旧6章?話:大火祭_#??
戦というものは、囲まれてボコられれば、だいたい負ける。
それは3610年の現実世界においても変わらない不変の真理である。というか戦略も何もない数の暴力に敗北してしまったのが、現代の地球人類なわけで。
(まぁ理不尽なアレに比べれば数は少ないし、熱と電気と運動エネルギーも吸収されない。ただちょっと空を飛んで……死んでも無尽蔵に蘇ってくるだけの敵だ)
そう、ここで新たな問題に直面した。こいつら、死んでも復活する。
地表で黒く怪しく光ってる巨大魔術陣が原因らしい。始祖の魔力が尽きるまで何度でも蘇って襲ってくる死兵だ。……厄介なこと、この上ないな。
『『『『ヴゥォォォァァアアアアあああああ!!!』』』』
「……叫びたいのはこっちの方なんだけどなぁー?!」
グール達は斬られたり焼かれながらも、ひたすらオレだけを執拗に襲ってくる。
いい加減しつこくて嫌になるが、残念ながら魔術陣を破壊できる手段が無い。
無視はできないと雑に血を放ったら、魔力が吸われて血が無駄になったし……?
「んむゔッ!?」
いったいどう攻めるべきかと方法に悩んでいた、その時。
再び大槍から光属性の閃光が放たれて、全身を貫いた。
(ミスっ 不滅化 頼り過ぎ で 予測ががががッ――)
魔力を伴う激しい光が、瞼を浸透して脳と精神体に大ダメージを受ける。
その間にグールに無数に刺され、ムシャムシャ食べられる事態は、凍結ガード!
『そーゆー せこい の 良くない と 思う』
『其方は不滅に近い。ゆえに最も効果的なのは精神攻撃であろう?』
『…………当たり だよ。くた ゔぁれー!』
暴言に対する返答で、放たれる光量が激増した。
光の明滅で、神経細胞が異常励起して、記憶が揺さぶられる。
まじでやめて。それはオレに効く――。
-〔ハイおわりー【共鳴】の扱い方は今の感覚よ、参考になった? じゃ3万キュテル、私との握手代ね。……なにその感情、もちろん冗談よ? メイクの教師代ね。実はアプ姉に頼まれてたのよ。基礎とか色々直接精神に仕込んでおいてあげる〕-
おそらくこれは、走馬灯あるいは幻覚だろう。
脳裏に思い浮かんだのは、自称天然アイドルことチェリヤ第3王女の姿だった。
-〔貴女って無名じゃない? 魔法ばっか練習してないで、知名度あげなよ。そんなんじゃ王女やっていけないよ? 人気取りも王族の仕事なんだからさぁ。……ハイ相談費2万キュテルね。安心して、貴女のコスメも買っておいたから!〕-
王位継承権第6位。ピーチトゥナの異母姉であるチェリヤ・ミルクロワ王女。
国家主導のさまざまな行事を監督する祭官長として、双子の弟チェリモと共に活動していた精神干渉魔法の達人だ。あと副業でアイドル業も兼任していた。
そんな彼女から教わった知識に、暴徒化した民衆の鎮圧術というのがあった。
-〔私達の魔法っていまいちって感じよね。力任せにドーンじゃ倒せないじゃない? 私なんて弟と合わせてようやく1人前よ? なにこれひっどーってパパに愚痴ったらさぁ? 腹黒妹を見習って真面目に魔法と向き合えって、まじうっざ! うざくない? 末ピーもアナ黒には気を付けなさい、油断してると即下僕よ。聖食教会はあの子の傀儡になってるしぃ……あ、1万キュテルありがとぉ♪ でねでねー……〕-
要約すると、相手の感情を塗り替えるインパクトを与える事が重要なんだとか。
有無を言わさず圧倒させられるパワーだ。魅力権力財力知力武力、そして魔力。
-〔心を鷲掴みにすればいいじゃない。末ピーのセイレーンみたいな声質は武器よ。磨いてこそ光るの。じゃハイ私とボイトレ決定ね。しっかりコーチしてあげるからさぁ……もう少しキュテル出そ? 暗部って稼ぎ良いって話じゃん? ねねねっ見てこのカタログ! 最新の魔導マイク超欲しくない? 欲し……私のキュテル? ……パパに口座凍結されちゃったの! だから、ねっ? お願い今月ピンチなの!〕-
一番確実なのは魔力だ。魔力はすべてを解決する。
特にミルクロワ王国民は、遺伝子レベルで魔法至上主義に染まってるので、魔力があればだいたい何とでもなる、みたいな空気がある。魔力を扱う為に魔法があって、最も魔力の扱いに優れた集団をミルクロワ王家と呼び、国家の柱とした。
