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序 探索

命を断とうとしていた16歳の少女が、新しい世界を得て立ち上がる物語。

気長にお付き合いくださる方がいたら、有り難いです。

 気が付くと、そこは異世界だと認識出来た。


 青い空を遮る木々の葉の形に、木肌の様子に、見覚えがない。

 そして、見たこともない建築意匠の、小さな木造の建物が見える。

 自分が横たわっている場所は、落ち葉が堆積(たいせき)して、やわらかく湿っていた。


(それで)

(どこに)


 人の気配はしない。

 緩やかに吹き抜けていく風は爽やかだが、クレイセスはわずかな息苦しさを感じた。空気が少し、澱んでいる。


(ああ)

(やはり違う)

(ここは)

(レア・ミネルウァではない)


 そろそろと立ち上がり、ぐるりと視線を巡らす。

 ここは今、新緑の季節なのか、まだ若々しい葉の香りがした。



 あの建物の中に、目的の人物がいるのだろうか。

 たどり着いたなら、会えるのだろうか。


 歩き出そうとしたときに人の気配がして、とっさに木陰に身を潜める。

 見たことのない簡素な衣類を纏った高齢の女性が、小さな毛むくじゃらの──あれは犬だろうか──を連れて、ゆっくりと目の前を歩き過ぎて行く。


(……違う)


 多分、目的の人物ではない。

 犬が一瞬こちらを見たが、気にならないのかせわしく短い足を動かして、紐を引く女性とともに去って行く。


 クレイセスは再び無人になった場所で、建物を窺った。しかしそこにも人の気配はなく、中にどうやって入ったらいいのかもわからない。


 とても小さな建物だ。屋根の周辺や柱頭に、細かな彫り物がされている。見たことのない模様だが、蔓植物を意匠化したものだろう。白い──あれは、紙だろうか──が木を格子に組んだものに貼られていて、壁の役割を果たしているように見えた。しかしこれが人が住む建物なのかと首を傾げたくなるほど、無防備なものだ。蹴破ることが、いとも簡単に出来そうな。


 ほかに目につくものは、その建物から一段下がったところにある、土を盛り上げ、平らに(なら)された場所くらいだ。用途はわからないが、この建築物とこの場所は、一対のものだという印象がある。ぐるりとまわりを木々が囲うのに、建物と土の場所だけが明るい所為かもしれない。


 周辺を歩いてみるかと、足を踏み出したところで。

 ぐらりと世界が暗転し、意識が途絶えた。


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