2 七剣の都セブンスソード
拝剣殿を出ると、降り注ぐ陽光が目に沁みた。
「まぶしっ」
ダークナイトの拝剣殿の中は薄暗い。
そうしようと思って暗くしてるのではない。
拝剣殿に染み付いた、ダークナイトの力。
それが暗い空気となって拝剣殿を満たすのだ。
「いつもと同じ……はずだけどな」
ダークナイトの道を捨てた。
その上で拝剣殿を出ると別の感慨が湧いてくる。
「セブンスソードは今日も平和だ。
俺の人生の節目になんて気づきもしねえ。
ずっと守ってきたのにな」
拝剣殿は丘の上にあった。
七剣の都セブンスソード。
その周囲を囲む七つの丘。
それぞれの上に、計七つの拝剣殿がある。
ファイアナイト。
アクアナイト。
ウィンドナイト。
アースナイト。
サンダーナイト。
ホーリーナイト。
ダークナイト。
拝剣殿には、それぞれの魔剣士のギルドがある。
ギルドには、それぞれの代表者がいる。
ダークナイトの代表は、さっきのリィンだ。
あんな泣き虫だが、リィンはやり手で通ってる。
(もう俺がいなくても大丈夫だろう)
俺はSランクの魔剣士だった。
闇の拝剣殿の元・最強戦力である。
そう言うとすごいようだが、そうでもない。
(いや、すごいことはすごいんだが)
ランクは実力と実績で決まる。
中でもSランクは、Aランクまでとは別格だ。
Sは、相応しい者がいなければ空位のままだ。
決して名誉職の類ではない。
だが、
(Sにふさわしい仕事なんざ、滅多にねえからな)
Sランクでないと解決できないような事態。
そんなものがしょっちゅう起こっては大変だ。
大半の問題は、Aランクがいれば事足りる。
(Sランクなんて、所詮はギルドの飾り物さ)
魔剣士には跳ねっ返りが多い。
血気盛んな魔剣士に睨みをきかせる。
そんな程度の役には立つけどな。
「ここからの眺めも見納めか」
丘の上から街を眺める。
丘からは、まっすぐな長い石段が下ってる。
その下に、煉瓦の屋根がひしめいている。
「相変わらず、ごちゃごちゃしてんな」
街並みは、七つの丘の谷間を縫って広がってる。
丘に圧迫されて、谷間の空間は限られてる。
路地は狭く、入り組んでいてわかりにくい。
「シワの寄ったハンカチみたいな街だ」
ただし、そのハンカチはかなり大きい。
丘の上からでも、反対の端が見えないほどにな。
魔剣士の集う街だけに諍いも多い。
そんな猥雑さも、この街の魅力の一つではある。
「ダークナイトをやめてどうなるかと思ったが。
案外、さっぱりしたもんだな」
結局、祀り上げられていただけなのだ。
魔剣士の本性からは逸脱してる。
これで、本来あるべき姿に戻った。
そう思えば、さっぱりするのも当然だ。
「って、あいつはどこ行ったよ。
外で待ってろって言ったのに」
拝剣殿のそばに、連れの姿が見当たらない。
「まさか……」
嫌な予感がした。
あいつは世間知らずだ。
そのくせ、見場だけはいい。
それでも、まだ女と言うのは早いだろう。
だが、だからこそ狙われやすい。
「セブンスソードでは人身売買は禁止されてる。
でも、奴隷狩りなんてどこにでもいる。
女を娼婦に落とすクズどももな」
俺は気配を探った。
このくらいのことに魔剣はいらない。
感覚の網を広げていく。
特徴的な気配がすぐに見つかる。
そのすぐそばに、トラブルの気配も感じ取った。
石段の下、街のほう。
入り組んだ路地の奥である。
「ったく、世話の焼ける」
俺は石段を跳び下りる。
踊り場から踊り場へ。
さらに下の踊り場へ。
音もなく飛び、音もなく着地する。
「すまん、通るぞ」
「うぉっ、危ねえな!」
商人風の男が、仰け反りながら毒づいた。
ほんの数秒で、俺は石段を降り切った。
煉瓦色の屋根が、目線より上の高さにある。
「急がねえと、大変なことになる。
主に相手が……だけどな」
表通りを駆け、途中で路地へと滑り込む。
込み入った路地をいくつか曲がると、
「ナイン!」
幼い顔を輝かせ、美少女が言った。