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第9話 戸惑い

「話を続けようか。セルシア騎士団は、この世界においては最強を誇る騎士団だ。しかし彼らをもってしても、セルシアを守ることは叶わなかった。フィルセインが放った刺客は、人外の力を有していてな。以前いたセルシアをエラルというが、彼は姿を消してしまい、それから、この世界から光響(こうきょう)が消えた」


「その……光響も。当たり前にあることだったんですか?」

「ああ。太陽が一番高い位置に来たときに、木々や草花が虹色に光る。これは、セルシアの祈りや報告などを受け取った、大地からの返答のようなものだと言われている。この光響が起こることで、空気や土が清浄化され、人心にも癒しの効果を与えている。それも、メルティアスにはないことか」


 少し「信じられない」、という表情で、ハーシェルが咲羅を凝視するが、咲羅はクレイセスが見せてくれなければ、あんな光景を目にしたことはなかった。現象として一番近いのは光合成に思えたが、光合成にそんな派手な演出はないし、光のエネルギーで有機化合物を合成する以上の作用はない。まったく別の現象だと判断するのが正しいように思える。


「メルティアスは、光響がなくても美しく保たれている世界なのだな」

「それは……どうでしょう。クレイセスから見たら、不思議でいっぱいだったかもしれないけど、綺麗な世界だとは、思わなかったんじゃないですか?」


 傍に寄り添うように立っているクレイセスを見上げると、クレイセスはそうですね、と口を開いた。

「残念ながら、サクラの言う通りです。初めて目にするものは多かったが、話に聞いていたような美しい場所だとは思いませんでした。空気も澱んでいて、私は呼吸をすることもつらかった」


「それほど都合のいい世界はないということか。やはり夢の中にしか存在しえないのだろうな。争いのない、豊かな世界というのは」

 淋しそうに呟いたハーシェルは、少し笑って咲羅を見た。


「世界が光響をしなくなってから少しして、大地震が起こった。これは、祈りを届けるセルシアがいなくなったからこその大地の怒りだ。しかし、いくら伺いを立ててもこの世界の者には反応を示さない。そこで、過去の記録に従い、メルティアスにセルシアを求めた」


 その探索の命を受けたのがクレイセスで、クレイセスがこれと見つけたのが咲羅という訳だ。


「セルシア足る者がいる場所に導くよう、祈りを立てて召喚法を行いました。あなたの気配がある場所にクレイセスは着いたのだけど、最初に目にしたのは違う人物だったの。クレイセスはしばらく迷ったようだったけど、私から『会えばわかる』と言われていたものだから、一目見てそうとわかる人を探そうとしたのね。でも、大地はそこから動くなと命じるように、クレイセスの意識を落とした」


 ユリゼラの説明に、咲羅は首を傾げて彼女を見つめる。

「見ていた、んですか?」

「最初のうちは、クレイセスの目を通してあなたの世界が見えたのだけれど。レア・ミネルウァの介入が入ってからは途絶えてしまって。ただクレイセスの気配だけを追っていたの。戻せるかどうか、ずいぶんと冷や冷やしたわ」


「その……ユリゼラ様が、召喚されたんですか」

「私一人ではないわ。セルシア補佐官たちの力を借りたの。私は、セルシアや補佐官たちほどの力は持たないので、あまり役には立たなかったのだけど」

「どうして、わたしだと思われたんですか?」


「それは、この世界が決めたことだけれど。でもあなたの中には優しさと苛烈さが見える。そして悲哀も。クレイセスによれば、あなたの歌は光響を起こせるそうね? どうか、その声をもってこの世界に執り成して欲しいの。必ず平和を取り戻すから、今しばらくの猶予をと」


 落ち着いた口調ながら懇願するまなざしに、咲羅はぐらりとくる。

 この美しさに迫られたら、うんと言いたくなってしまって。しかし安請け合い出来る内容でないことは、今までの話からわかる。


「あの……わたしじゃないかもしれないじゃ、ないですか?」

 ユリゼラは、なんの疑いも抱いていないようだが。

 自分がこの世界に選ばれたというのは、実感がない。


「大地の声を受け取れる人間は、同じ力を内包している者がわかるんだそうだ。だから、ユリゼラがそういうなら、サクラにその力があるのは間違いないだろう」

 それに、とハーシェルは続ける。

「そなたを召喚するときに、大地の介入があったことは間違いない。もしも大地の声が聞こえなくとも、その声で光響を起こせるのなら、力を貸してもらいたい」


 咲羅はそう言われて、小さく「はい」と頷いた。

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