを見て庵は戦国時代に来たのだなと再確認した。すると廊下から足音が聞こえて客間の前で止まった。


「入るよ」


 やってきたのは優しげな表情をした線の細い美男子だった。


「兄上!」


「無事で本当に良かった。次から父上を心配させるようなことはしないようにね。それと君が庵殿だね。桜から話は聞いているよ。私は雪と桜の兄の風貴だ。雪を助けてくれて本当にありがとう」


「当然のことをしたまでです」


「優しいんだね。それで桜から聞いたけど改めて庵殿の口から聞きたい。雪と祝言を挙げようと考えているのは本当かい?」


 先程までの柔和な表情は鳴りを潜め、風貴は鋭い目付きをしている。その肌がヒリ付くような威圧感に、これが武士として命をかける男かと庵は理解した。そして大きく息を吸うと丹田に力を込めて風貴の視線を真っ向から受け止める。


「はい。今日はそのつもりでこちらに伺いました」


 どれだけ見合ってただろうか。雪が心配するほど見つめ合っていた二人のうち、最初に動いたのは風貴の方だった。庵の元へと向かってくると、正座をする庵の手を握って立ち上がらせる。そして大きく手を広げて庵を強く抱きしめた。


「え?」


「ありがとう!ありがとう庵殿!雪は本当にいい子なんだ!優しくて気遣いもできる。それなのに目の色だけで辛い思いをしてきた!君の隣に寄り添う雪を見て確信したよ!君なら雪を幸せにしてくれるとね!」


「あ、あの。風貴様?」


「そんな他人行儀はよしてくれ!私のことは義兄(あに)と呼んでほしい!」


 目に薄らと涙を浮かべながら満面の笑みをする風貴は本当に幸せそうだった。これまで風貴達に負い目を感じていた雪が、あれほど嬉しそうに笑っているのだ。風貴にとってこんなに嬉しいことはない。


「では兄上。もし父上が反対したら」


「その時は私は二人の味方となるよ!父上が義弟(おとうと)に手を出そうとしたら、矢で足を射抜いてでも止めてみせる!」


「ありがとうございます!兄上!」


「お義兄(にい)さん。できるだけ穏便にお願いします」


「ああ!お義兄さんと呼ばれるのがこんなにもいい気分だとは!こうしてはいられない。今すぐ父上の元へ向かおう!二人の仲を認めさせるのだ」


 こういうのは相手の準備ができたら使いがくるものでは、そう思う庵だが有頂天の風貴の暴走を止められない。庵と雪は勢いのまま広間へと連れていかれた。


「失礼します。父上、入らせていただきます」


「もう入っておるではないか。そんなに急いでどうした?普段のお前らしくもない」


 そんな会話が行われる中、二人は部屋に入れずにいた。許しもなく当主が居る部屋に入るのは、雪はともかく庵は無礼すぎる。そこに救いの女神が現れた。


「どうしたんですか?そんな所に立って」


 そこにいたのは桜だった。困っていた二人は桜に事情を説明する。


「なるほど。冷静な風貴様が珍しいですね。では私にお任せください」


 失礼しますと桜も広間に入っていく。しばらくして出てきた桜から、当主から許しを得たことを伝えられる。それを聞いた庵は一度大きく深呼吸をした。これだけ緊張するのは人生で初めてだ。


 不安そうな雪に笑顔を見せてから、腹に力を入れて桜に一つ頷く。


「姫様並びに庵様をお連れしました」


「入れ」


 部屋に入る。するとそこには胡座をかいた大柄な美丈夫がいた。鋭い目付きと圧倒されるようなオーラは、幾度も死線を潜り抜けた者だけが持ち得るものだ。


「ほう。森の中にいた(おのこ)か。まさかお主が雪を助けるとはな。あの時よりも格段に()い目をしておる」


 そこで不敵に笑っていたのは黒鬼だった。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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