――【血】よ。
血魔法は、魔力で血を操る魔法だが、決して血液イコール魔力ではない。
そして、人体内の血液に含まれている魔力量は、それほど多くも無い。
最も少ない普人で8%。エルフは20%。多めの魔族でも30%もいかない。
魔力が薄くて低品質な血は、武器として扱うのに適しておらず、ただ動かすだけでも魔力が失われる。高濃度に濃縮すれば良いが、そこでも魔力損失は発生する。
吸血鬼のように、魔力の95%が血液に内包されている種族は、特別で例外だ。
(血は、今も昔も他人頼りだったけど……それでも魔法は魔法なんだ)
魔法は、不可能を可能にできる超常の力――その筆頭だ。
心身一体。己の血を通じて精神に働きかける、くらいは出来て当然。
出来なければ困る。というか詰むので、今できるようになるしかない。
――【血】よ。昂ぶれ。
血中の魔力濃度を引き上げ、精神を高揚させ、外部干渉を排除する。
(ッ……よし、問題はないな?)
副作用で、嗜虐心やら暴力性やらが微量UPした。その程度だ、問題はない。
ついでに眼球内の眼房水を魔法の支配下に置いて、過剰な光を抑制する。
魔法でカラーコンタクトを作るイメージだ。魔法万歳!
『……対策を済ませたか。早いものだ』
『んのやろぅ。散々ピカピカしてくれやがって……!!』
マジカルでアナログな精神攻撃を受けていた間も、戦闘行動は継続していた。
現在起動しているのは、対エスマーガ用に組み立てたNプログラム。
全戦闘データを学習し続けて構築された総合戦闘術に加えて、思考クラック対策用に身体動作をプログラム支配下に置いている半オート戦闘術だ。
無限復活するグールという要素を前にしても、そこそこは動いてくれている。
けれど、そこそこ止まりだ。完璧には程遠く、被弾率は8割を超えていた。
(NPは、アバター性能を引き出す機能だ。可能の範囲内でしか動いてくれない)
始祖エスマーガの振るう大槍が、遠方からオレを的確に串刺してくる。
ロメロン国王の槍術と似ている。それは、偶然ではないと確信できる。
曖昧なアバター体の記憶を、血魔法の感覚が確信に変えていた。
(これだけ情報が得られるのに、王女は魔法を肯定しなかった。できなかった)
王女にとって血魔法は、矛盾した心そのものだ。
他者から集めないと振えない、紛い物の魔法だ。
本能的に恐怖や嫌悪の対象となる、真っ赤な血液だ。
血は赤いから怖いんじゃない。怖い血だから赤く見えるんだ。
人はそう出来ている。だから、恐怖で圧倒するしかないんだ、と王女は思った。
(それで罪人から血を集めていたら、ブレーキ壊れて、趣味に走って……)
血を溜め込む事は手段だったのに、それが目的になった。手放せなくなった。
血が、宝石のように煌めいて見えた。他者の魔力に、魅入られた。
(……血液の情報も御しきれていなかった。最期には魔法に溺れてすらいた)
主観的に見ても、どうしようもなくアホな王女である。ただ、それでも。
そんな歪な心も、行き着くところまで行けば、立派な武器にはなるのだ。
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BP:4,026,104/ 118,900 [共有100%]
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たとえ味方に多数の犠牲者が出ようとも。こんな切羽詰まった状況ですら。
血魔法は、血液を貪欲に溜め込み続けている。
『……タダで、手放すと、思うなよ?』
心臓を中心に、借り物の魔力が渦巻き、身に纏う空気が血色に染まる。
血を失うなら代わりに始祖の命をよこせと、心が最大の戦果を求める。
『――実に見事だ。其方の執着心は、死してなお色褪せぬ』
みんなに手を振る代わりに、血塗れの処刑剣を振ってファンサービス。
迫る肉食系たちに顔面ビンタで応対。蹴りもくれてやろう。塩対応だ。
まともに相手などしない。してやらない。BPはいくらあっても足りないんだ。
泥沼上等。血と魔法を絞り出せ――勝利の為に。