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赤龍帝国

赤竜族のお話しです。

骸骨軍に戦略されたため動き出しました。

 骸骨部隊が荒らし回った面積を東京ドームに換算すると、竜族の領土はユーラシア大陸ほどとなった。その所為か、骸骨軍団の暴虐が上層部にまで到達するには時間がかかった。これこそティタノサウルスと言う恐竜の尻尾に噛みついた様なもので、その痛みが頭部にまで情報が伝達されるのに数時間要したみたいな現象だ。


 実際には一週間ほどかかり、その対応に一週間を要し、ドラゴン級の鎮圧部隊が到着するのにまた一週間かかった。

 都合三週間かかって鎮圧部隊が現地入りしたのだが、その時には時遅く、荒らされまくった村々に、城塞都市も三つほど壊滅させられていた。


 この事を重く見た上層部で些かの混乱が生じた。


 この地は赤龍帝の支配地域だった。


 竜族の帝には、黒竜帝、白竜帝、黄竜帝がそれぞれに存在し、各々が支配地域を有したいた。


 そしてこの不祥事が他の竜族、黒白黄族に知られたら口を出されるのは必定。それがあって赤龍族の上層部でもめたのだった。


 西の御殿と呼ばれる政務を司る城内での一室。


 安全保障会議のような決定権はないものの、それの下準備ほどの集まりでのこと。


「ここは断固討伐に向かうべきです」

 これは軍参謀の発言だ。


「軍はこの件には関わらないでもらいたい。これは我ら地方都市の問題ですじゃ。だから帝にお願いし、都市部の防衛強化に努めて参りたいのじゃ」

 これは第五国土大臣の発言だ。

 国土省は領内の治安をも管轄していたからだし、これを利用し予算の増額を期待している裏事情があった。


 軍に取ったら平安な日常で影が薄くなった現状の打破に期待を寄せるのは当然だ。だから、ここは引き下がれない。


「いやいや、賊が竜族とかなら国土の管轄でしょうが、調べた結果、人型骸骨というではないか。こうなれば侵略を受けたのですから、討伐は当然軍でしょう!」


「そこまで大袈裟にしなくても、なんなら私一人が行って始末してもよろしいのですよ」


 大臣に各言われては一度穏やかにならざる得ない。それで、

「他の方々のご意見は?」

 と、話を逸らしにかかった。


 そこに御前会議のお触れが、扉の向こうで打ち鳴らされ始めた。


 驚いたのはその席にいた第五宰相だ。

「どういうわけか? 知っているものはいないか? 第五国土大臣は?」


 話を振られた大臣は首を横に振りながら、

「いいえ、私も初耳です。それに第五宰相が知らないことを、私が知るなどと言うことはないかと。そうですよね? 皆さん」

(この帝国では宰相が五段階に分かれていた。上の者ほど帝と距離的に近くなる)


 この席にいた第五宰相を除いた六名が大臣に同意した。


「では、会議場所に行ってみましょうか? で、議題は?」


 この中で一番身分の低い警察総監が、

「私が調べて参ります」

 と言って大急ぎで出て行った。


 もっとも、この人達は、自分で動くことはしない。下のものに命ずるだけだ。しかし、それでも彼らが戻ってくるまで門前で待っている必要があった。


 命じてから十数分後に彼らが戻ってきて、

「総監、お早くおいでください。すでに帝は座しています!!!!」


「なんだと? して、議題は???」


「分かりません。周りの者も堅く口を閉ざしています。賄賂も効きませんでした」


「そんなにか! これは……」

 と言って総督は室内に戻っていき、

 開口一番に、

「皆様、大変です。帝はすでに座して待っているそうです。用向きは不明で、勅命が下るかも知れません。皆様、お覚悟を!」


 そこまで言われたら背筋に冷たいものが流れる宰相以下の面々も、早足で玉座の間に赴いた。


 玉座の間への通路には政務官以上が、そして大佐以上の身分のものがゾロゾロ連なっていた。

 そして驚いたことに地方官の知事級までもが詰めかけていた。


 そこでは顔を合わせれば、この御前会議についての情報のやりとりをしようとするのだが、誰一人、答えられるものはいなかった。


 それからしばらくして、その間中、帝は黙って座していたのだ、が、玉座の横に、もう一つの座が用意されていた。


 しかし、その座には誰一人として相応しいような者がいなかった。

(この場と限ってのことだが)


