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学院生活

貴族学院に帝女が編入してきました。

その時の騒動です。

 エドワードの学校生活は至って平穏だった。もっとも、何かと言えば生気の吸い取りを行って力関係を操作しているのだから、学内は平穏にならざる得ないだろう。


 そんななか、変な噂が立ち始めた。


「このお屋敷って前からあったっけ?」

 と言うものだ。


「えぇ、前からあったような、なかったような」

 と言うものもいるし、

「でも、周りの樹木の様子からすると数十年は経っていると思うんだけれど」

 と、名探偵気取りの輩も出てきた。

 そんなおり館の関しての噂がもう一つ出てきた。


「あんな美人見たことない!」


「いや、超可愛かったぞ!」


「いやいや、あぁ見えても俺たちと同じ年齢かも知れない」


 などと男子の間でもっぱらな話題となっていた。


 当然のように女子連には不評だ。


「聞いた? あの化け物屋敷の妖怪の話!」


 って具合で良い噂話ではありません。


 それに釣られてなのか、ラーラも、

「エドワード、噂によると超危険なんだから近寄ったら駄目だよ」

 と、伏線を張るのを怠りません。


 それには興味が無いようで、

「妖怪の話なのか、それとも絶世の美女の話なのか、幼女の話なのか、当方としては対応に憂慮しているところでして」


「もう、エドワードったら悪ふざけして、そんなんだったらお母様に言いつけますよ?」


「悪い悪い、母上には黙っていて」


 どうやらエドワード俗称オスカルは母親が苦手のようだ。もっとも、どの男の子もそうなのかも知れない。だから付き合う女性から、『マザコン』と言われるのだろう。


 そんな日々の間にも隣国の噂がこの城塞都市にまで流れてきた。


 城塞都市の統制部で働いている男爵の耳にも入ってきていた。


「それで隣国が大変らしいんだ」

 と、夕食の食卓で話しだした。


 エドワードが真剣そうに、

「それで骸骨なんですか?」


 男爵は頷きながら、

「そうなんだ。不思議なこともあるもので骸骨が攻めてきているらしい」

 と付け加えての説明をする。


 が、肝心なことは彼には話していない。多分ではあるが、ラーラも知らない。あの草原での出来事は妻のマリアと夫である男爵との間で封印されていた。

 だから、エドワードの出生は極秘事項だった。ただ一人、アンソニーだけは知っていたのだが、彼女は貝のように口を開くことはなかった。それはエドワードに対してもだ。


 それにあれ以後、草原はなりを潜め、滅多に人を襲うことはなかった。偶然にも獣に襲われたり、怪我をして瀕死の状態であったりと、進入したものがかなりの弱者でなければ命を落とすことはなくなっていた。


 それで近隣の村々でも草原についての噂を、昔話として扱っていた。それで、この草原の秘密を知るものは極々限られていた。


「それでもしかすると隣国から救援の要請があるかも知れないんだ」


「それでは父上も大忙しですね」


「そうなんだ。救援と言ったって物資の確保が肝心だろ。だから」と言いかけ、そこから内緒話のように声を潜め、「物の値段が上がってきているだろ? 統制部で買い占めが始まっているんだよ。これは民衆には秘密だよ。知れ渡ったら買い占めが始まっちゃう」


「その次に徴兵ですか?」


「そうなるだろうね。最初は経験者に声がかかるだろうけど、それで足りなければ……」


 そこでエドワードが嬉しそうに、

「学院の連中も予備兵に入れてもらえませんか?」


 男爵は即座に、そして厳しい表情で、

「それは駄目だ! エドワードは別の方法で飛び級を考えるべきだね!」

 と、彼の考えを看破し先回りした。


「そう言わないでよ。これはチャンスなんだし!」


 マリアも男爵に同意し、

「あなたはラインザック家の跡取りなんだから滅多なことをしてはいけないの!」

 と、確定事項のよう命令する。


「しかし、ラーラもいるし」


 その時の夫婦で見合った顔の表情は同じだった。


 確かにエドワードはラーラを実姉と信じている。また、自分も夫婦の実子であるとも思っていた。


 が、ラーラはエドワードが実子であると思っているが、自分はそうではないと、彼に告げるか黙っていようかと、最近悩み始めていた。その相談をマリアにもしていたのだが、マリアにしてみても何か思惑があるようで、詳細を話さなかった。


