21 ホーリーナイトはじめました②魔剣とは
「基本ってことは、纏と巡か」
ホーリーナイトの拝剣殿、中庭。
訓練場として整えられた場所だ。
俺の隣にはルディア。
向かいにはサリーが立っている。
肩までの亜麻色の髪が風になびく。
「ええ。ナインは当然ご存知でしょう。
ダークナイトでも同じですよね?」
「聞く限りではそうだな」
「あの……纏?と巡?というのは……?」
ルディアが眉根を寄せて聞いてくる。
「ああ、悪い。
俺のはダークナイトの流儀だからな……」
「わたしから説明します。
そのための担当なのですし。
ダークナイトとは違いがあるかもしれません。
ナインも聞いててくださいね」
「わかった……じゃない、わかりました」
「わかりました。お願いします」
うなずく俺とルディア。
サリーが咳払いをして説明を始める。
「まず、魔剣とは何か、ですね。
ルディア、魔剣とはなんでしょう?」
「えっ、魔剣、ですか……。
竜を倒すと手に入るすごい剣、ですよね?」
「半分正解、というところですね。
では、魔剣の何がすごいのか説明できますか?」
「ええっと、火が出たり水が出たりするはずです」
「火は、火打ち石でも起こせます。
水は、井戸から汲んでもいいでしょう。
魔剣はそれらと同じなのでしょうか?」
「う、うう……?」
サリーの追及に、難しい顔で黙り込むルディア。
「ナイン、どうですか?」
「そうだな。
ある意味では同じだろう。
火が欲しいだけなら、火打ち石を使えばいい。
水が欲しいだけなら、井戸から汲めばいい。
目的のための手段と考えれば同じことだ。
そっちの方が、魔剣より便利で安全ですらある」
「では、違いは?」
「魔剣は、持ち主の魔力を使って現象を起こす。
それも、激烈な現象を、だ。
その威力は、魔剣の危険さを補って余りある。
だから、魔物退治に使われるんだ」
「さすが、模範的な回答ですね。
話が早くて助かります、ナイン」
「あの……
魔剣は持ち主の魔力を使うのですよね?
それでは、魔剣に魔力はないのですか?」
ルディアがおずおずと聞く。
「いい着眼点です、ルディア。
そう、魔剣そのものには魔力はありません。
魔力はあくまでも持ち主のもの。
その魔力を引き出すのが魔剣なのです」
「魔剣には属性がありますよね?
ということは、魔力にも属性があるのですか?
たとえば、聖竜が光属性であるように」
ルディアの質問は際どかった。
ちょっと慌てたが、サリーは気づかず答える。
「竜のことはさておくとして。
魔力そのものには属性はないとされています。
魔剣は、持ち手の魔力を現象に変えます。
その時に、魔剣に応じた属性がつくのです」
「現象に属性がつく、ですか」
半わかりのルディアに俺が言う。
「そうだな、ルディアが火の魔剣を使うとしよう。
魔剣は、握り手の魔力を引き出し現象を起こす。
だが、起こせる現象は火に関するものだけだ。
いくら魔力を込めても水は出せない」
「でも、水の魔剣に持ち替えれば水が出せます。
ナインは実際に魔剣を持ち替えました。
それができたのは、魔力に属性がないからです」
と、サリーが補足する。
「魔物や竜には属性がありますよね?」
「正直に言えば、詳しいことはわかりません。
ただ、亜竜以上の竜は魔剣を落とします。
体内に、魔剣と同じ仕組みがあるのでしょう。
自らの体内で、魔力を属性現象に換えるのです」
「正確には、逆だろうな。
魔物の体内の何かが、死後に残って魔剣になる。
そういうことなんだろう」
魔物や竜。
この言葉も、一般には曖昧に使われてる。
もちろん、ちゃんとした定義もある。
だが、今説明するのはやめておこう。
一遍に教えるとルディアが消化できないからな。
「なるほど……。
魔剣は、魔物の体内の仕組みの残留物。
魔剣士は、その仕組みを利用して戦ってる……」
「その通りです。
ルディアは頭の回転が速いですね。
複雑なので、呑み込めない人も多いのですが」
「お母様の薫陶の賜物です」
「お母様……?」
首をかしげるサリー。
俺は慌てて話を逸らす。
「纏と巡の話に戻りましょう」