 それで集まった面々は周囲をくまなく見渡し、

『誰が座るのだろう?』

 と、噂している。


 もっとも、帝位継承権第一位の者は存在する。


 だから、玉座の右に座るとすれば、その第一位の者しかいない、のだが、そのお方はとんと政治の表舞台に登場してこなかった。


 それでこの時節にお出ましなのかと、全員訝っているのだ。


『なんの必要があってなのか?』


 こう誰しもが考える。


 それは当然で、帝位継承権は何があっても微動だにしない赤龍帝国なのだから、敢えて誇示する必要性を感じないのだ。


『ひょっとして先日発生した竜族村襲撃事件か?』

 と、囁く者もではじめた。


 その時、帝が立ち上がった。


 一斉に静寂が走った。


「皆のものに言い渡すことがある。第一宰相!」


 第一宰相が進み出た。


「始めよ!」


 帝はそう言うと座に着いた。


 第一宰相は厳かな物言いで、

「先日事件が起こった。人間界からの侵略だ」


 その言葉で場内は騒然となった。今までのお気楽な噂話から、一気に緊迫した現実問題へと発展したからだ。


 騒然とした空気が一段落した後、第一宰相が、

「現地の様子では敵対した無思慮な盗賊どもはすでに引き払い姿を眩ませた。そこでだ、我らは調査団を送らねばならない。その筆頭に我らが第一帝女陛下がお出ましになる」


 こう言い切った瞬間、場内は割れんばかりの歓声が沸き起こった。


 その歓声がいくら待っても収まらないので痺れを切らした第一宰相が、

「えぇい、静まれ! 陛下のご前であるぞ! 静まれ!」


 それで漸く、でも、少しずつではあるが静寂が戻った。


「第一帝女陛下のお供の推薦をと、陛下は仰っている。そこで一両日の時間的猶予を与える。明日のこの時間には推挙する者を選ぶように」


 第一宰相が言い終えると、帝は再び立ち上がり、片手を天に突き出しその場を去って行った。


 帝が別室に退かれると、たちまち高位の者といえども群衆に早変わりした。


「おい、誰か知略に長けたものはいないか?」


 と、誰ともなしに言えば、それにのっかろうとする者が後を絶たず、


「わしも、その推挙に乗せてくれ!」


 このような集団がそこいら中に出来上がりひしめき合っていた。


 先ほどの第五宰相派閥も人選に取りかかった。


 先ほどの会議室に戻り、

「大変な事になりましたな。まさか、討伐ではなく調査団を派遣するとは、それも帝女陛下直々に!」


 第五国土大臣の後に、第五宰相が、


「どうして調査と決断なされたのか、誰か知っているものはいないか?」


 それにもやはり誰も知らなかった。


 ところが参謀が、

「もしや帝女陛下に人間の血が流れているからじゃないですか?」


 と発言した途端、その場にいた全員から口を塞がれた。


『この大馬鹿者! そんなことを口に出したらどうなるか分かっているのか? わしたちにまで累が及ぶんだぞ!』

 第五宰相の絶叫だ。


 第五大臣は巨体でのしかかりながら、

『五等親までもが極刑になるんだぞ!』

 と、脅しのようなことまで言う。


「しかし、帝女の周囲では公然の秘密ですい?」


「まだ言うか!??」

 第五大臣が首を絞めだした。


『ぐぐぐ苦しい!』


「当たり前じゃ、首を絞めているんじゃからな!」


 参謀が必死に詫びを入れ、漸く首締めから解放され、

「あわわわぁぁ! すごい顰蹙ですね」


 未だに理解していないような参謀に、

「帝の前でそのような言葉を使ったら即刻命はないぞ」

 と、警察総監が吐き捨てるように言い切った。


 それでも国土大臣が、

「でもよ。その話が本筋なら、人選にチャンスがあるかもな?」


「と言うと?」

 と、第五宰相も食いつきだした。


「ここでその件に批判的な人選をしたら確実に落とされるじゃないかと。少なくても通常の人選をしても我らに勝ち目は皆無でしょうしな」


「うむうむ、我らがどうあがいても第一には勝てるわけがないからな。それなら一か八かの大勝負をしてみるのも手か?! 総監はどうお思いか?」


 そう言われてみればと、思い直したような総監も、

「そうかと言っても、あからさまな人選は我らの首を絞めますぞ?!」


「では、そちらの人選で賛成と言うことでよろしいか?」