 それはマリアも母親として、ラーラの奥底に沈めている気持ちを察し、その願いを叶えてあげたい気持ちもある、が、将来、ラーラが嫁に行くときの想像も捨てがたいのだ。

 また、エドワードに嫁を迎えるときの心の高鳴りも、その嫁に、自分が姑であることを示す高揚感も忘れることはできない。

 このような母親としての明るい未来があるのだから、思いは複雑に絡み合っていた。


 だからこの場もそれなりにあしらうように、

「エドワード、もしかして好きな子とかできたの?」


 エドワードは顔を真っ赤にして、

「母上、何を急に言い出すんだよ。そんなのいるわけがないじゃん」


「そうかしら? だったら良いのだけれど、いたら連れて来なさいよ。気になる程度の子でも構わないからね、いえ、その段階の方が具合が良いわね。下手にぞっこんになった段階だと後々厄介だし……、それに……」

 そう言って大人の事情を淡々と語りだした。


 そこで男爵が、まだまだ追求するマリアを窘めるように、

「その辺にしておきなさい。エドワードが困っている。それよりエドワード、今度のことには首を突っ込まない方が良いからな」

 と、やはり父親として心配でならないようだ。


 一つには草原で出会った骸骨の特殊能力の強さがあった。アンソニーがいてくれたから助かったと言っても良いほど、ヘンリー骸骨は強かった。いや、その強いヘンリーですら奴ら、骸骨どもに殺されたんだと考えれば寒気がする。

 第二には、エドワードに出生の秘密が知られることが怖いのだ。知られたとき、自分たち親子の絆が断ち切れるのではないかと心が強張るのだ。


 それで何とかしてでもエドワードには骸骨問題に接近して欲しくなかった。


「でも、父上……」


「エドワード、どうしてもだ!」

 そう言って男爵は言葉を遮った。


 こう言われてしまえば黙ることしか出来なかった。


 そんなことがあって数日後、ついに帝女が学院に編入してきた。


 そもそも自国を蹂躙した犯人を特定するのに学院は関係ないものと思うのだが、どうも帝女には犯人など気にもしていなかったようだ。

 何しろ自国にはすでに警備兵が出動している。だから、これ以上の被害が起きるわけがないし、襲ってきたらそれこそ好都合で殲滅するだけだ。


 だとすればせっかく得た自由なのだから楽しまねばと、帝女の思惑が働いた。


 学院で担任教師が変な表情を見せながら、

「これからお前達の仲間になる、えぇと……」

 と名前を忘れてしまったようで、区切ったまま言葉を失った。


 それを見かねた侍女が、

「フランソワーズ・ガブリエル・ザ・サウスドラゴン様ですよ!!!!」

 と、お怒りのご様子。


「と、仰るそうだ。皆も仲良くやってくれ」


 帝女は首をほんの僅か動かし、(お辞儀のつもりらしい。それも下方向にではなく、上向きに動かしたに過ぎない)


