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4 守るべき少女②魔剣

「舐めてっと痛い目遭わせんぞ、コラァ!」


 魔剣を抜いて、チンピラが言った。


 チンピラ――いや、魔剣士だ。


 どれだけ品性がなかろうと。

 魔剣を握った以上は、魔剣士だ。


 俺の両目がすうっと細くなる。


 気圧されたように、チンピラが半歩後じさる。


(ふん、いい判断だ)


 俺は内心で褒めてやる。

 だがチンピラは、続いて最悪の判断をした。


「ぐっ……なんだテメエ……!

 魔剣も持ってねえ奴に俺が負けるかっ!」


 口で言いつつも、チンピラの足は震えていた。

 身体が、格の違いに怯えてる。

 頭は空っぽでも、身体が感じることもある。


 だが、こいつは身体の忠告を無視してしまった。

 イキがることしか能のない頭が、

 本能の感じた怯えを振り切ってしまったのだ。


 チンピラが剣に向かって叫ぶ。


「火よ纏えッ!」


 ぼうっ……と音を立て、剣から炎が噴き出した。

 炎が、剣にからまり燃え盛る。


「へっへへ……こいつがあれば無敵だ……っ!」


 チンピラが、炎に魅入られた目でそう言った。


(こいつ……もう堕ちかけてんじゃねえか?)


 魔剣が与える強さには、抗いがたい魅力がある。

 魂が惹かれると言っていい。

 こいつは明らかに、手に入れた力に溺れてる。


 だが、


(この程度の力に溺れてるようじゃな)


 俺から見れば、チンケな火だ。

 それでも、一般人を脅すには十分だろう。

 問題なのは、俺が一般人じゃないってことだ。


(まとい)の制御が不安定だな。

 ほとんど素人だ。

 覚えたばっかって感じだな)


 俺は思わずため息をこぼす。


「な、なんだその反応は!?」


「魔剣士になる時に誓わなかったか?

 その力を人々のために使うって」


「う、うるせえ!

 俺に説教してんじゃねえ!

 や、やっちまうぞ……!?

 謝るんなら今のうちだ……!」


「ふん、ブルってんじゃねえよ。

 斬る覚悟がねえなら魔剣を抜くな。

 こっちこそ言ってやる。

 謝るなら今のうちだ」


「んだと!? テメエ、この……!」


「やるならさっさとやれよ。

 この後ショッピングの予定なんだ」


「っざけやがって!」


 チンピラが踏み込む。

 チンピラが炎の剣を振り下ろす。


(遅すぎる。ったく、完全に素人じゃねえか)


 こんなのを魔剣士にするとは。

 ファイアナイトの連中は何を考えてんだ?


 と、考える間に、炎の剣が俺に迫る。


 どうとでもしようがあった。

 そのせいで、かえって迷ってしまった。


 だが、そんな迷いは一瞬のこと。


 俺は、炎の剣に向かって左手を伸ばす。


 無駄の多い動きで振り下ろされる炎の剣。

 その燃え盛る(やいば)を、指先だけでひょいとつまむ。


「なッ……!?」


 チンピラが絶句した。

 チンピラは慌てて剣を引こうとするが、


「な、なんだ!? ビクともしやがらねえ!」


 俺に指先でつままれた剣は動かない。

 剣が纏う炎も、俺の手を焦がすことはない。


「おまえには過ぎたオモチャだったな」


 指をひねった。

 それだけで、チンピラの手から剣が抜ける。

 剣を包む炎がかき消えた。

 俺は剣をつまんだまま、


「てめえは寝てろ!」


「ぐがっ!」


 指先だけで魔剣を振り抜く。

 魔剣の柄が、チンピラのこめかみを強打した。

 チンピラ、昏倒。

 間抜けな表情でどしゃりと崩れる。


「う、動くな!」


 そう叫んだのは、もう一人のチンピラだ。

 

 こっちは、魔剣を持ってない。

 代わりに、ルディアを後ろから抱えてる。

 手にしたナイフをルディアの喉に突きつける。


「ふん、ゴミみたいな魔剣よりは有効だな」


「へっ、こちとらこの街の裏で生きてきたんだよ!

 魔剣持ちをやっちまうとは大したもんだがな!

 人質がいればどうにもなんねえだろうが!」


 チンピラが歯を剥き出しにしてそう言った。


(どうにもならん……ねえ)


 本当にそう思うなら、魔剣士を舐めすぎだ。

 と、思って、ようやく気づく。


(そうか。今の俺は魔剣士の格好をしてなかった)


 なるほど、道理で喧嘩を売られたわけだ。

 魔剣士に喧嘩を売る奴なんてそうはいない。

 それがダークナイトならなおさらだ。


 今の俺は、黒いシャツと黒いズボン。

 黒い外套を羽織り、黒いブーツを履いた格好だ。

 もちろん、魔剣は提げてない。


「なるほどな。これからはこんなこともあるか」


 見た目で恐れられたことは山ほどある。

 だが、見た目で侮られたのは久しぶりだ。

 修行前、ガキだった頃以来だろうか。


「何遠い目してやがる!

 クソがっ! このガキは諦めてやる!

 だが、代わりに有り金全部ここに置いてけ!

 それで筋を通したってことにしてやるよ!」


「どんな筋だよ。

 だいたい、合意の上だったんだろ?

 ナンパが強盗にランクアップしてるぜ?」


「うるせえっ!

 一人やられて引き下がれるかっ!」


「やれやれ。賢明とは言えない選択だな」


 俺はつまんだままの魔剣をぴょこぴょこ振った。


 ルディアを傷つけずにこいつを倒す。


 もちろん、そんなのは簡単だ。


 が、俺が指で魔剣を投げようとしたところで、


「ええっと、悪い人には抵抗する、でしたね?」


 ルディアが言った。


「あ、いや、待て。抵抗って言ってもだな……」


 俺は慌てて制止しようとするが、


「じゃあ……えいっ!」


 かわいらしいかけ声とともに、


 どぐぉっ!


 というエグい音と、


「げふぁっっ……!!」


 チンピラの苦鳴が重なった。

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