 第五宰相の決により、帝女の血縁に配慮した人選に決まった。


「では、相応しい人物は?」


 それには参謀が大得意げに、

「我らが親衛隊の中から、アラゴとアブラムを推薦します」


 訝しがる第五国土大臣が、

「その人物の背景は? まさか、裏に誰かの息がかかっているということはあるまいな」


「純粋な成り上がり者です。出は第五級庶民となっていますが、未満級というのがもっぱらの噂です。それも人間の血筋が入っているなどの理由からです」


 宰相は用心深くも、

「早速会ってみようか? 呼んでこられるか?」


 参謀は嬉嬉としながら平伏し、

「お任せあれ!」


 それから小一時間後に、アラゴにアブラムが室内に連れて来られた。


 参謀が大威張りで、

「ほら、ご挨拶申し上げぬか!」


 アラゴはともかく平伏するのだが、アブラムは立ったままでいる。


 第五宰相が最初の印を翳しながら、

「わしは第五宰相だ。呼ばれた用向きを口外していないだろうな?」


 その印を見てからアブラムも平伏し、

「これは失礼をいたした。なにぶんご容赦を。なにせ身分が分からぬとこちらも対応できぬので」

 と、平伏しながらも心からの恭順を示してはいない。


「洩らしてはいないな?」

 と、再度尋ねる。


「呼ばれてすぐに来ましたので、誰にも会っていません、が?」


 素直さを感じられない第五宰相は、

「帝女についてどう思うか? 忌憚無く話せ」


「そのお方について話せば命が幾つあっても足りませぬ。ですからご容赦を!」


「ほう? 無骨者のようで注意深いな。では、嘘偽り無く話せ。そちたちには人間の血が流れているのか?」


 アラゴがなにか言いそうになったが、アブラムが止め、

「それは関係と言うことですか? 遺伝に関してですか? 血統に関してですか?」


 第五宰相は感心しながら、

「その全部だ!」

 と、無表情に要求する。


 アブラムは苦痛に顔を歪めながら、

「私は第六級の出身で、その時は人間界に身を窶しておりました。その後、一念発起し第五級に昇進してからは親衛隊の試験にも合格しました」


「どうして第六級だったんだ? 出生の故にか?」


「そうです。私の母が人間でした。父は第四級だったのですが、母との関係で六級にまで落とされました。それで自分も六級でした」


「で、今は五級という分けか? その五級に不満でもあるのか?」


「いいえ、不満はありませんが……」


「が? なんだ?」


「人間界に逃れた経緯から推測してください。第五級のやつらに良い印象はないのです」


「第六級と言うことで相当差別されたと言うことか?」


「そうです」


「しかしな、五級の身分でいれば分かるだろう? 上からの差別が極まりないと言うことが、それに比べたら五級が六級にする差別などたかが知れていようが?」


「今になって分かりました、が、その時、六級にいたときには分かりませんでした」


「差別とはそう言うものだ。それでお前は帝女陛下をどう思っているんだ?」

 第五宰相は唐突に聞いてみる。


「どうと言うことは? 帝女陛下ですよね? それ以上でもそれ以下でもありませんが? しかし、妙な噂話は聞いたことがあります。信憑性はかなり薄いと思いますがね」


 ぎらついた視線を向けながら第五宰相は尚も、

「話してみろ!」

 と、気迫に満ちた聞き方だ。


「なに、嘘でしょうが、帝女陛下には人間に近しいものがいるとかいないとか」


「ほう? お前はどう思うのだ?」


「そうだったら自分も人間界に住んでいた経験もありますから、親近感が湧きますね」


「それで此度の侵略の詳細は聞いてあるのか?」


「はい? 辺境の地の竜族地域で略奪があったとは聞きました」


「それが人間だとしたら、お前はその人間界を粛正できるか?」


「人間が竜族を侵略? ですか? それはお言葉ですが無理だと思いますよ」


「力量が違いすぎると言うのか?」


「はい、人間界を流浪いたしまして断言できます。奴らには無理です」


「では、どんな奴らがやったと思う?」


「竜族でなければ……、雌型がいない鬼族、これはどうして自然ホップアップするのか分かってませんが、個体数は少ないと聞いています。後、竜族に対抗できる種族と言えば、これも自然ホップアップするみたいなんですが、骸骨というものがいるらしいのです」