「親しい方はフランあるいは、フランソワーズでも、そうでない方はガブリエル様と呼ぶことを許可してあげてもよろしいのですよ」


 それを聞いたエドワードが、

「じゃ、空気だね」


 と言った瞬間にクラスの空気が変わり、どっと笑いが巻き起こった。


 当然のように鬼気とした侍女が、

「そこの!! 命がいらぬと見える! この後、この者が相手をいたす!」

 と、アブラムとの決闘まで仕切ってしまった。


 エドワードも彼らの並ならぬ気配を感じ取っていた。

 が、彼らが付けていた器具のために正確な判断は出来ていなかった。エドワードがみても彼らは、特にアブラムは人間であった。

 それで彼は見誤っていたというのが正確なところだった。


 両者の決闘は学院の了承するところとなった。


 それでただ広い校庭で両者が対峙した。


「良く逃げなかったな! それだけは褒めてやるよ。だがな、お前は馬鹿だぞ」


 これはアブラムの率直な言い分であった。


「あぁ、確かにな。あんたはやばい部類なのは分かるよ」


「なら、どうして逃げなかった?」


「直観ってやつかな。お前さんには縛りがあるだろ?」


 アブラムはギョッとしたが、どこまで理解しているかが不明で、

「何のことを言っている?」


「隠さなくったって分かってるさ。お前さんが超が幾つも付くくらいの化け物だってことは、しかし、その力は封じられているんだろ!? なにしろ人間だ!」


 アブラムはなるほどと思った。エドワードが二足歩行の縛りを解いだ時のことを言っていると理解した、が、では、今の自分の能力を過小評価しているってことか、と、訝りありのまま聞き返した。


「とすれば、今の俺様なら勝てるとでも思ったのか?」

 と言いながらアブラムは器具により二足歩行の縛りから解放されているのだが、と、苦笑いしながらエドワードを見ていた。


「さぁね。しかし、熟練しているとは見えないぜ!」


 アブラムは瞬間に仕舞ったとピンっときた。それは歴戦の勇者なれば一番大事にしていた事だった。それを今の今まですっかり忘れていたため、器具の力を使おうか、使わないでおこうかと迷っていた。


「そうか? でもな、それを埋め合わせるほどの力量があるんだぜ!」

 と、暗に器具の力を誇示してみた。


「力はあったに越したことはないが、当たらなければ屁の役にも立たないぜ」


 それを聞いていた侍女が真っ赤になって怒りだし、

「なんて下品な! そこに直りなさい! わたくしめが即刻その首を切り落として」


 そこまで侍女が言うと帝女が遮り、

「では、始めなさい!」

 と、開始の合図を送った。


 いきなり始めさせられたアブラムは迷いの中、切り替えることができず器具の力を使わず二足歩行の縛りがある状態で戦いに望んだ。

 もっとも、それでも勝つ自信があったればこそだ。


 開始の合図があってから数分間、隙はお互いに作らせていなかった。


 それを察知しアブラムが鼻で笑った。

「やるじゃないか。しかしな……」

 と、次の瞬間に体術で襲いかかった。


 エドワードにはこの手の備えが出来ていた。

「クリスタルウォール」


 自分の目の前に水晶で作ったかのような巨大な壁を出現させた。


 これには目論見があり、もしこの壁が土で出来上がっていたら、多分にアブラムは飛び越えエドワードに襲いかかっただろう、が、クリスタルであるがために、ちょっとした好奇心が湧き起こった。


「こんなもの!」

 と、彼は自慢の一撃をクリスタル壁に撃ち込んだ。


 ゴッギィィ!!! ガッシャーーン!!!


