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再会

こんにちは。刻芦 葉です。

お昼休みですね。お仕事や勉強頑張ってください。

 

「報告します。姫様の消息は未だ掴めず。一度戻った桜様が再び探しに行っております」


「ありがとう。なにか進展があったらまた知らせてほしい」


 配下の者の報告を聞いて風貴(かざたか)は一人頭を悩ませる。妹の雪がこっそりと遊びに出るのはたまにあることだ。それを父も気分転換になるのならと黙認していたが、今回はよりにもよって森に行ったという。普段なら安全かもしれないが、今は近くで戦が起きている。まさかと思い風貴が配下を森に向かわせると、案の定二人は山賊に襲われたらしい。逃げていた桜は保護することが出来たが、未だ雪は見つけることが出来ていない。


「父上はまだ帰ってこないか。それまでに見つけたかったけど無理そうですね。これは大変なことになります」


 父は雪を溺愛している。普通の武家なら娘は政略結婚の道具と考える当主もいるが、我が家は元々農民の出だ。かつて起きた御佩刀(みはかし)家存続の危機の際に手柄を上げて、武士になった家だった。だからか他の当主と違って父は身内に甘かった。それは風貴にとっても好ましいことだが、そんな父が雪が山賊に襲われ消息不明などと聞いたらどうなるか、考えただけでも恐ろしい。


「それに桜も危ういですね」


 保護された桜は、雪を守れなかったと酷く憔悴していた。そんな桜が探していることも不安だ。自分がどれだけ傷付こうとも必ず雪を見つけようとするだろう。


「早く見つけなくては。こんな時は嫡男という立場がもどかしいです。自分で探すことが出来ないなんて」


 風貴にとって雪も桜も大切な妹だ。そんな二人を探そうと家を出ようとした風貴を、家臣達は必死に止めた。嫡男である風貴に万が一があったら、家が断絶してしまうかもしれないからだ。


「二人とも無事でいてください」


 酷かった雨は止んだ。これで少しは探しやすくなっただろう。風貴は二人の無事を仏に祈った。


 雨が止んで桜は馬を借りて森を探しに来ていた。馬は地面のぬかるみのせいで早くは走れなかったが、それでも桜が自身で走るよりも早い。まず桜は雪と離れた場所を捜索してみる。もしかしたら雪が戻ってきているかもしれないからだ。


「ここには居ない。雪、貴方は今どこにいるの?」


 ここで雪を見つけられたならどれだけ幸せだったか。そう考えながら今度は自分が文を刻んだ木へと向かう。離れ離れになった場所から家へと向かう際に通る場所に生えた木だ。可能性は低いかもしれないが、雪が見つけてくれたらと思い掘っておいた。


「あっ!あぁ……!雪無事だったのね!良かった。ちゃんと逃げ切れていたんだ」


 自分が彫った文の下に、しっかりと『さくら』と刻まれているのを見て桜は涙を零す。こうしてはいられない。さっきの雨に打たれているならば、雪は弱っているだろう。桜は辺りに手がかりがないかと探す。


「足跡がない。このぬかるみなら通れば足跡が絶対に残るはず。なら雪は雨が降る前にここを通ったのね」


 足跡があれば追うのは容易だったが、それだと雪が雨に打たれたことになる。足跡が無いことを喜びつつ、桜はそこから家の方へと向かう。


 すると途中で二つ並んだ足跡が道に続いているのを見つけた。


「なにかしら。こんな足跡見たことないわ」


 一つは小さいので女の足跡、きっと雪の足跡だろう。しかしもう一つの足跡が異様だった。大きさや形は人のようだが草履でも裸足でもない、小石を何十個と集めて押し込んだような見たことのない足跡が点々と続いている。


 それを追っていくとある地点から足跡が一つになっている。しかも残っているのは変な足跡の方だ。


「足跡が一つになった。まさか雪をここで殺した?でも死体はないし、足跡は横道に逸れずに真っ直ぐ進んでいる。それによく見るとこの足跡、ここから深く残るようになっているわ。もしかすると背負った?」


