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16 ホーリーナイトはじめます⑨仲間の印

「おっ、昼間の兄ちゃんか。

 無事ホーリーナイトになれたみたいだな」


 店に顔を出すなり、店主が愛想よく言ってきた。

 行きに立ち寄ったのと同じ武具店だ。

 サリーからもいい店だと聞いている。


「で、魔剣はどうしたよ?」


 目を輝かせて聞いてくる店主。

 俺は、腰に提げてた魔剣をテーブルに置く。

 根本から折れた魔剣に、店主が目を丸くする。


「折れて……やがんのか?」


「ああ。びっくりだろ」


 ちなみに、魔剣の自我は今は寝てるらしい。

 必要な時だけ覚醒すると言っていた。


(いい気なもんだ)


 だが、四六時中喋られるよりはマシだろう。

 ずっと黙っててくれりゃいいのにな。


「ふぅん。見る限り上物みたいだけどな。

 肝心の刃がないとは、奇妙なこともあるもんだ」


「だよな」


 普通、魔剣は折れたらその力を失うものだ。

 折れてなお生きてる魔剣なんて初めて見た。


 もっとも、魔剣がそう簡単に折れることはない。


(俺が本気になれば、折れるけどな)


 貴重だから、わざわざ折ったりはしないのだが。

 自分が使わない魔剣も、奉納すれば大金になる。


「ま、だましだましやってくさ」


「相変わらず新人離れした落ち着きだなぁ。

 で、そっちの嬢ちゃんもかよ?

 おまえの連れだとばかり思ってたぞ」


「俺もそのつもりだったんだが、見初められてな」


 もちろん魔剣に、だ。


「そのでかくてごっつい魔剣に、か?

 んなもん、嬢ちゃんの細腕で振れんのか?」


「振れますよ?」


 ルディアが言って、斜めに背負った剣を外す。


「ちょ、待て! ここでは振るな!」


 俺は慌てて制止する。

 柄まで合わせて、俺の身の丈ほどもある剣だ。

 こんなとこで振ったら大惨事になる。


「ひゅう! そんなもんを片手で軽々と……」


 店主が目をみはって口笛を吹いた。


「そんなわけで、こいつの装備も見繕ってほしい」


「もちろんいいぜ。

 そんだけ力があるなら、重い方がいいか?

 それとも、身動きを重視するか?」


「軽く動きを見たが、こいつは剣を全身で使う。

 かさばる鎧は邪魔になるだろうな」


「盾はどうする?

 剣は片手で持ててるみたいだが」


「持てるには持てるが、さすがに両手持ちだろう。

 かといって、新人だしな。一応は盾も試したい」


 ホーリーナイトの立ち回りは特殊だ。

 それを学ぶには盾があった方がいいだろう。


「つっても、盾だって安くはねえぞ?」


「金ならある」


 面倒になって、正直に言う。

 この店主は、ふっかけてくるような奴じゃない。


「おおっ、豪気だねえ、兄ちゃん。

 嬢ちゃんは、その剣を片手で振るんだもんな。

 盾もある程度重い方がいいだろう。

 軽いと、身体のバランスが悪くなるからな。

 つっても、その剣ほど重い盾はねえが」


 店主が両手で抱えてきた盾を持ってみる。


「重いな……。

 ホーリーナイトはこんなのを使うのか」


「いや、さすがに普通は使わんよ。

 嬢ちゃんならもしかしてと思ってな」


 促され、俺は盾をルディアに渡す。

 ルディアは片手で剣を抱えて盾を受け取る。


「はい。問題ないです。

 もう少し重くてもいいですね」


「マジか」


 ルディアは片手で軽々と盾を上下した。

 ずっしりしてるはずの盾が、まるで鍋の蓋だ。


「他の武具はどうするよ?」


 店主が、飾られた胸甲や手甲、脚甲を目で示す。


「ええと、ナインと同じものがいいです」


「かぁーっ、お揃いってわけか!

 愛されてるねえ、旦那!」


 店主が目に手をぴしゃりと当てて言った。


「いや、旦那じゃないんだが……」


 店主が俺のと似たデザインの武具を持ってくる。

 サイズはルディア向けに小さめのものだ。


「よくこんなサイズが合ったな」


 ルディアは小柄だ。

 女性の魔剣士の中でも小さい方だろう。

 小柄な魔剣士は、一般的には軽装を好む。


「なに、子どもの訓練用のもんがあるのさ。

 といっても、モノはちゃんとしてるぜ?」


「それは見ればわかるさ」


 俺が手伝って、ルディアに装備をつけさせる。

 鎧兜は、最初は誰かに着けてもらうものだ。

 留め金がハメにくい所にあったりするからな。

 もっとも、慣れれば一人でも着けられる。


「どう……でしょうか?」


 ルディアがはにかんで言った。


 白で統一された鎧に、長い蒼銀の髪が映える。

 背は低いが、鎧に着られてる感はない。

 重量的にはまだ余裕があるんだろう。


(可憐な見習い美少女騎士って感じだな)


 背中にあるごっつい大剣を見なければ、な。


「なかなかどうして、似合ってるじゃねえの」


 店主も同意見のようだ。


「羨ましいねえ、恋人同士で魔剣士とは」


「いや、そういうんじゃ……」


「お揃いは嬉しいです。

 体色が同じだと、仲間だという感じがします。

 わたしもナインと同じ別の人になれました」


 ルディアが笑顔で言ってくる。


「んん?」


 店主がけげんそうな顔をする。


「あ、いや。いいものを見繕ってもらったよ。

 ありがとう」


「なになに。これが商売だからよ。

 これからもひいきにしてくれよな」


 ニッと笑う店主を残し、俺たちは店を後にした。

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