 クリスタルが砕け散る音が凄まじく響く。


 その隙を見逃さないエドワードは浮遊術で壁の上に立ち、

「サンドオブジェット!」

 と、砂嵐をアブラム目掛け解き放った。


 瞬間、目を瞑った彼に、

「クリスタルサンダーボルト!」

 と、電極を帯びたクリスタル製剣を突き刺した。


 だが、彼も身に帯びていた朱印でそれを防いだ。


「どうして?」

 と、エドワードは信じられない光景だった。


 それもそのはず、帯電した剣だから接触した刹那に大電流が流れ防備が不完全になるはず。その瞬間に剣が彼を突き刺しているはずだった。


「俺にも分からんが、とにかくこれで助かったぞ」

 アブラムは朱印を翳して見せてやった。


「それは?」

 二度目の驚きがエドワードを襲った。

「どうしてお前が持っている?」

 そういってエドワードも自身が持っていたペンダントを見せた。


「なんだって???」

 それはアブラムが持っている朱印と瓜二つの品物だ。


 それに気が付いた帝女が近づこうとしたが、侍女に止められ、

「わたくしが見て参りましょう」

 と、そそくさと歩みを早めた。


 そしてエドワードからペンダントをひったくるように受け取り、

「うむむむ!!!!」

 と唸るばかりだった。

 そして観念したのか、

「ぬし、これをどこで手に入れたのじゃ!??? 言わぬとためにならぬぞ!」


 こうして場面は男爵家にまで持ち越された。


 が、男爵はすぐには話さないで、アンソニーを呼んで欲しいと言い出す。


 それに帝女は快く承諾するも侍女が難癖をつけた、が、帝女の一言、

「私の決定に文句を言うつもり?」

 で、沈黙した。


 それから急ぎでアンソニーが呼び出されたが、話し合いの席にエドワードは同席させてもらえなかった。


 男爵が、

「たとえ長男といえどもラインザック家の仕来りには従ってもらう」

 と言って家宝についてだから彼にはまだ知る権利がないと言い張った。


 エドワードも宝に興味があるわけじゃ無いので、早々に引き下がった。


 別室の、本当に機密性が高い部屋で、男爵、アンソニー、帝女とアブラムの四人だけとなって話し合いが始まった。


「このペンダントは、エドワードの本当の父親から受け取った物だ」


 男爵の告白から話は始まった。


 帝女は見抜いていたようで、

「やはり、あなたたちには血の繋がりはないのね。どうりで臭いがしなかった分けね」


 それにはアンソニーが、

「と言うならば? エドワードとアブラム殿とは同じ匂いがするとかですか?」


「そうね。そんな感じかしら。だから、この出所も予想は付くわね」


 男爵は苦虫を噛み潰したような顔で、

「やはりヘンリーにはあなたたちの血が流れていると言うことか?」


「はっきりとは分からないけれど、多分そうなのでしょうね」


「他に調べようはないのか?」

 と、男爵は尚も食い下がった。


「あるにはあるわ。その朱印には刻印があるでしょ。それをこちらで辿れば、誰に授けたのか分かるはずよ」


「一個一個が別物で記録されているほど貴重な物なのか?」


 それにはアブラムが、

「それはそうでしょう。なにしろ何でも買えるほどの代物なんですから!」


 男爵は呆気にとられて、

「なんでもって?」


 それには帝女の方から、

「街での買い物ならサイン一つで買えるわよ。勿論請求は帝国にされるんだけど、その支払いをするほどの功績を認められたと言う事よ」


「そうだったのか!?」

 と、アブラムも朱印を握り締めて驚いていた。


 そこで帝女が、

「経緯は分かったわ。それでこれからどうしましょうか? この際だからって、はっきりさせます? それとも有耶無耶?」


 男爵としては有耶無耶にして欲しかった。だから、

「それはお返しします。ですからお引き取りを願いたいのですが」


 しかし、帝女はおおらかに、

