エドワードの出撃作戦?
その頃、軍大将は二つに分け、不眠不休で襲ってくる骸骨軍団の攻撃を耐えに耐えていた。基本、城塞に立て籠もっての防戦だが、そればかりでは周囲から好きなだけ攻撃される、それで時折城門を開けは一掃作戦にでるのだった。
この時にはまだ骸骨軍も平でしか攻撃してはいなかった。その魂胆はヘンリー骸骨たち上層指揮系統が立案していた。
その骸骨部隊にも変化が現れていた。
折しも軍大将は、先鋒隊のたっての願いを聞き入れてしまった。
それには他の将校が猛反発したのだが、
「軍大将! あいつら(先鋒隊)は臆病風に吹かれ尻込みした奴らです。一度兵士がそうなった場合、容易に抜け出せないことは軍大将が一番お分かりのはず。それなのに討伐隊に組み入れるなど、それこそ危険極まりない。是非にでも命令を撤回してください」
しかし、軍大将も人の子、そう無下には出来ず、
「そういうな。今度こそ奴らにも汚名返上させてやろうじゃないか」
「しかし、……」
尚も食い下がる将校だったが、軍大将が手を挙げて遮り、
「此度はわしの思うようにやらせてくれ」
こうして先鋒隊も、城外に群がる骸骨どもを討伐する部隊に加わった。
最初は上上に骸骨どもを掃討していた。馬の上から動きの遅い骸骨を、棍棒を持って粉砕していくのだ。
それは兵士にとったら気持ちが良かっただろう。力一杯打ちのめせば、ガァ~ンと破裂するように木っ端微塵になるのだ、が、それがどこから来たのか知るよしもない。
それはつい先ほどまで帝国領内の領民だったか弱き民の亡骸だ。だから、骸骨軍と言っても脆い、非常に弱々しいに違いなかった。
しかし、状況が変わった。
ヘンリー骸骨たちが竜族の骸骨部隊を投入したのだ。
強さの点で全く異質な、その上に巨大な骸骨が出現し、討伐部隊は騒然となった。
「あんなのに勝てるわけがない!!!!!!!!」
こう叫んだのは先鋒隊の奴らだ。
だが、討伐部隊指揮官は大声で叫ぶ、
「隊を立て直せ!!! 防御の陣形を整えろ!!!」
指揮官は第一に物理的な防御に特化させ、次に、魔法適正で凌ごうと立案していた。
のだが、先鋒部隊が総崩れし、我先にと城門に殺到しだした。
それつまり敵前逃亡だ。
「こら!! 戻れ! もどって体勢を整えろ!!!!!!!!!」
指揮官の絶叫が木霊していた。
それには別の参謀が、
「指揮官殿、奴らは無理です。忘れましょう。それより残った我らだけで時間稼ぎしませんと、軍大将の援軍が来る前に総崩れになります」
「おぉ、そうだった。作戦を説明する。討伐隊は各大隊規模に分散する。分散した大隊は、奴らの足下に入り込め、そしてロープを使って動きを封じ込めろ。踏みつぶされないように気をつけろ。真下ならあの長い尻尾にやられる事も無いし、他の骸骨に攻撃されることもない。入り込んだら、奴らの足を砕け! 良いな、狙いは足だ!」
この命令は適切なのだろう。
何しろ竜族の骸骨は魔法が使える、し、尾を使っての破壊力は人間では止めようもないほどの威力だ。
距離を取っての戦いでは人間に勝ち目はない。
それを指揮官は本能的に察知したのかもしれない。それで竜族の骸骨の下に潜り込めと命じたのだろう。
だがしかし、竜族の骸骨がいかにうすのろだとはいえ、巨大な足の平である。それで踏みつけ回れば逃げ遅れる兵士も出てくる、し、踏みつけられたら耐えられる人間もいないだろう。
その結果はすぐさま無数の兵士の死体となって現れた。
それでも力戦の兵士だ。無駄には死ななかった。骸骨の足にしがみつき、僅かばかりでも骨を砕いていけば、何時しかは巨大な足の肝心な部分、巨体を支えていた骨が砕かれれば、その巨体の骸骨も崩落した。
グシャァァァ~~ンと。
時間の経過と共に、ちらほらと音を立てるようになった。
その貴重な時間に、城塞では救援の準備をしていた。
が、城門の外には先鋒隊が、早く開けろと詰め寄っていた。
「軍大将、どうしますか? 奴らも味方ですが」
「矢を射かけろ、と言っても、矢は持ってこなかったな。そのまま捨て置け! それより、一刻も早く救援部隊を出すのだ」
先刻、先鋒隊を出すのを反対した将校が、
「三個師団だけですが、救援隊が整いました。命令は?」
軍大将、その言葉で正気を取り戻し、
「命令を伝える。各自馬を引き仲間の救援に向かう!」
「しかし、竜族は足が速いですぞ!?」
「その殿を先鋒隊にやらせる。奴らを盾に使い、その隙に帰還する! 各自、自分の命を大事にし、仲間に馬を預けた瞬間から帰城する事だけを考えろ! では、出陣!!!」
こうして救援に向かった三個師団だが、帰還できた兵士は三分の一までになっていた。そして討伐に向かった隊は十分の一にまで激減していた。
この結果を受け軍大将は討伐隊を送り出すことが出来なくなった。だが、それすなわち竜族の骸骨にやられっぱなしになったと言うことだった。