 第五宰相が不思議そうな表情で、

「私も鬼族については聞き及んでいる。しかし、その骸骨というのは初耳だ。誰か知っているものはいないか? いなければアブラム、もう少し詳しく話せ」


 やはり誰もいなかったのでアブラムが続け、

「人間の死体から生じるようなんですが、魔法も使えるそうで、生きている人間族よりは強いらしいとは聞いています」


「位置的にはどの辺に生息する?」


「基本、大勢人間が死ぬところとか、墓地、人間を埋葬するところとかですか」


「よろしい、君と、そこのアラゴに決めようじゃないか!」


 それにはビックリするアブラムが、

「私に何をさせようと言うんですか?」


「帝女陛下の護衛として推薦するんだ。もう、明日だがな」


 こうしてアラゴにアブラハムが推薦される事となった。これは第五の話だ。


 次の日、玉座のまで推薦が行われた。第一から第五まで、それぞれの級から人選された者達が一同に並んだ。


 帝が一同を見渡してからあるものを取り出し、

「お前達にその器具を付けてもらい、誰が最強かを決めてもらう。宰相!」


 第一宰相が進み出て帝から五個の器具を受け取った。そして、

「帝、これは?」

 と聞いたのだが、


 帝は不満そうに、

「お前が第一だと言っても、それが何になる? よもや小細工をしようと言うのではなかろうな? そんなことで孫娘の命を賭けられるか!」


「はは!! 恐れ多いことです。決してそのような事では!」


「もう良い。それより早く決めろ。各チーム一名だせ。それで決めれば良い」


「五人全員で蠱毒をやれと?」


「そうだ。生き残ったものが強者だ!」


 こうして各級の代表が選ばれた。第五からはアブラムが選ばれた。


 そして、コロッセオに放り込まれたような五名だったが、器具を首に装着され、その作用に皆が驚愕しだした。


「これでは戦えないぞ!」

 と、第一のものが叫ぶ。


 第二も第三も第四も同じく戦々恐々とした。


 が、アブラムだけは嬉しそうに戦う気満々だ。何かが彼を高揚とさせていた。が、彼自身それが何であるのかは、全く分かっていなかった。


 それに気が付いた第一が、

「お前は人間の血統をひくのか?」


「そうだ、今まで人間の血が流れていることに嫌悪してきたが、今は、それに感謝しているぞ。これこそ互角というものだ」

 と、第一の質問に受けて立ったのだが、話している自分でも、自分が何を言っているのかすら、理解していないという間抜けを演じていた。


 その器具には人間の姿に強制的に固定する恐ろしき呪いが込められていた。それはつまり攻撃力が激減するということだ。


 しかし、それだけならこれほど恐れはしない、人間型に姿が固定されても全員が装着するのであれば条件は互角。なのに、なにかが違っている。


 それに第一が本能的に気が付いたのだ。

『第五は能力を抑制されていない?』

 と、こう第一は見抜いたのだ。

 そうであるなら本来であるドラゴンの能力が発揮できる。

『これほどの脅威があって良いものか!?』

 そう第一は不満に感じ、と同時に第五を恐怖した。


 だが、肝心の第五であるアブラムは、そのことに気が付かない。器具によって固定化されると言うだけの作用にしか気が回っていなかった。


 自分が器具によって解放されている力について分かっていなかったのだ。


 そこに第一宰相が合図の前にルール説明をおこなった。

「試合は最後に残ったものを勝者とする。ギブアップは認める。その器具は二足歩行を強制するものだ。だから、二足歩行状態では死亡するとなれば、器具を破壊しドラゴンの姿になればいよ。だが、その瞬間に負けと判定される。最後まで二足歩行状態で生き残ったものが勝者だ! では、始め!!!!!」


