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プロローグ

 呪い。それはこの世界に存在する、1種の魔術である。効力は様々。しかし基本的に、“イイコト”など起こらない。そしてそれは、この時も同じだった。


「こんなの……祓えるわけがない」


 薄暗い部屋の中、ベッドの横たわる女がいた。その傍らで男は、そうつぶやく。手には何枚かの札。

 女は苦しそうに息を荒げ、その肌の色はかなり悪い。ところどころには黒い斑点があり、少しずつだがそれらが大きくなっている。体中が痛むのだろう。もはや意識も朦朧としている彼女だが、その顔は苦痛にゆがんでいる。青白い肌と、黒い斑点、それはもう、人の体には見えなかった。


「なぁ……なんとかなるんだろ? あんた呪術師じゃねぇか」


 そう言ったのは、この家の家主。彼は40代そこそこの年齢で、横たわる女の父親である。母親は、我が子の姿に耐えられず扉の外に出ていて、そこでひたすらに祈っていた。


 男は旅の呪術師だった。それなりに名の知れた、熟練の呪術師である。呪いの祓いを得意分野として各地を回っているのだ。


「私の見立てでは……これは、龍の祟りの1種だと思われます。ここ3年ほど前に初めて確認されたもので……原因はわかりません。そして……これは、現在の人類の技術では……祓うことは……」


「お、おい待ってくれよ。なぁ、あんたすごいんだろ? こんな辺境の村じゃなかなか噂も回ってこないが……そのデカくて黒いリュック、それは聞いたことがあんだよ。背負って旅をしてる、凄腕の呪術師がいるって」


「…………」


 男は、何も返すことができなかった。治せないのである。人である自分たちには、遙か遠いところにある話だ、龍の祟りなど。1度呪われた人間は、苦しみ抜いて死ぬしかない。世界中が……そうだ。

 呪術師協会は総出で対策を練っているが、3年間なんの進展もない。たまに思い出したように発生するこの呪いは、本当に気まぐれで、だから存在すら知らない人も大勢いる。特にこんな、情報の行き届かない辺境の村では。


「すいません……」


「そう……か」そうつぶやくだけが精一杯だったのだろう。家主は泣き崩れた。事態を察した妻が扉を開けて、男にすがりつく。だが男は、何も返せなかった。



「辛いかもしれませんが……このままでは半月ほど苦しんだすえ、全身が黒く染まり、塵となって消えてしまいます。どうか……娘さんを、ここで楽にさせてはいただけませんか」

 それが、唯一の、できること。



「お願い……します」 家主はそう絞り出すと、男にしがみつきわめく(・・・)妻を引きはがした。

「やだ! やめてよ、まだこの子は生きてるの!」

 鼓膜を揺らす叫びが、胸の奥に重みとして溜まっていく。


 そのときだった。

「もう……たす、けて」

 かすかな声がした。それは紛うことなき娘の声だ。彼女は、もう楽になりたいと、そう、意識の縁から訴えた。


「――――」 家主が妻の名前を呼ぶ。それは諭すというよりも、どこか懇願するような呼びかけだった。


 妻が、事切れるように静かになった。


「お願いします」 そうもう一度言った家主の目には、もう光がなかった。娘がこうなってから、もうそれなりに日数が経っているはずである。心労も、多かったに違いない。


 俺は、救うべき受呪者を殺すことしか出来ないのか――そう思った。


 札を1枚、女の額に貼り付ける。その札にモレマ草から抽出した油を数滴落とし、次にネボンの膵臓(サイコロ大に切って、防腐処理を施したもの)を用意する。それを鉢で潰し、薬草を2種類混ぜてさらに潰す。

 紙に包んで、それを木の棒でつかみ、体から数十センチ上で火を付ける。


 燃え上がり、そのすすが体に落ちた。


 それと同時、額の札が一瞬で燃えて消える。


 男はただそのまま、紙で包んだ物達が燃え尽きるまで、じっと木の棒を持っていた。


 そうして――札が燃えたのと同時に――女は苦しまずに逝った。




 それから、数ヶ月後だった。今まで『たまに起こる難病』といった具合だった龍の祟りが、突然世界中で流行しだしたのは。そうして、人類は急速にその数を減らすこととなる。

 そんなおりだった。男が、夜道で襲われたのは。

さて、開始しました。なろう系を1度は書いてみようのコーナー。

ゆったり更新していきますので、お見逃しありませんよう“ブックマーク”などなどよろしくお願いいたします。

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