表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークナイトはやめました  作者: 天宮暁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/46

18 竜鱗②

「苦しいのかっ?」


 問いかけに、ルディアがこくこくうなずいた。


(といっても、わけがわからん)


 ルディアの胸の中心に、白銀の竜鱗があった。

 三枚の竜鱗が、白い肌に食い込んでいる。

 聖竜ハルディヤの竜鱗だ。


(ルディアは幼い頃に奴隷にされ、運よく逃げた)


 奴隷にされた時点で運も何もないのだが。

 ともあれ、ルディアは逃げ出した。

 

 ルディアは、その後も強運だった。

 逃げた先で、保護されたのだ。

 心優しき聖竜に。


 聖竜は、ルディアに自分の(うろこ)を分け与えた。

 今鱗がある場所には奴隷の烙印があったらしい。


(幼い子の心臓の上に烙印か……)


 想像しただけで吐き気がする。


(俺がその場にいればな)


 そいつに生まれたことを後悔させてやったのに。


 ハルディヤは、烙印をえぐりとった。

 ルディアに同情してのことだ。


 だがそれで、ルディアが死にかけたらしい。

 聖竜には人の身体の脆さがわからなかったのだ。

 

 ハルディヤは慌てて、自分の鱗を分け与えた。

 そのおかげで、ルディアは一命を取り留めた。


 だが、人の身に竜鱗の力は強すぎる。

 それ以来、ルディアは副作用に襲われた。

 それを鎮めてくれたハルディヤはもういない。


 全部、正気を取り戻した聖竜から聞いたことだ。

 時折、ルディアが発作に襲われることも。

 そして、その対処法もな。


「待ってろ」


 俺はしゃがみこみ、自分の影に手を伸ばす。

 ずぷりと、手が影に沈んだ。

 影の中で剣の柄を握り、手を影から抜き出した。


 俺の手には、一振りの魔剣が握られている。


 聖剣ハルディヤ。

 聖竜の遺骸から回収した光の魔剣だ。


 すらりと長く美しい刃は白銀。

 刀身は白金で縁取られ、(ダガー)の形をしている。

 優美だが華美ではない上品な(つば)

 柄は手に馴染む曲線を描いている。


 息を呑むほどに美しい剣だった。


 ダークナイトだった俺には、この剣は扱えない。

 いや、ホーリーナイトになった今でも無理だ。

 魔剣の格が高すぎるのだ。

 格の高い光の魔剣を聖剣と呼ぶ。

 鑑定してないが、間違いなくこれは聖剣だろう。


『そ、それは……!?』


 唐突に、俺の腰から声がした。

 今日安息所で抜いてきた、折れた魔剣の声だ。


「おまえか。今は取り込み中だ」


『凄まじい剣ではないか。

 美しく、高貴で、力強い』


 魔剣の感嘆の声はとりあえず無視だ。

 俺は、聖剣をルディアの胸の上に優しく置く。

 聖剣から淡い光が(あふ)れ出た。


「うっ、くっ……」


 ルディアがうめく。

 青白かった顔がわずかによくなる。

 激しい動悸も少しだけだが落ち着いた。


 だが、


「……効きが悪いな」


 道中でも同じことがあった。

 その時はもっと早く収まったのだが……。


『凄まじい剣だが、それだけでは限界があろう』


「何かわかるのかっ?」


『簡単なことだ。

 ホーリーナイトの治癒の剣を使え』


「やったことがないぞ」


『われが教える。

 右手にその剣を、左手にわれを握れ』


 俺は左手を魔剣に伸ばす。


 だが、引き攣れたように手が止まる。


「くっ……」


 俺は歯を食いしばって手を無理やり動かした。

 指先が魔剣に触れる。

 手のひらが痺れるような感じがした。

 それを無視して握ると、今度は腕が震え出す。

 俺は、意志の力で、左腕の震えをねじ伏せた。


『むう、おまえ……まさか……

 いや、そんなことが人間にできるはずが……』


「……今はそのことはいい。

 治癒の剣を教えろ」


 治癒の剣。

 ホーリーナイトの使う、治癒の術だ。


 魔剣は、それ以上追及しなかった。


『両方の剣を娘の胸に置け。

 そうだ。

 われが手本を見せる。

 魔力だけ寄越せ』


「わかった」


 俺は折れた魔剣に魔力を送る。


『ぶはっ!? 多すぎるわ! 半分でよい!』


「す、すまん」


『そう、これで十分だ。

 では見ていろ。感じ取れ』


 折れた魔剣から青白い光の雫が零れ出す。

 液体のようにとろりと、雫が白い胸に垂れる。

 だが、その光は、竜鱗に弾かれ霧散した。


『やはり、その魔剣でなければ無理なようだ。

 今やったのと同じことをその魔剣でやってみよ』


「むちゃぶりだな……」


 ホーリーナイトの秘伝を一発で覚えろとは。


『おまえにならできよう』


「……やってみるさ」


 今の感覚を思い出し、今度は聖剣に魔力を送る。


 聖剣から、光の雫が零れ落ちる。

 雫は、竜鱗に馴染み、その奥へと染み入った。

 ルディアの様子が目に見えてよくなった。


「どうだ、ルディア?」


「はぁ、はっ……ふぅ……。

 ありがとう、ござい……ます」


「礼はいい。まだおかしなところはないか?」


「ええと……ほとんど鎮まりました。

 汗をかいて気持ち悪いですが、それだけです」


 無理してる様子はない。

 顔色がよくなり、呼吸も落ち着いてる。

 何より、魔力の乱れがなくなった。


「ふぅ……どうなるかと思ったぜ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