 すぐさま第一推薦が叫んだ。

「第二に第三、そして第四、全員で第五を始末せねばやられるぞ!」

 と、これほど警戒したのだ。


 しかし、現実とはうまくいかないものだ。


「そう言って第一のうぬが最後に生き残るつもりだろ! おい、第五、その第一を殺しちまえ。お前だってこいつには怨みがあるんだろ!」


 こう言ったのは第二だ。第一がいなくなれば自分の天下だと思ったのだろう。


 それに呼応したのが第三だ。

「そうだ、第五よ! 第一に第二を瞬殺しちゃえ!」


 などと言われた第五のアブラムだが、自分の実力でできるものなのかと今一自信が持てない。それで器具の性能を確認するために動き出した。


「皆の意見として第一から始末を付けないか? それが全員の考えだろう?」


 まさしく第一以外の考えそうなことだ。その上、瞬間的に言われたものだから、行動にも出やすかった。


 まさしく集団での蹂躙にさすがの第一もすぐさま降参と器具を破壊していった。


「第一、失格!」

 と、第一宰相は大声で宣言した。


「次は第二だ! やれぇぇ!!!」


 これにも逆らう第三と第四ではない。もっとも、意に反せばたちどころに自分がやられるという強迫観念に縛られているからだ。


 命じられたまま三人で第二に襲いかかり、たちどころに第二もギブアップした。


「第二も失格!」


 第五のアブラムは振り向きざまに第三に襲いかかった。


 何も言わなかった第五だが、第四は釣られすぐに手を出してしまった。その結果が、自分に不利に働くと知っていて、反射神経的に第三を打ちのめしていた。


「第三も失格!!!」


 こうして第五と第四の決闘となった。


 したり顔の第五のアブラム、精神的にも優位に立とうと、

「まんまと罠にはまったな、第一の計略にはまってたらどうなって他か分からなかったが、お前がアホでよかったぜ!」


 苦虫を噛み潰したような顔をした第四、だが、自分が優位と信じ、

「なにお! 第五の腐れ屑のくせに! どのみちお前達は負け組なんだよ!」


 その言葉は真実だった。

 第五はドラゴン族にとったら寄せ集め、屑の中の屑であった。第四までが通常ドラゴンに価し、それに能わないものを全て第五にしているからだ。

 だからどんなものでも第五に相当するものは欠陥品に他ならなかった。ましてアブラムは第六からの成り上がり者だ。


 この第六級というのは、他種族と関わりを持った者の俗称だ。


 しかしながら、この第六について厳格な規定というものはない。そこまで明瞭にする価値もないと言うことで適当に割り振られていた。

 そのお陰もあってか、アブラムも数年で第五に昇級できたと言うわけだった。


「馬鹿を言ってもらっては困るな! 今は、俺様の方が強いんだぜ!」

 と言ったアブラムだが、声が微妙に震えている。


「ほざけ!! 所詮は第五! 第四の俺様には勝てないと声まで震えているではないか」


 その言葉に勝てないかもと危機感を感じたアブラムだが、この器具、人間型に適合している気がして試したくなり、今までの肉弾戦から魔法戦に切り替えた。

「ハイパーイノベーションスキル発動! ウォータードラゴン・ファイヤードラゴン始動!」と言いつつ、右腕でウォーターを左腕でファイヤーを操り、交差させた瞬間に、「襲いかかれ相生ドラゴン!」


 交差した互いに相反するドラゴンは、火と水で大爆発を起こし第四を吹き飛ばしてしまった。その破壊力で器具は壊れ、危なかったが第四は本来のドラゴンの能力を取り戻し無事に済ますことが出来た。


「第四も失格! これにて第五が適合者と認める!!!」


 その時、アブラムは第一宰相に器具のことを聞いてみた。そうしたら、


「ドラゴン種は二足歩行型になれば威力は激減する。それは知っていよう。しかし、人間種の血が流れているものにはこの器具を使えば、その激減が緩和される。だから、お前みたいな人間の血が流れているものに取ったら、この器具はハンディキャップと言うわけだ。だから、お前が使ったハイパーイノベーションなど使わずとも勝てたはずだ」

