15 ホーリーナイトはじめます⑧サリーの忠告
「ナインの魔剣については調査しておきます」
受付に戻り、サリーが言った。
「メリーアン代表には挨拶しなくてよかったか?」
「報告はわたしから。
代表でもその剣については知らないでしょう。
実は今、代表はお忙しいんです。
聖竜討伐の時の痛手で、七剣はどこも人手不足。
適正のある人が急に見つかったりはしませんし。
といって適正のない者を魔剣士にはできません」
聖竜、と言われて、ルディアが身を硬くした。
(そのことについてはもっと話し合わないとな)
同時に、もう一つ気になった。
適性のない者を魔剣士にって話だ。
ルディアに絡んできた魔剣士のことを思い出す。
(人手が足りなくて、あんなのまで魔剣士に?)
いくら手が足りなくても、それは危険だ。
「どうもキナ臭いな……。
実力も覚悟もない魔剣士が増えるのはマズい」
「そうですね。
ここではしっかり選別しています。
でも、他の拝剣殿ではどうなのか……」
サリーが暗い顔で言った。
「堕ちる魔剣士が増えないといいんだが……」
魔剣を使うには、危険が伴う。
魔剣の力に呑まれてしまう可能性があるのだ。
そのことを、拝剣殿では「堕ちる」と言う。
堕ちた魔剣士は、多くの場合正気を失う。
魔剣士が暴れまわる危険は言うまでもない。
「そうですね。ナインも注意してください。
ホーリーナイトにはなりたてなんですから」
「ああ、わかってる」
以前は、堕ちた魔剣士の「対処」もしていた。
人対人は、魔物相手とはまた違う強さが必要だ。
(狩る側の安全を確保する必要もあるしな)
俺の出番が多かったのはそのためだ。
「ここに来る途中でファイアナイトにからまれた。
なりたてみたいだったが、まるでチンピラだ」
「やはりあそこですか……。
火の拝剣殿は、魔剣士を積極的に増やしてます。
聖竜との戦いで犠牲が多かったですからね。
焦りもあるんでしょう」
「七剣と言っても、仕事は取り合いだからな」
魔物の討伐。
落ちた魔剣士への対処。
市警の治安維持への協力。
七剣の仕事は、基本的にかぶってる。
かぶった仕事は取り合いだ。
魔物の種類による向き不向きはあるけどな。
「ですが、魔剣士の質が落ちるのでは本末転倒です。
その件では、ナインは特に注意してください」
「なぜだ?」
「聖竜を討ったのがあなただからです。
そのことで、ダークナイトの株が上がりました。
あなたがいたおかげで、犠牲も少ない。
七剣で今一番勢力があるのはダークナイトです」
「ああ……そうなるのか。
でも、どうしてそれで俺に危険があるんだ?」
俺の言葉に、サリーがため息をついた。
「ナインくらい隔絶してると自覚がないのですね。
逆恨みですよ。
あなたは妬みを買っている立場なのです。
とくに、火の関係者には注意した方がいいです」
「逆恨み、か」
昼のは偶発的な事件だと思うが。
あのチンピラに、そんな計画性はないだろう。
(俺一人ならなんとでもなるんだけどな)
今はルディアもいるのだ。
注意するに越したことはない。
「忠告ありがとう。助かるよ。
これからも何か気づいたら言ってくれ。
よく、世間知らずだって言われるんだ」
「ふふっ、そんな感じはしますね」
サリーが笑ってうなずいた。
「訓練は明日からでよかったですか?」
「よろしく頼む。今から楽しみにしておくよ」
「初等訓練が楽しみなんて人は初めてです。
どこもそうですが、初めはすごく厳しいので」
「魔剣士としての覚悟を問うため、だな」
「そうです。
あなたに関しては今さらでしょうけど……。
もちろん、ルディアも参加しますよね?」
「はい。よろしくお願いします」
そう言ってルディアが頭を下げる。
「もっと気楽にしてもいいんですよ?」
「気楽……ですか?
わたしの言葉遣いはおかしいでしょうか?」
「おかしくはないです。
あなたの年頃にしてはしっかりしてます」
「ええと、それは悪いことなんですか?」
「うーん……そうじゃないんですけど」
サリーが困ったように俺を見た。
「ルディアは育ちがいいからな。
礼儀がしっかりしてて、古風なんだ。
べつに、サリーを敬遠してるわけじゃない」
「そういうことなら……。
丁寧なのは悪いことではないです」
サリーがうなずく。
「浮世離れした子でな。
それとなく目をかけてやってくれると助かる。
女同士じゃないとわからないこともあるだろ?」
「ナインも十分浮世離れしてると思いますけどね。
こんなかわいらしい子の世話なら喜んで」
サリーが微笑んで言ってくれる。
「あの……どういうことなのでしょうか?」
ルディアの顔にはまだ疑問符が浮かんでいた。
その頭を軽く撫でる。
「おいおい慣れるさ。急ぐことはない」
「……はい」
目を細めながら、ルディアがうなずいた。




