夢を見た。
気が付くと私は、ラーメン屋にいた。経緯は分からない。
そのラーメン屋は、酷くこじんまりとしたものだった。客席は6畳間程、入り口から真正面にあるカウンターテーブルに席が4つ。店主側のスペースには寸胴が2つ。寸胴の中身は水らしいが、どれも沸騰している。
私は1番左の席で麺を啜っている。こういうこじんまりとした店は、大抵店主が付きっきりで店番しているのだが、ここには居ない。何度呼ぼうと、声は6畳間+アルファの空間で響くだけ。
何を思ったか、私は店の外に出掛けた。麺はもう啜りきったのだろう、代金を支払ったかは覚えていない。
天候は梅雨の時期のそれに近い。降水量は体感20ミリ、傘をさせばどうにかなる程度の。環境音は私にとって心地よいものであり、故か歩を大分進めてしまった。
暫くして気づいた。私、パンツ一丁で傘さして歩いている。まぁ、それだけ。幸い私が歩いている道は極限まで人通りと車通りが少なく、私を見かけるものは居なかった。恐らく居るはずの、店主を除いて。
「店主」のワードに反応して、私は店に向かい走った。胸にある感情は、漠然とした焦り。そして無意味に立てる言い訳。傘はとっくに、私の手元から離れていた。雨で濡れる事など、どうでもよかった。
息を切らし、店に入る。最悪な事に、店主が立っていた。さっきまで居なかったのに。
私が反射的に謝罪すると店主は一声応じ、
「呼んでから出てってくれ」
と不機嫌そうに一言残す。
寸胴で茹でた麺を、頼んでもないのに私の器によそう。私は止めに入るが、店主は「お前が頼んだんだろう?」と不思議そうにし、メニュー表の『味噌 大盛 1080円』を指差す。そして入れられてしまった。どうしよう、私の胃に入るかな? お金は足りるかな?
子供向けの財布を覗き、手持ちを確認する。札入れには綺麗な1000円札と、しわくちゃな5000円札。安堵の息を漏らす私に、店主は問いかけてきた。
「金稼ぐ気のない奴が、社会で生きて行けると思うか? お前、逃げてんじゃねぇのか?」
…ん?
待ってくれ、何故私はそう問いかけられればならないのだ? 私が忘れた記憶のなかで、そのような会話を交わしていたのか?
そんな事を一切抜きにして、この台詞は私の心にぐさりと刺さった。そして続けられる店主の言葉に耐えられなくなり、私はカウンターテーブルを強く叩いた。
私は条件反射的に謝罪した。
店主は戸惑い無く「賠償金を寄越せ」と言った。
店主に向かい財布を投げた。怒りを表した後、条件反射が発動した。投げた財布を拾わずに、店主は怒鳴った。
「ふざけんな! お前逃げたな! せっかく助けようとしたのに!」
訳もわからず、私は涙を流した。
偶然にもこれは、私と父親の関係にそっくりなんだ。
あくまで主観的な、ね。