「軍大将、これからどうしたら良いのです? 我らでは、あの巨大な骸骨をどうこうできるものではありませんぞ」
将校達は言いたくはないが、兵士達の不安が高まり、何時爆発するか分からなかった。
しかし、それは軍大将も承知だ。そして最後の作戦もないわけではない。だから、馬には兵士よりも良い物を食べさせていた。それ、すなわち総退陣であった。
「もうじき、援軍が来る。それまでの辛抱だ!」
これが軍大将の命令だった。
が、その前に兵士達が狂乱に陥ったら、総退陣の命令を出すつもりでいた。彼にとったら時間との勝負か、兵士の忍耐との勝負といったところだった。
そこにエドワードたちが救援にたどり着いた。
囲まれた城塞都市を遠方から眺めているアンソニー、
「これは厳しいでしょうね」
それに答えるエドワード、
「しかし、それが出来なければ人間社会は崩壊しますよ」
「だな、奴らがここだけで満足するとは思えない。しかし、どうするよ?」
「殲滅、それしかないでしょう!」
「だから、どうやって?」
「どうしましょう?」
いつの間にか来ていた、フランソワーズ・ガブリエル・ザ・サウスドラゴン帝女が、
「これを本国に報告すれば、我が国が締め上げて差し上げてもよろしいのですが?」
と、こう言ったのだ。
「お前、どうやってここに来たんだ? 羽でも生えたか?」
と、エドワードが挑発するような言い方をする。
も、アンソニーは窘めてのだが、フランソワーズは聞く耳を持たず、
「本当にあなたって気に障る言い方しかできないの!??? 私が助けてあげましょうか? と言っているのよ。普通だったら泣きながら跪き、こう懇願するでしょ」
「ほう、どう懇願するんだね? フランソワーズ殿?」
「こうよ! こう!」
と言っても顎を引いただけなんだが、どう見ても威張っているようにしか見えない。
「うむ、貴殿の謝罪を受け入れようではないか。私の寛容さに感謝するんだな」
それには怒り狂った帝女が、
「アブラム!!!! 今、この者はなんと言ったんです?」
アブラムは、どこぞから這い出てきて、
『へいへい! 全く人使いが荒いご主人様だ』
と、ブツブツ言ってから、
「ここにおりますですよ。あぁ、この者ですか。ちょっとしたお茶目じゃないですか?」
帝女は目を丸くしながら、
「お茶目って、良い歳して恥ずかしくないの!?」
アブラムはそんな帝女を余所に、エドワードに向かって、
『だから、これ以上、帝女陛下を怒らせるなよ。ただでさえ込み入った事情なんだからこれ以上引っかき回すのは止めろよ』
『でもさぁ、おもしろいからさぁ』
『でももだってもないの。それにお前らだって時間が無いだろうに?』
それには真顔でエドワードが、
「時間? 時間ならあるぞ?!」
『しかし、お前らの城塞都市が陥落しそうじゃないか?』
『あぁ、陥落したって良いんだよ。別に!』
『だって、そうなったら? もしや? 見殺しにするつもりか? だったら?』
『いや、そうなる前に逃げ出すだろ、普通は?』
アブラムはちょっと考えた。そう、確かに彼は考えた。そうして自分だったらどうするのかと想定し、結論的に、
『そうだな。崩される前に結集場所を決め、全城門を開いての全軍撤退しかないな。その場合でも殿だけは決死隊として募るだろうが、な!』
『そのタイミングの早い遅いで将としての器量が決まるな。だから、時間はあるのさ』
『しかし、助けに行けば……』
そこでもアブラムは考え出した。この状況で援軍として城外で暴れ回っても、それとも城内に入ったとしても、好転するとは思えない。
『やはり、全軍撤退の時しか好機はないのか?』
『ないだろうね。あったら教えて欲しいもんだ』
『なら欲張って、こっちの援軍で奴らを引きつけ、その隙に逃げ出すとか? 挟撃狙いとか。それとも……、うん? お前は何か狙っているな?』
『あ? 気付いちゃった? あっはは!』
と、笑いあっていると、疎外された帝女が真っ赤になって、
「男同士で話し合って、笑い合うなんてキモイ! キモイ!」
エドワードが何か言う前に、アブラムが先んじ、
『どうも帝女陛下はお前にご執心のようだぞ。気をつけた方が良いように思うぞ』
『気をつけるって? どうやってだよ?』
『言いなりになってはいはいって感じになれば、興味が薄れるんじゃないの!?』
『おぉ、その手があったか、興味を失わせるのか、ほーほー!!』
と言う事で、エドワードが改まって、
「それで帝女陛下、なにかご用でしょうか?」
と、家臣らしく振る舞った。
それを見てアブラムは目を覆い、
『この馬鹿が!』
と、エドワードの失態を嘆いた。
それでも帝女は嬉しそうに、
「まぁ、その呼び方は許してあげてもよくってよ!」
