5章1話:大晩餐(裏)[ハッコ]
◆解析:【血】-『ハッコ』
王都の一角に設営された、ミルクロワ第2騎士団の駐屯地にて。
深夜現在、そこでは多数の死者が続出していた。
「た、隊長が殺されたぞ!!」
「化け物だ! 援軍を呼んで来いッ、バケモノの襲撃だ!!」
「いません!! き、消えました!? どこへ行っ――」
バッサリと。首の落とされた死体が新たに3つ。
その上を、悠々と踏みつぶして進む、黒髪の少女が1人。
「【鋼鉄牢】王国の敵よ。死ぬがよい!【鋼鉄の処女】――ッ!?!」
『この国の強者は、嘘つきばかりなのです……』
少女の振るう刃は、封じられた鋼鉄の監獄と針山もろとも、男を一刀両断。
死体が次々と増えていく。
「魔法使い殿が殺された?! 無理だ! オレ達じゃ勝てない! 誰かぁっ――」
『他人にも己にも嘘をついて生きている。誰にも本心を語らない不気味な国です』
首を飛ばす。首を刎ねる。首を弾く。首を、首を、首を……。
月夜の中で、朱色の残光だけが閃き、次々と首が増えていく。
『【"闇"よ死を祓え】』
そして引き連れた銀髪の従者の魔術により、地面に陣が展開されて、首を失った死体が起き上がる。
死体は新たな"不死者"に変わっていく。
「あの女まさか[首狩り]かッ!?」
「吸血鬼ィ! 吾輩の相手に不足無し。いざ尋常にッ――」
『異常者を殺しても、面白味がないのです……』
次々と騎士たちは死亡していく。
やがて、残り数名となったところで異常が現れた。
『……はて?』
ハッコの〔転移〕の種族能力が、いきなり使用できなくなった。
空間転移を阻害する強大な魔力が、場に満ちた。
「見られていますね? 誰の魔法ですか……?」
ハッコの疑問に応える声はない。
代わりに多数の増援が送られてきた。モンスターを使役する200騎の一団。
軍用のミルタウロスに騎乗した、ミルクロワ所属-第5魔術師団の団員だった。
「王子殿下の御力だ。光属の魔術で仕留める! いいな皆、心して掛かれ!!」
『……転移の妨害。たったそれだけで、向かってくる勇気は褒めてやるのです』
そうした魔術師団の奮闘も、虚しく終わる。
5分と少しで、魔術師達の3割が死亡した。
ハッコが生き残りを殲滅しようしたところで、空間が歪んで全員が姿を消した。
『? 私が、逃げられた? ……さっきの魔法ですか。ウザいのが1匹いるのです』
『主様、緊急事態です。血族たちが血を吸収できなくなりました』
『――そうですか。では引きます。私は勝負に負けたので、帰るのです』
大量の死体と臓物の山を背に、ハッコは朽刀を鞘に納めた。
駐屯地から出た彼女は、眷属を引き連れて適当に王都をぶらつき始める。
『ハッコ? 貴公どこへ行く? まだ盟主様は撤収を指示されては――』
『緩みすぎです』
スッパリと。仲間のはずの吸血鬼の首を落として、ハッコは進む。
驚愕に目を見開く頭部を、遠くのゴミ箱にポーンと投げ入れた。
『……"ナイスシュート"です主様。ところで、これからどちらへ?』
『海洋連合国へ修業に向かいます。屍人達と遊んで来るのです』
ハッコは気の赴くままに街を巡り、出会った兵士達を斬り殺していく。
"間食"を挟みながらテクテクと、休日に食べ歩きを楽しむ童女がごとく。
王都のメインストリートの広場には、多数の人影が集まっていた。
「ここが蜜柑王子が指定した場所かー?」「おいoiっ! あれ見ろよあれ!」
「うおっ、スっゲー綺麗ぇ……」「子持ちの銀髪美女!」「NPCの貴族か?」
「NP記憶よっゆぅ!」「うひょー! 黒髪ロリ幼女もかわぇ――」
『死にやがれです』
24名の冒険者集団に遭遇したハッコは、全員の首を、無駄なく斬り落とした。
殲滅までの所要時間は、たったの4秒だった。
『バ・ターシッタ。死体が消える異常者達は、まだ血が回収できるみたいです。質は悪いですが量があるのです。優先的に殺すと良いですよ』
『ご助言、感謝いたします。――行ってらっしゃいませ主様。良き旅路を祈りしております……』
そうして夜鬼ハッコは、眷属に見送られながら、灰色の翼を生やして一人西の地を目指して旅立った。