 と、憎まれ口を叩かれた。


 やはり、下位のものが勝つと言うことは受け入れがたいことのようだった。


 もうして再び玉座の間に戻り儀式が進行した。


 勝利したアブラムとアラゴは、第一宰相により朱印を賜り、帝の前に進み出た。


 そして第一宰相により、

「この者どもが帝女陛下のお供と決まりましてございます!!」


 帝はじっと見据えてから何も言わず、右手を掲げ、次なる合図を送った。


 玉座の間には奥に通じる帝とそれに繋がるものが出入りする扉があり、そこから厳かに進み出る女性が一人いた。


 その女性は帝の右に用意されていた座の前に立った。


 すると第一宰相が、

「皆のもの帝位継承権第一位の帝女、フランソワーズ・ガブリエル・ザ・サウスドラゴン陛下なるぞ!」


 一同が平伏し微動だにしない。


 そして帝が指でアブラムとアラゴを指し示す。


「では、ガブリエル帝女陛下をお見送り!! お供のものも出立の準備をせよ!!!!」


 座ったと思ったらフランソワーズは立ち上がり、元来た扉の向こうに消えていった。


 アブラム達は後ろの扉から遠回りをさせられ、トライアンフゲートをくぐり飛龍局にやってきた。


「ここに来るように言われたんだが、俺たちはどうしたら良いんだ?」


 局の男達はアブラムが身につけている朱印に釘付けとなり動かない。

 それで痺れを切らしたアブラムが、


「おい、だから教えてくれよ。俺たちは……」


 で、漸く正気を取り戻した局員達が、

「いやいや、失礼した。本物の朱印を目にしたので呆けてしまった。しかし、どうやって朱印なんて手に入れたんだ? これは帝家のご朱印なんだぞ?!」


「それは知っている。第一宰相から直々に頂いたのだからな。それより……」


「頂いたって、本当に凄いな! これがあれば、サイン一つでなんだって買えるんだぞ」


 きょとんとしてしまったアブラムは、聞き返した。

「なんでも買えるって? 女もか?」


「下品な! 何でもなんだから買えるんだろうよ」と言いつつ、「しかし、そんなありがたいものを持っているお方が、そのような下品な物言いをされるとは」と、ここで再度アブラムをしげしげ見つめ直す。


 それで気が付いたのかアブラムは、

「この朱印ってそんなに偉いものなのか?」


「だから、さっきも言ったけど帝の朱印なんだぞ。多分だけど、第二宰相だって持ってはいまい。持っているのは第一の数名くらいだろう」


「へぇ~~、凄いものだな」


 そこで局員は気が付いたように、

「で、あなたたちはここに何しにきなさったのかね?」


「だから、俺たちも聞かされていないんだって」


 そんなやりとりしている時に、第五宰相達は先ほどの会議室で祝杯を挙げていた。


「やりましたな、宰相!!」

 と、国土大臣が満面の笑みを浮かべる。


「見事です! さすが第五宰相!」

 と、こちらは参謀。


 総監は、

「これで我らが第四に進級するかも知れませんね」


 またしても大臣に宰相が総監の口を塞ぎ、

「馬鹿者! 声がでかい!」


『失礼をば!』


 そんな総監を尻目に、

「何はともあれ、全てはこれから、帝女陛下のご用事が全てうまくいった暁月の話ですよね。そうなれば万々歳! しかし、そこにミソが付いたら……」


 その後は言わなくても分かっている面々だ。


「そうとなれば、我らも全面協力して差し上げないと!?」

 と言ったのは国土大臣なんだが。


 第五宰相がそれを遮り、

「それなんだがな、第一宰相からの御触れが出されている。これが嫌みったらしい内容なんだよ。告! ときやがったよ、あいつ。で、告、此度の推挙誠に苦労であった。その上で誤解無きように告ぐ、手出し無用。これは帝の裁量なり。これに違反した場合は極刑に処する。以上、となっている」


「うむむむ!!!! なんと卑劣な!」

 と、唸ったのは国土大臣。


 しかし、柔軟だったのは総監で、

「もしかして、これは帝が帝女陛下に科された試練なのでは?」


 そう言われ黙した面々だった。


 アブラムに遅れること二時間、やっと帝女がやってみた。


 お就きの侍女が多数従っている。


 その侍女で一番威張っているおばさんが、

「これ、くれぐれも粗相の無いように! お付きの者は我ら三名が選任された。下賤なうぬ等は直接話しかけてはならぬ。全て我らを通して話すように!」


 アブラムはここで戻りたい気分になっていたが、

「それではお聞きしますがわしらはどこへ?」


「人間界だ! そこで真偽を確かめねばならぬ。帝女陛下はそのために出向かれるのだからな。うぬ等は、その警護だ。ただし、器具を外してはならぬ。それで人間のまねごとでもしているんだ。よいな!!!!」


 こうしてそれぞれが全く目立たない器具を付けて人間界で人間になりすまし、事の真相を究明する事となった。


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