 雪がなんらかの理由で歩けなくなって、それを一緒にいた者が背負った。そう桜は結論づけた。ならそう遠くには行けないはず。やっと見つけた雪の手がかりを胸に先を進むと、やがて廃村にたどり着いた。ここに雪がいるかもしれない。桜は馬を降りると廃村へと慎重に足を踏み入れた。


「雨止んだみたいだね」


「みたいですね。気づきませんでした」


 チョコレート味のキスをした後、庵と雪は手を繋いでお互いに肩を預けて寄り添っていた。ざあざあと降る大雨の音に、とんとんと床を叩く雨漏りの音。そこにとくとくと互いの心臓の音が混ざって不思議と安心する。そんな風に過ごしていたら大分時間が過ぎていたようで、気づいたら雨の音はしなくなっていた。


「そろそろ出発出来そうかな?雪はそこで待ってて。少し外の様子を見てくるよ」


「分かりました。気をつけてくださいね」


「大丈夫。この家からあんまり離れないようにするから」


 かつては人が生活をしていた廃村は、庵からすると時代劇のセットのように見える。ここの住人は急に村を捨てることを迫られたのだろう。営みの痕跡が随所に感じられた。現代で廃村を見たことのある者はどれくらいいるのだろう。家が立ち並んでいるのに人がいないというのは異様な雰囲気だった。その時誰もいないはずなのに人の気配を感じた。


「誰かいる?」


 その家の角から出てきたのは桜だった。桜は庵が残した足跡を見て、雪と共に行動していたのはこの男だと確信する。桜はいつでも懐の短刀を出せるようにしつつ、庵へと話を聞くことにした。


「隠れていて申し訳ありません。お聞きしたいのですが貴方は誰か女性と一緒に行動していませんか?」


「え?行動してますけど。あ、もしかして貴女が桜さんですか!?」


「どうして私の名前を?」


「雪から聞いていたんです!あぁ良かった!無事だったんですね!早く雪に知らせないと!良ければ着いてきて貰えませんか?」


「雪を知っているんですね!無事なのですか!?」


「少しだけ足を痛めていますが無事ですよ。なので早く顔を見せて雪を安心させてあげてください」


 それを聞いて桜はへたり込みそうになるのを踏みとどまった。まだ自分の目で雪を見れていないし、この男が味方とは限らない。それでも嬉しそうに案内する庵の姿に悪い人間ではなさそうだと桜は感じる。そのまま一軒の家へと案内された。


「ただいま雪。桜さんが迎えに来てくれたよ」


「桜が!?」


 家の中からドタバタと物音がしたと思ったら扉が開いて雪が姿を現した。その思ったよりも元気そうな姿を見た桜は安心から目に涙が滲んでくる。


「桜!無事だったんですね!」


「それは私のセリフよ!寒さで震えてるかと思ったのに元気そうで拍子抜けしたわ。というか何その格好」


 雪はまだ庵から借りたTシャツとジーパン姿だった。


「えへへ。庵様が貸してくれたんです。そんなことより話したいことが沢山あるので中に入ってください。あ、庵様。桜を中に入れても大丈夫ですか?」


「ここは僕の家じゃないし気にしなくていいよ。それより僕もいて大丈夫?外にいようか?」


「庵さんにも居てほしいです。だめでしょうか?」


「それならお邪魔させてもらおうかな」


 この子は誰だ、そう桜は思った。離れてから半日も経ってないというのに、雪は別人のように変わっていた。家族以外には目を見られないようにと伏せ目がちだったのが、今は庵を真正面から見つめている。それだけではなく一緒に居られるのが嬉しいと言わんばかりに頬を赤く染める姿は、恋する娘にしか見えなかった。これはしっかりと話を聞かなければならない。桜はそう決意した。


お読みいただきありがとうございました。


少し宣伝をさせてください。

この作品と同じく毎日更新している作品があります。


冒険者が旅館で美味しい物と気持ちいいお風呂に入ってホッコリする話です。

気になった方は作者のページから飛んで読んでみてください。



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