「これはあなた方の、いえ、あの子の所有物です。何人も奪うことは出来ません」


「だったら?」


「話が見えて参りましたので、私たちはこれで引き下がります」

 と言いかけた帝女だったが、アンソニーに向かって言い直し、

「それであなたは? あの子の何なんです?」


 それには男爵も言葉を失い黙っている。


 自然、アンソニー自身で答えを出さねばならぬ。

「私はあの子の父親の親友、そしてあの子の師匠でもあります」


 帝女の瞳が輝いて、

「それだけ? かしら? あなただって独り身なんでしょ。あの子のために?」


 最後の語尾が尻上がりだったことに男爵は気が付かずにスルーしたのだが、アンソニーには痛いほど胸に突き刺さった。


「別にエドワードのためでもありませんが、個人的なことですから、失礼ですよ!」

 と、煙に巻こうとした。


「そう、なら良いのだけれど、私としてはあの子に興味が出ました。これだけは言っておきますからね」


 その後、帝女は侍女に命じ、エドワードが持っていた朱印が本物かどうか、本国に確認させた。


 その後、平穏な日々がやってくるかと思いきや、帝女が纏わり付いてくる。

 もっとも学業などとは名ばかりで、その実社交界のようなものだから、授業など無くても構わないのだが、少しは大人しくして欲しいと思うエドワードに、


「それで決着を付けたいと思うわよね?」

 と、上から目線の帝女姫。


 彼女の着ている服はもろ格調高いドレス、そして身につけている装飾品もどれを取っても国内一と思われるほどの煌めきを放っている。その上に長くて金色に輝いている髪はそれはそれは馬鹿丁寧に手入れされ、どこからどう見ても芸術品が如くに一分の隙も無い。


「何の話でしょう、か?」

 と、エドワードは惚けるのだが、


 アブラムが容赦しなかった。

「俺との決着だよな。しかし、俺も本気を出しても構わないって言われているんだ」

 そう言ったアブラムは器具の力を使い、二足歩行状態でも元のドラゴンの能力を発揮して戦うつもりでいる。


「それは良かったな!?」


「で、明日、早朝に古戦場後に来いよ。人に見られたくないならばな!」


「ふむふむ、見られたくないってことですかい? それはグロテスクな本体を曝す」

 と言いかけたエドワードを遮り、


「おいおい、俺を怒らせるなよ。こんなところで騒ぎを起こしたくはないだろ。かなりの被害が出るぜ」


 そう言われ立ち去りだしたエドワードを呼び止め、

「せっかちなやつだな。それじゃ早死にするぜ。まだ、俺の話は終わっちゃいないんだからよ。お前の持っている霊量は凄いようだがな、霊力に段階があることを知らないだろ」


 エドワードが首を傾け、

「段階? ですか?」


「自分が持っている霊量を色で言ってみろ」


「色ですか? 青色ですが?」


「そうだろう。初期が青、次が赤、その次が白、その上、最上段が黒に変わる。で、だ。どうやったら昇級するのかだ、が。お前だって昇級させたいだろ?」


 エドワードは、このアブラムを嫌味なやつだと思いつつも、

「それはな、そう思うさ」


「だったらお願いしろ。そうしたら教えてやる」


 仕方なくエドワードはペコンとお辞儀をし、

「頼むから教えてくれ」


「それじゃ足りぬな」


 と、どこまでも威張ろうとするアブラムに、帝女が、

「そこまでにしなさいよ。私の忍耐力を試そうなんてしない方が良いわよ」

 と、やっと出番が回ってきたと言わんばかりに飛びついてきた。


 そうして扇子を広げてはエドワードを横目で見ながら、何かの風を送ろうとしている。が、その風がなんなのか分かる前に、アブラムが話しだした。


「おっとと、では、本題だ。霊力は水のようなものだ。だから、集めても平たく広がるだけだ。それをうず高く積み上げるには昇級させる必要がある。昇級すればうず高く積み上がると言った寸法よ」


