国の存亡
エドワードの隣国で起こった国難についての話です。
その頃、エドワードの隣の帝国で異変が起こっていた。
最初は完全なブラックホールに吸い込まれていった様相だった。各村々が襲われても生存者がゼロでは、そして突然襲われたため逃げ出すことも救援を求めることもできず、ただただ奴らに食われ、その亡骸さえも残されていないのだ。
こうして誰もいない、更に詳しく語れば肉なるもので生きているもののいない村々が次々に出現していった。
これを偶然にも旅行者が発見した。しかしながら、この情報を他都市にまで伝えることが出来たのは一月以上の日数が経過していた。
(その間には多くの旅行者が奴らの餌食になっていたのだ)
そしてその間には城塞都市までもが、彼ら、骸骨集団の餌食になっていた。
ついに暴虐の限りを尽くしていた化け物集団の存在が国家の中枢に伝わった。
当初は信じるものがいなかったほど、この国家的危機の秘匿性が群を抜いていた。なにしろ生存率がゼロなのだから、調査隊を出しても結果は梨の礫となったからだ。それが本当の危機だと認識できたのは、城塞都市での生き残りの証言があったからだった。
「本当です。本当に生き物だけがいないんです。盗賊の仕業ではありません。なにしろ、生き物だけがいないんですから、他のものはそのままあるのです。取られたものは無いように見られました。私は気味が悪くて……」
旅人からの証言はこのようなものだった。まだ、彼らは骸骨集団を見てはいなかったのだ。多分、遭遇していたら生還はできなかっただろう。
「骸骨です。骸骨が襲ってきたのです。それで部隊は全滅、私だけが伝令として……」
ある時、城塞都市での生き残りが身の恥を知りつつこう証言した。
もちろん、『なぜ部隊を見捨ててお前だけが生き残った?』と言った辛辣な批判も当然あった。が、それより持ち帰った、『骸骨』と言う情報の方が重大だと判断された。
「骸骨が襲ってくるとは、そんなことがあり得るのか?」
魔法省の人間でもそう言った意見が出された。そして大旨そう言うものたちは、
「さしずめ臆病風に吹かれ見間違いでもしたんだろう。それとも、自分だけ生き残ったことを正当化するためだろう」
などと、自ら調査しようともせず、口先ばかりが勇ましい。
そんな感じで国の四分の一と連絡すら付かなくなったとき、漸く国の根幹に関わると帝都が動き出した。
即日には徴兵制が引かれた。
それに伴い大規模な民衆の避難勧告を発令した。
帝都には人が溢れ、治安はかなり低下したのだが、そんなことに構っている暇も兵もおらず、ひたすら部隊編成に尽力していた。
その上で、こんな提案もなされた。
「隣国にも救援を要請してはいかがでしょう。これは人類にとっての脅威です。そこのところをご理解して頂ければ、兵を送ってくれるのではないでしょうか」
こう言った外務大臣に、軍大将がせせら笑い、
「貴公は我が国の恥を他国に洩らすつもりですか? そうなれば反逆罪も視野に入れねばなりませぬが?」
「大将は、ことの重大性をご理解できないのですか? これは国家の存亡に繋がるほどの脅威なのですぞ」
そう言った外務大臣に詰め寄りながら軍大将は、
「存亡? 今、存亡と言いましたな? これほどのこと、わしがちょっと行って片付けてきますよ。しかし、戻った暁月には、分かっていますよね? 今言った言葉ですよ」
外務大臣はワナワナと震えながら、
「良いですとも、そうなれば私も願ったり叶ったりです。大将の言った通り無事でお戻りください。しかし、それでも私は隣国に支援要請はすべきだと思います。帝陛下、どうかご裁決をお願いいたします」
外務大臣が直接帝に願い出たために首相が不満を抱き、
「いやいや、ここは大将の働きに期待しましょう。なんと言っても国軍を統轄する大将ですから、我が国の全軍を率い虫けら退治に行ってもらいましょう!」
外務大臣は尚も食い下がったが、首相までもが大将の肩を持つものだから、他の大臣も首相に同意し、こう言い出すものも出始めた。
「外務大臣、こんな根も葉もない噂を聞いたのですが、ね。大臣が敵軍を引き入れ我が国家を滅ぼそうとしている、などと、ご夫人方の井戸端会議にも上らない噂ですがね。しかし、大臣があまりにも執拗に言い張れば、疑うものも出ないとは限りませぬぞ」
こうなっては致し方無しと帝も、
「よろしい、軍大将に全軍の指揮権を委ねる。即座に出陣せよ!」
こうして自国だけの軍編成で骸骨軍団に立ち向かうこととなった。