と、おすましして見せる。
そこで何か言われるのを待っている帝女を察し、アブラムがエドワードの横っ腹を小突き、『だから、何か言って差し上げろよ』
困惑するエドワードも、『何を言えって? 話ってなんだっけ?』
アブラムがもう一度目を覆い、『だから? なんだっけ?』
帝女が痺れを切らし、
「私が本国に言ってあげましょうかって言ったのよ!」
エドワードは即行で、
「いや、それはまずいよ。今までの環境が激変してしまう。ここは我らだけで何とかしよう。もちろん帝女陛下も助けてくれますよね!?」
と、お願いするような視線を向ける。
それを遠目から見ていたアンソニーは、
『これこれなんだよね。エドワードの必殺技!』
と、自分でも満更ではないと言った表情を隠した。
アンソニーが見破ったエドワードの必殺技に、帝女はまんまと引っかかった。
その視線に満足したようにうっとりしながら、
「あなたがそう言うんなら」
と、わざと区切り、
「助けてあげてもよくってよ」
と言い終わったかのようだが、素早く、
「でも、あなたがお願いすれば」
と、もう一度区切り、
「の、話だけどね!」
と言ってから、エドワードの横顔を見ようと、自分の向きを変え横目の視線を送った。
そして確かにエドワードは帝女の方に真っ直ぐ見ているのだが、彼女は横から見ているような、客観的視野から彼を見詰めている。
「帝女陛下! 私の○○の帝女陛下」
と、エドワードは、この○○の部分が聞こえないほど小さな声で言い、
(帝女は○○の部分を聞き返そうとしたのだが、それよりも早くエドワードが)
「心からお願いします。我ら人間族をお助けください!」
と、言うものだから帝女も返答しなければならず、
「分かったわ。あなたがそこまで言うのなら! アブラム! アラゴ! この者の配下となって働きなさい! これは私、フランソワーズ・ガブリエル・ザ・サウスドラゴン帝女の命令なるぞ!」
いつの間にか二人になっていたアブラムとアラゴが、平伏し、
「畏まりました!」
と、命令を受託した。
その光景を備に見ていたアンソニーは笑いたくなって、でも必死に堪えて、お腹を痛くしていた。
そのアンソニーが護衛兵と学院兵とに作戦の説明をし出した。
「重要なのが広範囲魔法攻撃と、直接的魔法攻撃だ。だが、接近してくる骸骨集団には力戦兵士諸君の働きが重要である。大盾と棍棒を持って粉砕してくれ!」
戦闘についての質問がなかったため、これで終わろうとしたとき、ラーラが、
「どうして今じゃないんですか?」
と、食いついてきた
アンソニーは真面目な顔で、(エドワードと違って根っから真面目です)
「この部隊といえどもあの骸骨軍勢を一手に引き受けたら壊滅します、し、逃げ場まで失います。では、救援に行かない理由、それはこの部隊が伏兵としての価値があると言うことです。軍大将の主力に吸収されては、その価値も失います。これで良いかしら?」
ラーラにはまだ言いたいことがあった。
「でも、エドワードは……」
と、言いかけたときアンソニーは遮り、
「それは個人的な話でしょ。今は駄目よね」
と区切ってから、
「他になければ解散します。各自、何時戦闘が始まっても良いように準備なさい」
作戦指示が終わったアンソニーに、帝女だけが近寄ってきた。
その何時もと違う雰囲気で、真面目な話だと察したアンソニー、
「場所を変えましょうか?」
「その必要は無いわ。秘密裏の話でもないし、ただ、あいつらは理解しないだろうって事くらいだしね」
「そう言うと、今度の作戦についてね。あなたの見立てではどれほど強いの?」
「かなりよ。何しろ竜族の村、そして城塞都市まで滅ぼした程よ。人間なんかがどうかできる相手じゃないわ。それに……」
と、何時もの切れ味を無くし、歯切れが悪く、
「それに、確信は持てないんだけど、あいつら生気を吸ってさらに強くなるみたいなのよ。だから、竜族を襲ったときより強いのかもしれないわね」
それには淡々とアンソニーが、
「だから、私たちでは勝てないと?」
「そうよ。でも、この作戦には賛成よ。でもね、引き際を弁えて欲しいの。私が合図したら、出来るだけ速やかに撤収して欲しいの。でないと、被害が拡大しちゃうから」
「から? そうなったら帝女陛下に都合でも悪くなるのね?」
「べ、別に悪くはならないけど、あなたたちのためじゃない。良いこと、話したからね。それとこれはエドワードには内緒だからね。喋ったら厳罰よ!」
それにはアンソニーも不思議になって、
「え? どうして? あなたの発案だって言えば追加点なのに」
「どうしてもよ。だいたい、言っても聞かないでしょ!」
と、言いたいことを言いきって帝女はその場を後にした。
それを見送ったアンソニー、『確かにエドワードのことを分かっている』と頷いた。