「どう……」


 エドワードが聞こうと思った矢先を遮り、

「そいつは自分で考えな。人に教えてもらってできるものでもない、が、知らなければそれこそ無理ってものだ」


「では、あなたは何段?」


「俺のは一つ上に上がっている。初級が六段だから、丁度俺は五段だ」


「色は?」


「まだ、赤だ。赤は五と四段、白が三と二段、黒が一段だな」


 こうしてアブラムとの話は終わったのだが、帝女姫はまだその場から動かない。


「あの、帝女陛下、話は済みましたが?」

 と、アブラムが催促した。


 が、彼女は扇子を直接エドワードに向かって扇ぎ、

「どう? なにか感じなくって?」

 と、上から目線は直らない。


「と言われても?」

 そう言いながらエドワードは確かに良い香りを感じ取った。

「高揚とする匂いですか?」


「そう、あなたにはそう感じるのね。では、明日は頑張りなさいよ」


 そう言って立ち去ったのだが、エドワードには何のことかさっぱり分からなかった。


 その夜、エドワードは眠れぬ夜を過ごしたが、一夜で出来るはずもなく古戦場後に赴いた、が、さすがに眠い。

 欠伸を何度かかけばアブラムがやってみた。


「待たせたようだな。それでも逃げずに来るとは褒めてやろう」


 そのアブラム、器具を外しているせいかエドワードには真っ赤で巨大なドラゴンの射影が見えた。


「それが実物大って分けか。それなら人間離れしててもおかしくはないな」


「減らず口は健在だな。それで霊力の昇級は出来たのか?」


「いいや、さっぱりだ」


「じゃ、帝女陛下の仰った意味は分かったのか?」


「ほう、あれに意味があったのか!?」


「やっぱり、お前は馬鹿だな。だったらここで潔く死にやがれ! ファイヤーボール」


 さすがにドラゴンが放った、単なる火の玉でも桁が違った。巨大な玉でありながら、その放熱が凄まじい。一気に周囲の草が灰になり、砂利までもが溶けガラス質に変化した。


 エドワードはその放射熱だけでも丸焼けになりそうで、それが嫌だったから、

「ウォーターウォール!」

 と、水で出来た壁を造り上げたのだが、その瞬間に灼熱によって蒸気化し大爆発を起こした。


「馬鹿め。水蒸気爆発で引き飛ばされたか!」

 アブラムはすかさずエドワードの死体を探したのだが見当たらず、

「うん? やつはどこに行った?」


 エドワードは爆発に紛れ上空から狙いを定め、

「ライジングサン」


 巨大化する光源でアブラムの目は視力を失った。


「サンドオブサンダーバード」

 砂粒で出来た帯電した神鳥が、極めて密度が高い放電をしながらアブラムに襲いかかる。その数、エドワードの霊力に比例し数が多い。


「なんだ、この鬱陶しい鳥は!」

 と、彼はさしてダメージを負っていないようだ。


 だが、まだ自分に何が起きているのか分かっていない。まだ、視力が戻らないのだ。


「ソルトウォータードラゴン!」

 エドワードは電解質を多量に含んだ水龍を巧みに操りアブラムを感電させる、のだが、電気はアブラムの体の表面を通電するだけで、体の内部にまで貫通しない。それで普通であればとっくに感電死してもおかしくない電気量なのだが、まだ平気で動いている。


「化け物奴!」

 と、焦りを感じたエドワードだが、霊力の昇級の入り口がすぐそこにあることを、彼はまだ気が付いていなかった。


「巫山戯た魔法を使いおって!」

 と、アブラムは目の代わりに勘に頼って、

「ハイパーイノベーションスキル発動! ウォータードラゴン」

 と、高次元の魔法を発動させた。


 自在に動き回る水龍でも、自分で感知し攻撃することはできないから、アブラムの操縦術に委ねられていた。

 だが、彼に視力が無いから、水龍はただ暴れ回っているだけに過ぎない。


(ここに召喚されたものと、像は生き物でも打撃体との違いが鮮明になる。召喚されたものには感知する能力も思考力もあるから、独立した独自の攻撃が出来る。しかし、打撃体にはそれがない、自身が破壊力と言うに過ぎない)


