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骸骨軍団との死闘

 押せ押せの状態でも押し切れないでいる骸骨軍を、顎の骨をガチガチと打ち鳴らし見ている骸骨軍の指揮官達、まるで笑っているようだ。

 奴らには肉がないから笑ったときの歪みは見えないから詳しくは分からないのだが、その仕草を見ていると、確かに笑っている。

 しかし、どうして笑えるのか、この膠着状態では満足いく結果は出ていないように思えるのだが、それなのに許容範囲と言うことか、それともこの次の布石であって計画通りという分けなのか。


 その答えは、戦い始めてすでに数日が経過したにも関わらず、今もって主力が出ていない点にあった。


「愚かな人間どもよ!」


「あぁ、もっと苦しめ! さすればうまい生気が吸える!」


 まるで人間を家畜とでも言いたげな発言だ。


「フフフ、きやつらもうまそうに食らっているではないか!」


「ほんに、しかし、我らが食えるほど人間どもも容量が増えれば良いのだが、やっぱり、竜族には到底及ばないな」


 各指揮官が思い思いの発言としていると、その中にヘンリー骸骨が、

「竜族か、その奥にいるドラゴンを倒せるまでになれば良いのだが、まだ無理だからな」

 と、他の指揮官達に釘を刺した。


 それに反発するように別の指揮官が、

「その話は本当なのか? 実際にそんな強力なドラゴンなんているのか?」


 ヘンリー骸骨は、顎の骨を打ち鳴らし、

「この攻防で見られるんじゃないか? もし、奴らが出てこなかったら、もう一度竜族狩りをしても良いだろうがな。でもよ。奴らとて城塞都市までやられて黙っているほどお人好しではないぞ」


 先ほどの指揮官が、

「それはそうか。すこし暴れすぎた感もあるな」


 そこに別の指揮官が、

「何にしても竜族はうまかったな。でよ、こんなところにまでドラゴンってやつがくるのかよ? 竜族の支配地域からは遠すぎじゃないか?」


「確かに遠いな。だから来なかったら再び竜族狩りで良いよな!?」


 こう言ったヘンリー骸骨に皆が賛同した。


「異議なし!」


「で、ドラゴンが来て、強敵だったらどうする? 最後まで倒すために戦うか?」

 と言った指揮官の声質から否定的な感が漂っている。


 それはそうだ、戦って勝つのは良いが、その戦いで自らが消滅するのは好まない。だから、現状がこうなっていた。つまり、小手調べに自分以外に戦わせ、どっちに転ぶのか見定めようとしているのだ。


