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5 守るべき少女③力加減

「げふぁっっ……!!」


 チンピラが血とゲロを吐いて倒れた。

 

 いや、違う。

 

 チンピラの腹部に、大きな風穴が開いている。

 大穴は広がり、チンピラの身体を上下に分けた。

 上半身だけがトンボを切って前に落ちる。

 腸をばら撒きながら、上半身が地面に転がった。

 ついで、下半身がどしゃっと倒れる。


「これでいいのでしょう?」


 と、ルディア。

 肘を後ろに打ち込んだままの姿勢である。


 体術としては未熟。

 というか、訓練していない。

 ただ、後ろに肘を突き出しただけだ。

 それが、これだけの威力を発揮したのだ。


 褒めてほしそうな顔で見てくるルディアに、


「やりすぎだ、ルディア」


 嘆息まじりにそう答える。


「ええっ、そうなのですか?」


「まあ、べつにいいけどな」


 強盗を返り討ちにしても罪には問われない。

 むしろ、どっちかといえば褒められる。


 それに、片方は魔剣を抜いていた。

 もう片方は、ルディアを人質に取った。

 この時点で、相手の生死は不問となる。

 ただのナンパが強盗に変わったわけだからな。


 ただ、


「誰も見てなかったからいいようなもんの……。

 人目があったら大騒ぎになってるぞ」


 幼い少女が素手で男の腹に風穴を開けた。

 間違いなく騒ぎになるだろう。


(罪には問われなくても、素性は問われる)


 ルディアの素性は隠したい。

 知られれば、好奇の目を向けられる。

 いや、


(それだけで済めばまだマシだ。

 場合によってはこの街にいられなくなる。

 下手をすればどこの街にも、な)


 そうなっては、「母親」との約束が果たせない。

 こいつが生きていける場所がなくなってしまう。


「こういう時は、相手を殺さない範囲で、な。

 自分が危なかったら殺してもいいが……

 なんていうかな。普通に殺してくれ」


 われながら、無理のある言い分だ。


 ルディアが小首を傾げて聞いてくる。


「普通に、とは、どのようにすれば?」


「そうだな。

 身体がちぎれ飛ぶのはアウト。

 ブレスで焼き尽くすのもアウト。

 頭を強打して死ぬくらいなら構わない。

 怪我させて動けなくするのがベストだな」


「難しいものですね」


「要は、力加減の問題さ。

 普通の人間は、ルディアほどには力がない。

 力を半分くらいに抑えてくれ」


 それでも相当なもんだと思うけどな。

 ハラワタがドパァン!みたいにならなきゃいい。

 外見さえ常識の範疇なら誤魔化しが利く。

 たとえ中身がぐちゃぐちゃでもな。


(こんな歳の子に教えることじゃないんだが……)


 猫が鼠を捕まえるようなもんだ。

 悪気はないが、鼠からすれば恐ろしい。

 そして、人間とは鼠の群れなのだ。


(少なくとも、彼女たちから見れば、な)


 人を殺すな、と言うつもりはない。

 俺だっていくらも殺してきた。

 さっきのチンピラだってそうかもしれない。


 ルディアの置かれた状況を思えば、


(下手に押さえつけるのも避けたいとこだ)


 いざって時にためらうようでは困るからな。


 だが、彼女がそんな俺の想いを知るわけもない。

 ルディアは、明るい笑みを浮かべてうなずいた。


「力は半分、ですね。かしこまりました!」


「人間相手には、ってことだからな。

 魔物が相手なら全力でいい。

 魔剣士が相手でも全力だ」


「あの、その方は魔剣士だったのでは?」


 ルディアが、俺が倒したチンピラを指差した。


「俺は手加減の仕方を知ってる。

 こいつは魔剣士としては下の下だったしな」


 魔剣を抜いた時点で殺してもよかったのだが。

 騒ぎになるのを嫌ってやめたのだ。


 だが、ルディアが一人やってしまった。


(それなら同じことだったか。いや……)


 片方だけを生かしておくのは始末が悪い。

 くだらないメンツに頼って生きてる連中だ。

 相方を殺されて、黙っているとは思えない。


(こいつはルディアの一撃は見てないが……)


 俺がやったと思って復讐を考える可能性はある。

 脅威にはならないが、面倒ごとはごめんである。


「しょうがない、念のため隠蔽しとくか」


 俺は左手を、倒れたままのチンピラに向けた。


 その時だった。


「――待ちなさい!」


 その声は、俺の頭上から聞こえてきた。

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