『こんなもの!』と、エドワードは侮った考えを持ったのだが、『いや、ハイパーイノベーションスキルってなんだ?』と、重要なことに気が付いた。

 それでエドワードは、

「ハイパーイノベーション!」

 と、唱えてみれば驚きの効果が生じ出す。

『これは!????』

 自身の霊力が積み上げって行くではないか。


 エドワードが感動している間に、漸く視力が戻ってきたアブラムが怒りを爆発させる。


「おのれぇぇぇ!! 子虫の分際でやりおったな! それなら、相生ドラゴン! ファイヤー&ウォータードラゴン!」

 そう言ってアブラムは左右のドラゴンを巧みに使って空中のエドワードを追いかけ回す。それはさながら二本の鞭を持った猛獣使いだ。


「ほらほら、逃げるだけかよ!」

 と、エドワードを挑発することを忘れない。


 交差したり、追い詰めたりしてくる二本の鞭はとても厄介だ。そしてその鞭の二つが接触すると激しく爆発するのだから、さらに気が抜けない。


 それでもエドワードは逃げながらも一瞬の合間を縫って、

「クリスタルウォール」

 と、時間稼ぎと、自分の前に巨大な壁を構築させた。


「そんなもの! こうすれば瞬時に消滅だ」

 と、アブラムは両腕のドラゴンを同時に、同じ場所へ突入させ大爆発を起こさせた。


 その爆風でクリスタルの壁は破壊され、その先にエドワードが、いるはずだったが、アブラムの目にも見えない。


「どこに行った!????」

 と、探し回るアブラム。


 エドワードは爆発の瞬間にアブラムの後方まで飛び、そこで体勢を立て直していた。


「ハイパーイノベーションスキル!」

 と唱え、自分の霊力を昇級させてから、

「サンダーボルト! マイナス&プラス!」

 エドワードは右腕にはマイナスの電荷を、左腕にはプラスの電荷を帯びさせ、

「エレクトロンゾフィードラゴン!」

 で、巨大な電荷を帯びた二匹の龍を右と左で操り、アブラムの霊力を奪っていく。


「なんだ? これは? 馬鹿な! 俺様の霊力が俺から離れていく???」


 二匹の龍はプラスとマイナスで放電を繰り返しながら、アブラムの体にある霊力がどっちに帯電しても、右、或いは左とで吸い取っていく。もし、その逆に帯電してても、吸い取る方もその逆で吸い取るのだった。


「グギャァァァ!!!」

 と、アブラムは叫ぶしか手がなくなり、

「こうなれば最後の手段だ!」

 と、自爆を含めた選択をしだした。

「エ、エレクトリックウォール!」

 と、帯電した壁を構築したのだが、


 その構築された壁は一瞬で二匹の龍に吸収された。


 が、その一瞬の隙にアブラムはその場から逃げ出した。


 この囮作戦は、囮にした電荷が少なければ逃げ出す時間が稼げず、かといって多すぎれば自分の霊力が枯渇する。

 それでアブラムはギリギリの残量だけ残したのだ。

『これが最後の攻撃だな!』

 そう言って覚悟を決め、

「ファイヤーエレメンタルドラゴン!!!」


 エドワードは、その『エレメンタル!』と言う言葉を聞き一瞬硬直したが、

「エレメンタルプラズマウォール!」

 と唱え、全体が素子化しプラズマ状態の通電している壁を構築し、アブラムの攻撃を防ぎに回った。


 炎の龍は見事に壁に激突し、壁の全てを素子化する作用を発揮したのだが、壁自身がすでに素子化しているためと、プラズマ状態に通電しているために、溶け込んでいくように吸い込まれ同化していった。


 それを見詰め、唸りを上げるアブラムは、力を使い果たしたと言わんばかりに、

「負けだ! 俺様の負けだ!」

 と、潔く降参したのだ。


 そこでアブラムは改まって言い出した。

「しかし、帝女陛下が仰っていたことも理解していなくてよく俺様に勝てたな」


「あの扇子の香りのことですか?」


「そうよ。お前にも俺たちと同じ血が流れている。だけど、今のお前は人間型のままだろ。そうなると縛りがあるんだよ」


「縛りですか? はて、何のことだろう?」


「竜族の元からの能力が出せないってことだ」


「しかし、アブラムさんはこの前より強かったですよね?」


「それはこの器具のお陰さ。だから、お前にも帝女陛下がなにか授けようとしたんだが、肝心のお前にその気がなかったから、諦められたようだ」


「そうなんだ。ありがたいこって」


「巫山戯るな。ドラゴンの俺様が人間型のお前に負けたとあっちゃ泣けてくるぜ」


 こうした後は平穏な日常が始まった。


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