 先ほどヘンリー骸骨に反抗的な発言をした指揮官が、

「まぁ、力量は計った方が良いだろうな。で、どいつを向かわせる?」


 ヘンリー骸骨が即答し、

「最強のお前のところと、最弱な俺のところで良いんじゃないか? それなら力量に疑問の余地は残らないだろうし、減っても惜しくはないだろう?」


 先ほどの指揮官が、

「では、そう言うことで、ドラゴンが強敵と分かったら、速やかに撤収するで良いな?」


 作戦が決まって指揮官達が散開した後、ヘンリー骸骨に近しい指揮官が、

「しかし、撤収するにしても行く場所はあるのですか?」


「そうなったら元の草原に戻るか?」


 骸骨軍がこうも余裕を見せている間にも、軍大将は刻々と迫る総撤退の判断に頭を悩ませていた。


 各指揮官を呼び寄せ、撤退に関わる指示に余念が無い。その中でも一番肝心な殿をどの部隊にするかでやはりもめた。


「我らの師団は先ほどの討伐でかなりの痛手を受け、殿など無理というもの」

 と言えば、他のものは、

「私どもの師団は、これまでの防戦で、これまた戦力を失い、同じく無理というもの」


 こんな感じでどこも似たような被害状況なのに、殊更被害を大きく見せ、何としてでも殿を拒むつもりでいる。


 そんな会議ばかりの日に、援軍からの使者がやってきた。


 アンソニーが直々にやってきたのだ。


「援軍といっても総勢、千人にも満たない予備兵です。帝都に軍大将が残してきた精鋭部隊は、そのまま健在です」


 そう言われ目を丸くする軍大将、

「では、貴公はどこの兵を連れて来たのかね?」


「我らは隣国の共和国より、こちらの宰相が連れて来られた援軍です」


「宰相が、そうか、それで精鋭部隊を温存したというわけだな」


 そう言われてアンソニーは、瞬時には理解できなかったが、二人の間で何かあったのだろうと、推測だけしてその場はスルーした。

「そこで、作戦はどのようになりましたか?」


「その前に聞きたい。どうしてこちらに合流してこなかったんだ? 指揮に問題があると見ているわけではないだろう?」


「軍大将が撤退命令を出したときに、伏兵の役目をするためです、が?」


「おぉ、殿のような役割だな。それなら、我らの最強部隊を回さなければなるまい。して、今はどこに潜めているのか?」


「ちょうど、ここより帝都への直線上、すこし右側になります」


「ふむ、追撃してくる骸骨軍の横っ腹を叩くというわけだな。すばらしい!」


「しかし、こちらも囲まれたらどうにもなりませぬから、移動を常とします」


「そうだろう、小規模の軍はその点で有利という分けか。では、我が方の殿はその反対側に陣取らせよう」


「では、軍大将の合図で!」


 アンソニーが立ち去った後、再びもめだした。


「軍大将、殿は? 私どもの師団は無理です。精鋭でもありませんし」


 それを見越し、軍大将は、

「殿は我が軍が見事果たしてみせる!」

 と、アンソニーに負けまいと思ったのか、潔く決断した。


 それからまだ、数日の時間がかかり、多分、用意に時が必要だったのだろう、が、ついにその時が来た。


 見張りに出ていながら殆ど遊んでいたエドワードに、アンソニーが、

「ところで、ここの軍大将が骸骨軍に昼も夜もないと知っていたらどうなっていたと思う? お前だったらどんな戦い方をしていた?」


「そう難しく考えなくても良いんじゃない? 向こうが弱ければ押し、強ければ下がりながら敵戦力を削る、そんな戦法で、しかし、兵士への補給がままならなければ短期にやられるよね、と言う事だけだよ」


「そうか……」と落ち込んだようなアンソニーは、「お前だったらどこまでも逃げそうだものな」と、白い歯を見せ笑って見せた。


「だって、死んだら何にもならないでしょ」


「確かに、だから、今度も死ぬんじゃないぞ」


「アンソニーは安心してよ。僕が守るからさ」


「その言葉、忘れるなよ」


 そんな会話の最中に城門が開き、兵士が勢いよく駆け出した。


 それを表したエドワード、

「さすが、脇目も振らずに一目散だな!」


「逃げるときの鉄則だな! さて、我らも動くぞ!」


「へいへい! なんなりと!」


 アンソニーは、計画通りに帝国軍の右側に陣を構え、

「範囲攻撃!! 撃て!!!」

 と、初っ端から骸骨軍に手を出した。そしてすぐさま移動を開始し、その移動中にも、

「後方の部隊で、魔法攻撃!!! 撃て!!!」

 と、撃っては逃げ撃っては逃げを繰り返すつもりでいた。


 アンソニー隊は、右に大きく旋回しながら、骸骨軍の本陣に大接近していた。


「おぉ、アンソニー隊長、本気でやる気だな」

 と、エドワードが言えば、

 アブラムも分かっていたようで、

「そうこなくっちゃな! 時間の無駄ってもんだ。さてと、奴らの力量を、ば!!!」


 そう言って先にアブラムが、敵陣の骸骨軍に単身で突入していった。


 それを見送ったエドワードの尻を叩きながら、

「あんたもいくのよ!」

 と、フランソワーズが檄を飛ばした。


「へいへい、行って参りますよ」

 と、遅まきながらもエドワードもトボトボと歩いて行った。


 その姿が見えなくなるまで見送っていた帝女は、

「さて、それではこの辺で待っていましょうかね!」

 と言いつつ、お茶の用意を侍女たちにさせだした。


「まさに帝女って気楽で良いわね」

 と、範囲攻撃魔法を撃ち込みながらラーラは嫌味の一つを言い出した。


「そうよ。優雅に振る舞うのも貞女としてのお仕事。あなたとは違うわね」

 こんな感じでも帝女は自らの長髪を自慢げに揺すった。


 二人が出払った後でも、数体の骸骨部隊か、単独の骸骨かはこの陣目掛け駆け込んで来たのだが、部隊として骸骨軍が攻めてくることはなかった。多分、二人の働きで、こちらまで手が回らなかったのだろう、と、帝女は察していた。


 その二人は、まさしく骸骨軍の主力と対峙していた。


 骸骨軍の指揮官達は狼狽えていた。


 計画ではこちらが攻め、追い詰める段階でドラゴンが出現し、強ければ撤退し、弱ければ喰い殺す。


 なのに、向こうから攻め込んできた。これでは軍の動きがバラバラで、単に強さを競う個人戦になってしまった。


 指揮官達は大慌てで、

「どうする? 誰が相手をするんだ? あいつらはどこに行ったんだ?」

 と、おろおろしっぱなしだ。

 それはもっともで、各自は強敵と戦って消滅したくはない、そればかりの思いがあったからだ。


 だから、手下をしかけさせていたのだが、その手下があっという間にやられると、すぐさま次の作戦が立たない状態に追い込まれた。それだけアブラムとエドワードの戦いが激しかったのだ。


