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独短編

世界は平和だ

作者:

 

 世界は不平等だ。

 『エスディージーズ。十、人や国の不平等をなくそう。』

 これ以上に不平等を表す文言もないだろう。

 もし誰も悲しまないのなら、悲しみに耐える必要はないし。

 もし誰も苦しまないのなら、苦しみを恐れる必要もない。

 もし誰も死なないのなら、医療はこれほどまでに発展しなかっただろうし。

 もし誰も困らないのなら、私たちの繁栄はなかっただろう。

 けれど。

 もし私たちの栄華が、そっくりそのままその返しの裏として成り立っていたのだとしても。その悲痛を、その苦痛を、その死別を、その困窮を、見逃していいわけではけしてない。

 仕方のないものを仕方のないままにしておいては、私たちは停滞の最中、また火の光さえ届かぬ穴ぐらに逆戻りしてしまうだろう。

 私たちの歴史は、世界に抗う歴史なのだから。


 七という数が嫌いだ。

 どれくらい嫌いかといえば、プールの授業とおんなじくらい嫌いだ。

 何をするにも人数が余るし、かといってちょっと大掛かりなことをしようとすると今度はちょっと足りないねとなる。

 四人と三人で分けようとしても、やれ私はこの子と。私はこの子たちと三人なんて嫌だとなる。勿論口に出して言うわけじゃないけど、それでもみんな何となくそんな空気を察する。察するし、みんなそんな風な顔をして周りを見渡したりするのだ。

 これを聞いて、じゃあ二人と五人で分けようなんてことを言う子はきっとおばかさんだ。それか、きっとうちのクラスの男子だ。百歩譲って二人はよくったって、五人で一体何をしろって言うんだろう。

 そんなわけで、私は七という数が嫌いだ。

 私の周りで削ったばかりの鉛筆のようにとがった声を上げながら何度となく同じ話を繰り返すこの子たちのことが、嫌いになりきれないからこそ、嫌いなのだ。

「皆、チョコレートケーキを買ってきたわよ」

 ママの一声が、がりがりと、この子たちをまたさらに鋭く尖らせていく。声ともつかない声の濁流は、ついに私の部屋から廊下へとあふれ出す。

 要らないって言ったのに。ママのばか。

 七で一番嫌いなのは、ケーキを上手く切り分けられないところだ。

 『円は全部で三百六十度。二でも、三でも、四でも、五でも、六でも割り切れるね。でも――』

 結局、八つに分けて誰か一人が多く食べたり、ママが食べたり、それかぐちゃぐちゃになった切り口に恨み言を呟きながら食べたりすることになる。

 だからこれは、世界の縮図だ。

 食べちゃえば一緒だよ、なんて、なんの関係もない人がとやかく言ってくることまで含めて。

 ぶつぶつと階段を降りてゆくと、ケーキの載ったお皿が手渡される。


 すぱり、四角四面に切り取られた黒柿色のケーキ。

 丁度三十五センチメートル。直方体に切り出されたケーキのパッケージがゴミ箱の中へと落ちていった。

 ああ。なんだ。


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