 二人は面白いように骸骨兵を破壊していく。


「なんだか拍子抜けだな! こうも脆いとは」

 と、アブラムは快適に棍棒を振り回している。


 エドワードはそれが分かっていたように、

「なにしろ強い奴らは逃げ腰だからな。勝負にはならないだろうよ」


「じゃ、どこまでやる?」


「追い詰めたところまでだな。それまでは雑魚狩りだ!」


 ヘンリー骸骨軍は城塞に攻めかかっている最中だった。そして近しい骸骨軍も同じく追撃に余念が無かった。

 そして、逃げ遅れた兵士達を喰い殺し終わる頃、漸く後方での事態が伝わってきた。


「おやおや、本陣に敵兵が乱入したってさ!」

 と、近しい骸骨。


「これは意外だったな。だからドラゴンも出てこなかったのか。これは幸いしたと言っても良いかもだな」


「では、どうします?」


「なにもしないで様子でも見ていれば良いだろ」


「見てて分が悪そうだったら?」


「その時は計画通りに草原まで撤収で良いのでは?」


「そうですね。手を貸す義理もないですしね」


「そう言うこと。俺たちの割り当ては滞りなく済ませたのだからな。文句を言われる筋合いはないというこった」


 と、ヘンリー骸骨軍は、アンソニー陣と正反対の位置にまで後退してきた。



 大暴れしているアブラムに、その零れ骸骨を粉砕していたエドワードにも、強敵が現れだした。

 ついに送り出す雑魚骸骨たちがいなくなって軍中枢部隊だけとなったからだ。


 そうなってからエドワードが、

「おれ、ちょっと行ってくるから、適当にやってて」


「おいおい、俺だけにやらせようってのか?」


「そうじゃなくって、さぁ。お客さんを迎えに行ってくる」


「なんだそれ!?」


 そう言ってエドワードはアンソニーがいる陣前まで戻り、

「アンソニー、客人を迎えに行った方が良いだろ」


 分けが分からないアンソニー、

「何の話だ? 全然見えないんだが」


「だから、軍大将だよ。あっちは左旋回してその辺にうろうろしているんでしょ。そうなったら変なのと出くわすかも知れないよ。その前にこっちに連れて来なよ」


「あぁ、軍大将ね。そう言えば反対側にいるって言ってたな、じゃ、私が迎えに行ってくるか?」


 エドワードが少し考えるように、「あぁ……」と発してから、

「それなら城塞の左側を回った方が良いかな。旗も忘れずに」


「どっちが指揮官か分からぬな!」


 エドワードは頭を掻いて見送った。

 が、そのまま陣内で待機というか、ラーラとかに世話を焼かれながら休息を取ったりしていると、じきにアンソニーが戻ってきた。


「あら? エドワード、まだいたのか? 軍大将をお連れしたぞ」


 それでエドワードは、

「軍大将、勢力はどれほどですか?」


 いきなり聞かれたものだからビックリしながら、

「三万の手勢だ。しかし、それが?」


「だったら、骸骨軍を一緒に討伐してください。こちらだけの軍勢では足りません。ちなみに骸骨軍は一万弱にまで減っています」と、本来なら、『骸骨軍の最強部隊が残っている状態です』と、付け加えるのだが、ここは敢えて黙っていた。


「そうか、それなら我が軍も討伐に加勢いたそう!」

 と、軍大将は単なる数あわせで勝敗が決すると思ったようだ。


 ここからの動きは速かった。


 軍大将軍とにアンソニー隊は骸骨軍を鶴翼の陣で圧迫し、アブラムとエドワードが切り込み隊長として縦横無尽に活躍した。


 それを遠目から眺めていた近しい骸骨が、

「あれがドラゴンですか? どうもよく見えないのか、人間に見えますが?」


 ヘンリー骸骨は大まじめに、

「オーラをよく見てみろ。霊力を使って見るのだ。あやつらこそドラゴンだ!」


 そう言われてよくよく見れば、近しい骸骨も、

「確かにドラゴンですね。それももの凄いオーラです。でも、どうして二足歩行で人間型なんですか? ドラゴンの力を発揮するには実体化する必要があるのでは?」


「さぁな。なにかの呪いか何かを使ったんじゃないか? 時代は進歩している」


「はぁ、そうですか。で、ところでもう一匹のドラゴンって、あれはなんなんです? あれこそ人間に見えますよ。でも、ドラゴンなんですよねぇ、なんなんでしょ?」


「なんだろうな? わしにも分からんよ」

 と言いながら、エドワードが身につけているネックレスにぶら下がっているペンダントに視線が釘付けとなっていた。


 なんとなく覇気が消え失せていると感じた近しい骸骨は、

「それでは計画通りに草原に戻りますか!?」


「あぁ、長居は無用だ。奴らに全ての汚名を着てもらい、我らは闇に消えよう」

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